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思春期の娘育てるシングルファーザーの孤独「相談先がない」 孤立救ったのはSNS
娘との時間を過ごす坂井さん(本人提供)

思春期の娘育てるシングルファーザーの孤独「相談先がない」 孤立救ったのはSNS

「ひとり親」になる理由として、圧倒的に多いのは離婚だ。厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」によれば、ひとり親世帯になった理由について、母子世帯の80.2%、父子世帯の76.3%が「離婚」となっている。

坂井浩一さん(49・仮名)も離婚してシングルファーザーとなった一人だ。現在は難聴の障害をもつ中学生の娘と二人で暮らしている。

年頃の女性事情にくわしい父親はそういない。しかし、わからないからと相談しようにも相談先が乏しい現実がある。坂井さんも自身の経験から、「もっとシングルファーザー向けの公的な相談窓口が欲しい」と口にする。

現在はシングルファーザーから相談を受ける側として活動する坂井さんに、シングルファーザーの生きづらさを聞いた。(編集部・若柳拓志)

●7年間の家庭内別居を経て離婚

坂井さんは2016年に元妻と離婚した。結婚生活19年、そのうち最後の7年間は家庭内別居したうえでの結論だった。どちらかが浮気したなど明確な離婚原因があったわけではなかったという。

元妻には結婚当時、生後6カ月の息子がいたため、坂井さんは結婚と同時に「父親」となった。結婚後には、娘にも恵まれた。

離婚する際に、息子は坂井さんが引き取り、娘は元妻が引き取ることになった。

「娘は生まれつき難聴の障害をもっていて、『ろう学校』に通っています。離婚する際、娘は私について来たがりました。ただ当時は、毎日の送り迎えが必要だったため、仕事の都合で私が行くことは難しく、娘とは離れて暮らすことになったんです」

ところが、離婚から3年くらい経った頃、元妻から娘を引き取って欲しいという話があり、坂井さんは受け入れることにした。

息子はすでに成人して家を出ている。離婚当時とは異なり、娘を引き取れそうだと判断した坂井さんは、あらためて娘とのシングルファーザー生活を始めた。

●コロナ禍で退職「子どもを家に一人でいさせられない」

娘と写る坂井さん(本人提供) 娘と写る坂井さん(本人提供)

娘と暮らし始めてまもなく、新型コロナウイルス感染症が流行し、生活が激変した。

娘の通う学校が一斉休校となった。先の見えない状況で、難聴のある当時小学生だった娘を家にずっと一人でいさせるわけにはいかなかった。勤めていた会社に相談したものの、長期間休めば欠勤扱いになると告げられた。給料が出ないとなれば、当然生活に困る。

子どもの休校を理由に仕事を休む保護者に対する助成金制度などもあったが、今後の身の振り方を決意したタイミングと合わなかったこともあり、坂井さんは27年間勤めた自動車販売会社を退職することを選んだ。

「コロナ禍で会社の業績が厳しい状況だったというのもありましたが、しばらくの間、失業保険と退職金で暮らしていこうと思い、辞めました」

自動車整備士の資格と長年培ったスキルがある。学校が再開し、働きに出られる状況になれば再就職するつもりでの退職だった。

甘く考えていたわけではないが、再就職は難航した。シングルファーザーであり、夜遅くまでの就業は難しいこと、朝は子どもを送り出してから出社したいことなどを企業側にあらかじめ伝えると、面接にたどり着かないこともあった。

娘に何かあれば、始業時間に間に合わないこともあるし、中抜けしなければいけないこともある。時間を気にせず働ける人と比べれば、制約があることは否定しがたい。

それでも諦めなかった坂井さんは、幸いにして、自分にフィットする企業に出会うことができた。

「シングルファーザーであることを伝えると、極力定時であがっていいよと言ってくれる企業に再就職できました。私の事情に対して理解のある会社で、給料などの条件面も良く、とてもありがたいです」

多少夜遅くまで仕事することもあるが、すでに娘が中学生になっているからこその働き方だと思う。

「中学生だから、学校から帰宅しても少しの時間なら一人で大丈夫ですが、保育園に通っている年齢でしたら、今の働き方も無理でしょうね。小さなお子さんを抱えているひとり親に非正規で働いている方が多いのは、まさにその点だと思います」

●シングルファーザー向けの相談窓口は基本的にない

退職から再就職までの間、コロナ禍ということもあり家にいる時間が長かったが、娘との時間を多くとれたことは坂井さんにとって大きかった。

「娘は小学生のとき、いじめを受けました。2020年4月に中学校に入学してからも、学校に行けないことがたびたびあります。そうなると家にいる時間がより長くなりますので、その時間を一緒に過ごせたことは良かったと思っています」

思春期の娘とどう接するか、男親としては悩ましいことも少なくないが、坂井さんにとっては大切で貴重な時間だ。

とはいえ、女性特有の事情については持て余してしまうこともある。体つきの変化や生理などは、男性の坂井さんには当然未経験の世界であり、多くの男親同様、未知の世界だった。

そんな坂井さんを助けてくれたのはSNSで受けたアドバイスだった。

「体つきが変われば、下着も変えないといけない。でも、どういうものを買ったらいいのか全然わかりませんし、私が売り場に行って店員さんに直接聞くのもなかなかハードルが高いです。

そんなとき、SNSで悩んでいることを相談したら、皆さん親切で、色々と教えてもらえてとても助かりました。ネットで調べたりもしたのですが、やはり経験者に聞くのが一番だなと感じましたね」

坂井さんがSNSを頼ったのは、対面で相談できる場所や機会が乏しかったからでもある。

「シングルファーザーを対象にした公的な相談窓口というのは、まずないですね。シングルマザーを対象としたものは多くありますが。娘の成長に関する悩みも、どこに相談すればいいのかと常日頃から思ってます」

かといって、日常生活において、母親しかいないグループの中へ入っていくというのも、男親としては容易ではない。

「私はPTAの役員をやったことがありますが、他の参加者は母親ばかりですし、孤立しました。母親同士で固定したグループが既にできているんです。その会話の中に男一人で入っていこうとするのは非常に厳しい。性格的なところもあるとは思いますが、私はとても入りづらかったです。

もちろん、会話をしないわけではないんです。雑談などもしますが、子どもの成長の悩みなどを相談するには至りませんでした。公的な相談窓口があれば、というのは感じます」

●「児童扶養手当の受給要件、緩和してほしい」

坂井さんは今、ひとり親交流サークル「エスクル」に参加し、相談を受ける側で活動している。きっかけは、児童扶養手当を支給する対象を拡充してもらおうと活動していたことだった。

児童扶養手当は子を持つひとり親に支給されるが、所得制限がある。たとえば、子ども一人のケースでは、前年の所得が87万円未満なら全部支給、87万円以上230万円未満なら一部支給、230万円以上なら受給できなくなる。

厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」によると、父子世帯の受給率は51.5%で、約半数の世帯が受給していない。

児童扶養手当を受給できないことは、単に金銭的支援を受けられないだけにとどまらない。ひとり親を対象にした携帯電話の割引サービスや公共交通機関の割引、公共料金の減額などの多くは、児童扶養手当の受給を条件としており、これらの恩恵も受けられないことになる。

坂井さんはこの所得制限の緩和を求めて個人で活動し始め、その後参加した団体でも引き続き求めている。もっとも、児童扶養手当の受給に関する問題は所得制限だけではないと感じている。

「所得制限については『前年の所得』で判断されるので、前年の所得が一定額を超えていると、失業したとしてもすぐにはもらえません。私が失業したのは2020年3月ですが、これからようやく受給するという状況です。

そんなに長い間、受給を待てない方もいると思います。もっと迅速な支援をお願いできればと思いますね」

●発信ベタな男性もアクセスできる「コミュニティ作り」が大切

シングルファーザーから相談を受ける際、もっとも多いのは仕事関係の悩みだ。

「シングルファーザーは正社員の方が多いです。帰宅時間が遅いとき、子どもを1人で置いておけないけど、どうすればいいのかなどの悩みはよく聞きます。

無理なら非正規で働けばいいじゃないかと言われることもありますが、そうなると大抵は収入が下がります。経済的な不安を抱えている方も多く、そう簡単に決断できることではないです」

ひとり親と接すると、特に男性にみられる傾向を感じることもある。

「女性に比べ、シングルファーザーであるという自分の境遇を自らは周囲に伝えない方が多いように思います。隠しているわけではないんですが、聞かれなければ特に言わないというスタンスですね。

その気持ちはわかります。私もひとり親を支援する団体に参加していなければ、自分から発信したりはしないと思うので。そういう性格の方が男性には多いのではないでしょうか。

その性格自体に支障があるわけではありませんが、お互いが自分のことを発信しないことで、結果としてシングルファーザー同士が繋がりにくい状況になっているというのはあるかもしれません」

だからこそ、シングルファーザーが繋がりあえるコミュニティを作っていくことは大切だと坂井さんは考えている。

「私たちの知らないところで、悩んでいるシングルファーザーの方は大勢いると思います。発信されてないと、こちらからアクセスするのも難しい。

コロナ禍で面と向かった交流はなかなか厳しい状況ですが、そういう方々の目に留まるよう、同じような境遇の仲間がいることをこれからもアピールしていきたいですね」

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