今年7月以降、6月まで前年同月比で減少していた自殺者数が一転、増加している。
なぜ、自殺者数は増加したのか。厚生労働大臣指定法人「いのち支える自殺対策推進センター」の緊急レポート「コロナ禍における自殺の動向に関する分析(中間報告)」によると、7月の自殺者数増加は、俳優の三浦春馬さんの自殺報道が大きく影響している可能性が高いという。
10月21日に会見を開いたセンター代表理事の清水康之さんは「自殺問題に関わり20年ほどになるが、ここまで芸能人の自殺が相次いだのは記憶にない。自殺報道がとりわけ若い人たちに影響があることが分かってきたので、芸能人の自殺対策についても何かできないか検討している」と話した。
●レポートのポイント
・今年の自殺の動向は、例年とは明らかに異なっている
・今年4月から6月の自殺者数は、例年よりも減少している
・様々な年代において、女性の自殺は増加傾向にある
・自殺報道の影響と考えられる自殺の増加が見られる
・今年8月に、女子高校生の自殺者数が増加している
・自殺者数は、依然として女性よりも男性が多い
・政府の各種支援策が自殺の増加を抑制している可能性がある
●4〜6月の自殺者数が減少した理由
警察庁の統計(暫定値)によると、今年1月から6月までは前年の同じ月と比べて減少しており、4月と5月はそれぞれ前年同月比で−17.7%と−15.3%と大幅に減っていた。しかし、7月は+1.4%、8月は+15.7%、9月は+8.6%となっている。
なぜ、4月から6月の自殺者数は、例年よりも減少したのか。清水康之さんによると、社会的危機の最中や直後には、人々の死への恐怖や社会的連帯感・帰属感の高まりにより、自殺者は減少することが多くの研究で報告されているという。
センターは合わせてツイッターのつぶやきも分析。「コロナ」×「仕事を失う恐れ」「収入減少」「生活苦」に関するツイートは2月下旬に増え始めたが、4月上旬以降は次第に減っていった。「特別定額給付金」のアナウンスなどが生活不安を緩和させた可能性も「恐らくある」としている。
清水さんは「新型コロナによる死への恐怖によって、自身の命を守ろうとする意識が高まり、同時に命や暮らしを守るための具体的な施策にアクセスできるようになり、例年よりも減少した可能性がある」と話した。
●女性の自殺の増加が目立つ
7月以降は、女性の自殺の増加が目立っている。男女全体の自殺死亡率のうち、女性は20歳未満から60歳以上まで全ての年齢で上昇しており、中でも「同居人がいる女性」と「無職の女性」が自殺死亡率を引き上げている。
一般的に女性の自殺の背景には、経済的な問題やDV、育児や介護疲れなど様々な問題が潜んでいるが、清水さんは「自殺の背景に潜んでいる問題が深刻化していけば、おのずと自殺のリスクも高まる。自殺のリスクが低下するという見通しは持っていない。むしろ高まっていく危険性があるのではないか」と見通した。
自殺者数は、依然として女性よりも男性が多い状態が続いている。今年8月までの自殺者数(暫定値)の68%は男性で、40〜60代の男性が3割を占めている。
この点について清水さんは「男性の自殺が減っているわけではないので、対策を進める上でも押さえるべき」として対策の必要性を指摘した。
●自殺報道の影響は?
7月の自殺者数を日別に分析したところ、7月17日までは前年と比べて自殺者数が少なかったが、三浦春馬さんの報道があった18日以降の1週間に自殺者数が増加した。
今年7月18日の前後1週間を比較しても、総数や20代男性や30代女性などは、統計学的に有意に多かった。10代の男女においても増加がみられた。
自殺報道に影響されて自殺が増える現象は「ウェルテル効果」とも言われる。ただ、「7月後半以降も自殺の増加は続いており、自殺報道の影響以外の要因も考慮する必要がある」としている。
●8月に女子高校生の自殺者数が増加
8月には、女子高校生の自殺者数が増加しており、過去5年間でもっとも多い数字となった。
自殺相談には、女子中高生から「オンライン授業についていけない」「休校明けでクラスが変わり馴染めなくてつらい」「母親がずっと家にいてイライラしており、自分がストレスのはけ口にされている」といった声が寄せられているという。
今回の分析でまだ原因はわからないが、「寄せられている相談を見ると、コロナで多くの児童生徒が問題を抱えこんでいる可能性がある」としている。
清水さんは自殺対策支援センターNPO法人「ライフリンク」の代表を務めているが、現在相談窓口がパンク状態になっており、対応率は2割ほどだという。
「どう対応率を上げていくのか、相談の受け皿を強化しなければならない。自殺対策に特効薬はない。自殺には様々な問題が潜んでいるので、一つ一つに対する対策を強化することで自殺を減らすことができる」と話した。
●「まもろうよ こころ」(厚生労働省)
もしもあなたが悩みや不安を抱えて困っているときには、気軽に相談できる場所があります。厚生労働省のHPでは、電話やSNSでの相談窓口を掲載しています。