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「信用スコア」で監視社会って本当? 中国のユーザー5億人が「意識せず」暮らせる理由
シンポジウム「スコアリングを巡る法的問題」で中国の現状を語るジャーナリストの高口康太氏(中央)(2月7日、東京都内、弁護士ドットコム撮影)

「信用スコア」で監視社会って本当? 中国のユーザー5億人が「意識せず」暮らせる理由

個人を点数で評価する「信用スコア」ビジネスが活発化している。先行してサービスを提供していた「J.Score」に続き、2019年には「LINE Score」「Yahoo! スコア」「ドコモスコアリング」があいついで参入した。

信用スコアは、個人のさまざまな情報から信用力を数値化したもので、現在はそのスコアに基づいて金利や貸出限度額が決まる融資サービスを中心に展開されている。

たとえば、「ドコモスコアリング」では、ドコモ契約者のサービス利用状況(契約内容、利用期間、携帯料金支払履歴など)から分析して自動的にスコアを算出し、スコアの提供を受ける金融機関が個々人に合った適切な金利・貸出し枠を設定できるという。

しかし、信用スコアに対しては、「算出方法が不透明」「新たな差別が生まれかねない」などの懸念が指摘されている。

そんな中、「スコアリングを巡る法的問題」と題したシンポジウムが2月7日、都内で開かれた。個人情報法制や消費者問題に精通する実務家や研究者らによって、信用スコアの取り扱い、信用スコアが社会に浸透していく際の懸念、中国での実例など、さまざまな角度から議論された。

●「信用スコアは個人情報保護法で保護されるべき情報」

信用スコアは基本的に「●●さんは●●点です」といった形で示される。スコアそのものが一個人と結びつきの強い情報だが、利用には何らかの規制があるのか。

日弁連消費者問題対策委員会副委員長(電子商取引・通信ネットワーク部会長)の板倉陽一郎弁護士は、「信用スコアは、個人情報保護法で保護されている『個人情報』『個人データ』『保有個人データ』に該当します」と話す。

「したがって、信用スコアを利用するためには、利用目的を示さなければなりません。また、開示請求、訂正請求、利用停止請求などの本人が関与する手段も確保する必要があります。

『Yahoo! スコア』でも当初は本人に知らせないという形だったため、開示ができるのかどうかが問題になりました。さまざまな議論の末、『Yahoo! スコア』は方針転換し、本人が請求すれば確認できる形にしました」

なお、「J.Score」や「LINE Score」のように、本人がいつでも確認できる仕組みになっていれば、スコアの開示は問題にならない。しかし、信用スコアの算定式は基本的に非公表のため、その透明性などに関しては引き続き議論していく必要があるという。

●「スコア利用社会を維持していく必要がある」

慶應大の山本龍彦教授(憲法学)は、スコア算出の不透明性を「ブラックボックス問題」と表現し、その不透明性がもたらすものの中に、「憲法的に重要な問題があります」と懸念を示す。

「法の重要な機能として『予測可能性』があります。『●●すると刑罰を科せられる』ことが明確であり予測できることで、個人の『自由』は確保されています。信用スコアについても似たような構図が当てはまります。

つまり、どのような行動が信用スコアに影響を与えているのかが不透明(予測不能)だと、スコアが下がるかもしれないという不安から、思い切った行動や人から変わってると思われそうな行動などを避けるようになる、いわゆる『萎縮効果』が働くようになると思います」

山本教授は、この問題点が深刻化しないようにするためには、競争原理を働かせて特定のスコアが決定的な意味をもたないようにすることなどが重要だという。

「現状は、『スコア利用社会(複数の信用スコアを個人が積極的に活用する段階)』といえます。『スコア監視社会・スコア監視国家(特定のスコアがあらゆる指針となるなど決定的な意味をもつ段階)』とならないよう、現状にとどまるようにすべきです。

たとえば、『Aスコアでは低い点数だったが、Bスコアを利用すればよい』というように、スコア算出の評価軸が複数ある状態を保つことが重要だと思います」

●中国の信用スコアの特典は「大盛り無料券」のようなもの

研究者からはこうした懸念も聞かれるが、実際のところはどうなのか。

現在、世界でもっとも信用スコアの役割が大きくなっているといわれる中国では、アリババグループのアント・フィナンシャルが運営する「芝麻信用(セサミクレジット)」が広く浸透している。

中国の現状に詳しいジャーナリストの高口康太氏は、セサミクレジットの利用者は約5億人(2019年秋時点)おり、自身もそのうちの一人だという。

「月に1回、1週間ほど中国に滞在しており、その際にサービスを利用しています。中国にいる人に比べれば利用頻度は低いはずですが、いくつかの特典がもらえる600点は超えていますので(利用開始時は550点)、利用頻度が高くない人間でも、普通に利用する分にはそんなに低い点数にはなりません」

中国といえば監視社会の印象が強いが、高口氏は、現状のセサミクレジットに限れば、そこまで過敏になるものではないという。

「(企業や国が)スマホから様々な情報を入手して格付けする支配的でおそろしいものといったイメージを持っている人もいるかもしれませんが、スマホの中にあるクレジットカードとその特典、といった認識が実態に近いと思います。

一般の中国人にヒアリングしたところ、セサミクレジットを利用しているものの、『試しにスコアを作ってみた』『割賦払いしたかったから加入しただけ』など、普段はほとんど意識せず生活しているケースが大半です」

また、セサミクレジットで得られる特典はそれほど大きなものではないという。

「たとえば、次回の利用で使える『大盛り無料券』をもらえる飲食店が日本にはありますが、ごく一部の望ましくない客(マナーがひどい客など)を除き、大半の人がこの無料券をもらえます。

セサミクレジットの特典もこのシステムに似ています。低スコアの利用者(ごく一部の望ましくない客)を除き、大半の人がそれほど大きくない特典を意識せずとも得られ、その結果スコアにさほどこだわらなくなります。

セサミクレジットが(良い意味で)支配的にはなっていない理由は、ここにあるのではないでしょうか」

● 過剰融資と規制緩和のバランスが重要

日本でも中国でも、信用スコアは融資サービスを中心に展開されている。日弁連消費者問題対策委員会委員の池本誠司弁護士は、融資につきまとう過剰貸し付けに懸念を示した。

「1990年代後半から2000年代前半に、サラ金で返済できないほど借りて、あるいはクレジットカードを支払能力を超えるほど利用して破産するなどの多重債務事案が激増し、社会問題となりました。

その後、貸金業法や割賦販売法が改正され、業界全体で信用情報を集約し顧客の債務状況を把握して与信審査を行うなど、過剰融資を防ぐ仕組みができました。

信用スコアに基づく融資では、技術・データ(AI・ビッグデータ)を活用した与信審査を行うことになると思いますが、信用スコアの算定式は基本的に非公表です。

もし、信用スコアの算定に与信審査の要素が入らず、『自社のサイトのサービスをたくさん利用していて信用スコアが高いので、たくさんお金を貸そう』というようなことになれば、返済能力がない人に融資するおそれがあります」

政府は、簡単かつ低コストなキャッシュレス決済を推進するため、過剰融資を防ぐための規制を緩和する方向で検討している。

その一方、技術・データを活用した与信審査にかんしては、行政が事前チェック・事後チェックする仕組みを設け、過剰融資と規制緩和のバランスをとるつもりのようだ。

池本弁護士は「政府による規制が強ければよいということはないが、過剰融資による多重債務事案を防ぐための仕組みは不可欠です」と話した。

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