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「握手会を中止にしたAKB襲撃事件の容疑者を訴える」 そんな訴訟は成立するの?
自分の応援するメンバーと握手するために、大量にCDを購入するファンがいる

「握手会を中止にしたAKB襲撃事件の容疑者を訴える」 そんな訴訟は成立するの?

AKB48の握手会襲撃事件の影響で、各地で予定されていた握手会が延期となっている。そんな中、殺人未遂の疑いで逮捕された男性に対して「損害賠償請求の裁判を起こす」とツイッターで宣言する人物が現れた。

ツイートによると、6月1日に開催されるはずだった握手会が、警備体制の見直しで延期となったため、提訴に踏み切るのだという。損害賠償請求の金額は、握手会のために購入したCD代金約34万円と、精神的苦痛に対する慰謝料25万円の計約60万円。『訴状』とされる書類の写真も公開されている。

たしかに、ファンにとってつらい状況なのかもしれないが、このような訴訟は成立するのだろうか。もし訴訟になった場合、ポイントはどこにあるのだろう。好川久治弁護士に聞いた。

●損害賠償が認められるための4つの条件

「今回のような損害賠償請求が、裁判で認められるためには、次の4つの条件を満たす必要があるでしょう。

(1)ファンの『法的権利(又は法律上保護される利益)』が『侵害』されたこと

(2)侵害についての『故意』が容疑者にあったこと(単なる『過失』では足りない事案です)

(3)ファンに『損害』が発生したこと

(4)条件(2)と条件(3)の間に『相当因果関係』があること」

難しい言葉も多いが、それぞれどういうことなのだろうか?

「まず、ファンは特定のCDを購入することで、イベントに参加してメンバーと握手する『法的権利』を手に入れたと考えられます。

今回の騒動で握手会が延期となったことで、握手する機会は一時的にせよ、失われています。ただし、延期ですから、完全に権利が失われたわけではありません。これをどう評価するかですね。

また、主催者が握手会に代わるサービスを提供したり、延期に対する補償を行ったりすれば、(1)を満たさないと判断される可能性もあります。もともと何かの事情で延期・中止になる可能性はあるわけですから、代わりがきく権利ともいえるからです。」

●「今後の握手会の中止・延期」まで認識していたか

条件(2)の故意というのは、どういった意味だろうか?

「ここでは、損害が発生するかもしれないがそれでもいいと考えていた、くらいの意味ですね。

今回、容疑者は、握手会の会場でメンバーに対してのこぎりで切りつけるという大胆かつ悪質な行為に及んでいます。これにより会場は大混乱に陥り、当日の握手会は中止に追い込まれてしまいました。開催当日のイベントの中止については『故意』があったと見てよいでしょう。

ただ、将来における同様の握手会が中止・延期されることまで認識していたかというと、評価は分かれると思います。裁判になればこの点も争点になるでしょう」

●「損害額」はどうなるのか?

それでは、条件(3)の「損害」は?

「まず、『握手の機会を要求する権利』の財産的価値ですが、イベント参加券は転売・譲渡が禁止されていますので換金性がなく、評価するのは難しいですね。

ただ、一つの考え方として、握手会の参加権のために購入する必要があったCDの費用総額から、購入後のCDそのものの中古価格相当額を除いた金額が、『握手会参加権を得るために必要とした経費』といえそうです。これを財産的価値と考えることもできるでしょう」

もう一つ主張されている『慰謝料』はどうだろうか?

「ファンはAKBの握手会への参加を相当心待ちしていたと想像されます。延期などで、精神的損害を被ったと評価できなくはありません。

ただ、今回の事件に限らず、握手会など各種イベントが何かの事情で延期・中止になることはよくあることですので、金銭的に償うほどの精神的損害は発生していないと判断される可能性もあると思います。

また、もし仮に精神的損害が認められるとしても、類例を踏まえると、数千円~1万円程度ではないでしょうか」

条件(4)の「相当因果関係」は、襲撃行為が損害発生という結果とどこまで結びついているかという話だが、今回はどうだろうか?

「もし条件(1)~(3)が認められたとすれば、(4)の相当因果関係も認められやすいでしょう。容疑者の行為によって、直後に予定されていたAKBの握手会が延期に追い込まれることは、常識的に考えて簡単に予想できることですからね」

もし本当に法廷に持ち込まれたら、争点が盛りだくさんになりそうだ。好川弁護士も「訴えられた側が争ってくれば、そう簡単には結論が出ない裁判になるでしょうね」と話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

好川 久治
好川 久治(よしかわ ひさじ)弁護士 ヒューマンネットワーク中村総合法律事務所
1969年、奈良県生まれ。2000年に弁護士登録(東京弁護士会)。大手保険会社勤務を経て弁護士に。東京を拠点に活動。家事事件から倒産事件、交通事故、労働問題、企業法務まで幅広く業務をこなす。趣味はモータースポーツ、ギター。

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