日弁連などが開いたシンポジウム「いま司法は国民の期待にこたえているか」(6月20日)には、大学教授や経営者、政治家など各界の論者が登壇して、それぞれが考える「民事司法の課題」を語った。
柴山昌彦・衆議院議員(自民党)は、「・・・喧嘩や訴訟があれば、つまらないからやめろ・・・」という、宮沢賢治の詩の一節を持ち出して、日本には「訴訟に対するアレルギー的な国民性がある」と指摘。法教育の充実を訴えた。また、日本の国際競争力向上や、民事司法の改善のためには、「専門家の養成が課題」と強調していた。
●消費者の健全な訴えを応援するほうが企業にもプラス
政治はともすると、司法とかけ離れたところにあると思われがちです。議員の口利きによって、行政や金融機関にプレッシャーをかけるといった話も耳にします。しかし、よその国は、司法を重視してきている。そういう国と対等に付き合わなければならないのに、日本だけが司法とそりの合わない国であっていいわけがありません。ピリッとした社会を作るためには、司法が機能していくことが極めて重要です。
たとえば、経済界には、消費者からバンバン訴えられる、つまり「濫訴」をおそれる傾向がありますが、被害にあった消費者を泣き寝入りさせてしまうと、消費を控えて、経済活動全体が沈滞してしまいます。
消費者の健全な訴えを許容して応援し、予測可能性や取引ルールを健全化するほうが、企業にとってもプラスになる。そうしたマインドチェンジをしていかなければならないと考えています。
●法教育を充実していくことが重要
宮沢賢治の詩には「・・・喧嘩や訴訟があれば、つまらないからやめろ・・・」という一節があります。日本に、訴訟に対するアレルギー的な国民性があるのは、否めないと思います。
特に田舎に行くと、そういうことで目立つと周りから攻撃されるという体質があるんですよ。そこを変えていくためには、「納得のいかないことを正していったほうが共同体のためになる」という意識を進めていくこと、法教育を充実していくことが、とても重要だと思います。
アメリカのような訴訟社会がいい社会だと思っている日本人は、それほど多くいないでしょう。裁判には、社会的なコストが伴います。弁護士があぶれて、救急車や霊柩車を追いかけるような、離婚が増えてバンバン相手を訴えるような社会が良いとは、決して思わないです。
健全な正義を守り、泣き寝入りはさせない、理想的な日本ならではの”法律の支配”というものを、法教育の充実をもって実現していけばいいと思います。
●「法曹の養成」が大きな課題
不十分ながらも踏み出している部分もあります。たとえば、消費者団体訴訟です。欧米の制度を、日本に導入することには、経済界から相当抵抗がありました。しかし、導入によって、消費者を救済するとともに企業がピリッとしてきていると思います。独立社外取締役の制度化についても、政府の骨太の方針の中で明示しています。営業秘密の保護なども、進めようとしております。
一方で、法曹の養成は大きな課題です。司法インフラが脆弱だと言われ、裁判官も増やさなければならない、弁護士も増やさなければならないと、法科大学院を作って、一生懸命アクセルを踏んできました。ところが、目の前にあるニーズよりも増えてしまって、その人たちの就職先がないということで、今度、ちょっと逆戻りしたりもしています。
また、現場の裁判官の声を聞いてみると、裁判官を養成するには、徒弟制度のような訓練が必要で、単純に任官数を増やすだけでは対応できないということでした。そこで、労働審判や行政不服審査制度、ADRなど、裁判よりも柔軟だけれど、法律の専門家が紛争解決する手続を増やしていくことも必要です。
●「国際分野の専門家」が足りない
また、決定的に人材が足りないのが、「国際分野」です。日本の中小企業が国際トラブルに巻き込まれる事例がいっぱいあるのに、そういうことを扱える弁護士が非常に少ないので、相談先は現地のジェトロとかになる。
また、商船三井事件だとか、尖閣問題だとか、政府の中で、国際的な交渉に通じている人もほとんどいません。政府の中で、法曹資格を持って、TPP交渉や国際問題の仲裁をできる人は、非常に少ないです。
司法のインフラ・人材不足は、日本の国際競争力や民事司法のあり方という観点から、これからひどい足かせになっていくと思います。まだ緒に就いたばかりですが、我々外務省とか法務省、経産省、ジェトロなどが、省庁の壁をとっぱらって、専門家を育て、インフラを拡大していこうという提言をしています。