弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 行政事件
  3. 「閉会中審査で逃げるのは自民の黄金パターンだ」臨時国会召集めぐる違憲訴訟、事務局長が語る問題点
「閉会中審査で逃げるのは自民の黄金パターンだ」臨時国会召集めぐる違憲訴訟、事務局長が語る問題点
会見で臨時国会の召集を求める小口幸人弁護士(2022年8月30日、弁護士ドットコムニュース撮影)

「閉会中審査で逃げるのは自民の黄金パターンだ」臨時国会召集めぐる違憲訴訟、事務局長が語る問題点

国葬に対する賛否が分かれる中、政府は国民の疑問に応えるために9月8日にも閉会中審査で首相が対応するとしている。

しかし、そもそも野党側は憲法に基づいて臨時国会を開くよう8月18日に要求している。

憲法53条では「内閣は、臨時国会の召集を決定することができる。衆参いずれかの議院の総議員4分の1以上の要求があれば、その召集を決定しなければしなければならない」と、後段では義務を規定しているが、事実上、無視されている状態だ。

安倍政権が2017年に召集しなかったことに対し、弁護士や憲法学者が憲法違反だとして国会議員を原告に賠償請求訴訟を起こしている。弁護団の事務局長を務める小口幸人弁護士に53条後段の意味と現在の政権の問題点を解説してもらった。

●「閉会中審査は国会まがいのもの」

ーー閉会中審査でも、一応議論はされるので国会に準じたものではないんでしょうか?

閉会中審査は国会法47条に規定されています。

常任委員会及び特別委員会は、会期中に限り、付託された案件を審査する。 常任委員会及び特別委員会は、各議院の議決で特に付託された案件(懲罰事犯の件を含む。) については、閉会中もなお、これを審査することができる。

委員会の審査であり、質問主意書を出すことや立法などもできません。「審査することができる」というだけです。一方で、憲法53条では「内閣は臨時国会を召集しなければならない」と強い言葉で義務をうたっています。きちんと国会を開いて議論すべきです。

例えば、株主が集まって会議をしたからといって、すべてが「株主総会」の体をなさないのと同じです。国会まがいのものでしかありません。

ーー閉会中審査で対応しようとするのはなぜでしょうか?

2017年のモリカケ問題、2020年のコロナ下での五輪開催是非なども閉会中審査でした。近年の政権で繰り返されている「黄金パターン」です。既に支持率が下がっている中で国会を開いて追及されれば、さらに下がる。国民の忘却を待って、支持率の自然回復を狙っているのでしょう。

安倍政権以降は特に、通常国会も150日間で終わり、ほとんど延長しません。国会の会期のトータル期間が減っています(衆議院HP)。国会の議論を見ても、質問に答えないなど「時間切れ」を狙うためとしか思えないやりとりが増えています。

成熟した議論がされず、報道でも取り上げられにくくなっている。為政者は、この状態を意図して作りだしているといっても良いのだと思います。

●「法律や予算を可決するだけの場に国会が成り下がっている」

弁護団作成の資料

ーー田中角栄政権以降、2017年の安倍政権が98日間臨時国会を召集しなかったのは際立っています。岸田政権も、国葬後に召集するなら50日を超えそうです。前例があるから2カ月程度ならいいとの認識なんでしょうか?

訴訟の中で原告側は「国が召集を遅らせた」のではなく「召集しなかった」と主張しています。2017年のときは召集されたものの初日に審議ゼロで解散されており、求めた審議が一切行われなかったからです。

被告である政府は、司法審査は及ばない、つまり裁判所が判決できる事柄ではないという反論と、損害賠償は認められないという反論しかしてきていません。

私たちは当初、裁判になれば国から、98日間でも合理的な期間だ、閉会中審査をしているのだから問題ない、外交日程も重要なんだと、98日後の召集は「合憲合法」なんだという反論が出ると思っていたのですが、国は一切この反論をしませんでした。

那覇地裁では、裁判所からわざわざ個別具体的に主張しないのかと釈明してもらったのに、国は主張しないと明言し、その後現在に至るまで一切、こういう主張をしないまま高裁判決まで出ました。

ーー国は違憲と分かっていて、召集していないということでしょうか?

裁判という公の場面で「合憲合法」と主張すらできないことを政府が堂々としているというのは、さすがにどうなんでしょうか。公正さに欠ける行為と言わざるを得ないですし、本音では、今回の対応も含めて、憲法に違反していることを自覚した上で、堂々と不都合だから国会を召集しないという対応をとっているのだと思います。

一方で、自民党の改憲草案では、臨時国会は要求があってから20日以内に開くとしているし、憲法審査会で自民党は平時でも緊急時でも国会による行政監視が必要なんだ、だから憲法改正だと主張しており、やっていることが矛盾しまくっています。 

国会は、召集されなければ活動できません。召集できるのは、形式的には内閣だけです。でも、内閣が都合のよいときしか国会が開かれないのでは、国会は内閣を監視できないし、国権の最高機関たり得ないので、国会が自ら国会を開けるようにしているのが53条後段だと裁判所は解釈しています。

この53条後段違反が横行しているので、三権分立のバランスが崩れ、内閣の力ばかりが強くなり、国会審議が形骸化し、民主主義の基本である、議論が成り立たない、ただ法律や予算を可決するだけの場に国会が成り下がってしまっています。これは極めて危機的な状況で、これ以上ないほど重大な問題です。

●「憲法違反を裁判所が裁かないのなら改憲論議なんて意味がない」

ーー2017年の安倍政権が98日間臨時国会を召集しなかった件について、6地裁、高裁で判決が出ています。訴訟の進行状況を教えてください。

いずれも現在、最高裁の判断待ちです。国会議員が賠償を求めた部分、つまり国賠法については棄却となっていますが、内閣が負う「義務」については裁判所が重要な判断を示しています。例えば今年3月の福岡高裁判決は以下のように、内閣の義務について強いメッセージを発しています。

「内閣の義務は、行政部と立法部との間の均衡・抑制関係の一部をなすものであり、憲法15条1項で保障された国民の選挙権の行使を通じて表れた国民の意見を多数派・少数派を含めて国会に反映させるという観点からも、上記の義務の履行は極めて重要な憲法上の要請であることは論をまたない」

内閣の負っている国会を召集するという義務は、「極めて」「重要な」「憲法上の」要請であることは「論をまたない」という裁判所の判断を、内閣は軽視しすぎだと思います。

私が住む沖縄の選出議員は国会では少数派です。もし、米軍関連で大きな事故が起きたとしても、内閣が国会を開かないというならば、この問題を国会で議論することができなくなってしまいます。

原発事故だってそう、大規模災害だってそうです。国会が開かれるべきときに開かれない、内閣にとって都合のよいときにしか開かれないというのは、全国民にとって深刻な問題なのです。

また少数派だけでなく、多数派にとっても重要です。憲法は内閣と国会の多数派が対立する状況を想定していて、実際そうなることもありますが、国会の多数派だって国会の意思で国会を召集する方法は、この憲法53条後段しかないのです。

それを内閣が無視しているということは、国会の多数派が内閣不信任決議案を突きつけようとしても、内閣が国会を召集しない限り突きつけられないということを意味します。

ーー現在、憲法改正の議論が盛んに行われています。

はい。でも、そもそも、憲法というルールの違反を、裁判所という審判が裁かないなら、憲法改正議論など意味がありません。現在の状況をサッカーに例えるなら、審判の目の前で、ボールを手でもって走り出している状態です。このルール違反を審判が止めないなら、ルールなど意味がありません。

そして、このルール違反を問う裁判が最高裁にある、まさにそのタイミングで、堂々と、また内閣はボールを手に持って走り出しているんです。もし、最高裁が今回も笛を吹かず違法だと言わないなら、誰もこんなルールを尊重しなくなりますし、裁判所への信頼も地に落ちるでしょう。

6つも判決が出て、高等裁判所までもが、内閣の召集義務を重く指摘しているのに、しかもその裁判が最高裁判所にかかっているのに、堂々と内閣はまた召集しないという対応をしています。最高裁判所には、ハッキリとしたNOを、違憲判断を下してほしいと思います。

プロフィール

小口 幸人
小口 幸人(おぐち ゆきひと)弁護士 南山法律事務所
東京都出身、2016年から沖縄弁護士会所属。2010年に岩手県の宮古ひまわり基金法律事務所に入った翌年に東日本大震災に遭遇した。災害関連の日弁連の提言等に深く関わる。著書に「弁護士のための水害・土砂災害対策Q&A」(日弁連災害復興支援委員会編)など。日弁連災害復興支援委員会幹事。 ​​

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする