役員報酬の決定手続きを透明化する「報酬委員会」を設置する企業が増加している。日本経済新聞(9月2日付電子版)によれば、報酬委員会を導入した企業は今年8月までに660社にのぼり、昨年に比べて約3倍となる。全上場企業の19%にあたる。
増加した理由として、昨年6月に適用が始まった「企業統治指針」がある。経営の透明性や効率化を高める狙いで設けられた指針で、この中で報酬についても手続きを明示するよう規定していた。
報酬委員会は、法的にはどのように位置付けられるのだろうか。また、委員会の設置により、役員報酬の引き上げ、引き下げにどう影響するのだろうか。大和弘幸弁護士に聞いた。
●会社法と任意、2つの「報酬委員会」
「この制度ができる前から、取締役の報酬額は、株主総会の決議で定める必要がありました。取締役の報酬を取締役会が決定できるようにすれば、自らの報酬を自らが決めることになり、査定が甘くなるからです。
しかし、実際には、株主総会では個々の取締役の報酬額を定めず、全取締役の報酬の最高限度額を定めるにとどまり、個々の取締役への配分額は取締役会に委ねる会社が多い状況にありました。
その手続の透明性には従来から疑問が持たれていたため、報酬委員会の設置が求められるようになったのです」
報酬委員会は、法的にはどのように位置付けられるのだろうか?
「報酬委員会には、会社法による法定の報酬委員会と、会社が任意で設置する報酬委員会の2種類があります。
法定の報酬委員会は、2002年に導入されました。取締役の選任・解任の議案を決定する『指名委員会』、業務執行の監査を行う『監査委員会』、取締役の報酬を定める『報酬委員会』を設置することになります。また、取締役会の役割も基本事項の決定が中心となり、業務執行は取締役ではなく執行役が行い、会社代表者も代表執行役となります。
つまり、株主総会、取締役会、監査役会が存在する従来の株式会社からは大幅に仕組みが変わるものですから、この制度(「指名委員会等設置会社」)に移行した会社はあまり多くありません」
●任意の「報酬委員会」が増加する理由
では、任意の報酬委員会はどのような位置付けになるのか。
「任意の報酬委員会は、従来の制度の枠内で、各会社がそれぞれの考えにおいて任意に設置するものです。昨年6月、東京証券取引所は『企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)』を定めました。その中で、企業経営の透明性の確保の観点から、上場会社は、取締役会が取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続を開示し、主体的な情報発信を行うべきであると定めています。
これを受けて、任意の報酬委員会を設置する上場会社が増えました。今回、『報酬委員会が増加した』と報じられているのも、法定の報酬委員会ではなくこの任意の報酬委員会です。
法定の報酬委員会と異なり、任意の報酬委員会では、その権限や構成員、会社組織における位置づけなどは各会社が独自に決定することになります。
例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問機関としての報酬委員会を設置するなどです。法定の報酬委員会に比べ、各会社の特性に応じて最も適切な企業統治形態を選択できるというメリットがあるといえるでしょう」
●報酬にはどう影響する?
役員報酬の額には、どのような影響があるのか。
「企業経営の透明性を図り、取締役のお手盛りを防止し、取締役の業績に見合った適切な報酬を決定するという視点からは、報酬委員会の設置は役員報酬の引き下げに関係することになるでしょう。
一方で、コーポレートガバナンスは、企業の収益性・競争力の向上をも目的としています。企業の持続的成長に向けた健全なインセンティブとしての取締役報酬という観点からは、報酬委員会の設置は役員報酬の引き上げにも関係することになるといえます」