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商標「AFURI」めぐる訴訟、割れる意見「企業が独占していいの?」「権利行使は当然」弁護士の見解は?
AFURI社のプレスリリースより。左がAFURI社、右が吉川醸造の日本酒(https://afuri.com/wp/press/680)

商標「AFURI」めぐる訴訟、割れる意見「企業が独占していいの?」「権利行使は当然」弁護士の見解は?

「AFURI(あふり)」という名前をめぐる法廷闘争が、ネットを賑わせている。酒造メーカー「吉川醸造」(神奈川県伊勢原市)が8月22日、公式サイトでラーメンチェーン店「AFURI」(厚木市)から商標権を侵害しているとして東京地裁に提訴されたことを明らかにしたものだ。

一方、AFURI社も8月26日、公式HPで「お願い、申し入れが聞き入れられず、やむなく最終的な判断を司法の場に求めることになりました」「ラーメン事業のみならず、他にもいくつかの事業を計画しており、その過程で必要に応じて商標登録を取得し維持を図っております」と訴訟に至った背景を発表した。

ネットでは意見が割れている。「地名を商標登録して他に使わせないって」「一企業が独占的に使用してもいい名前じゃないと思う」などと吉川醸造側の意見もあれば、「お酒を展開するプロジェクトがあるのであれば、商標取るのは当然」「権利者が権利行使するのは当然の話」とAFURI側に賛同する声もあった。

双方の主張をふまえたうえで、商標にくわしい弁護士に見解を聞いた。

●AFURIの主張は?

まず、訴状によると、AFURI社は2018年5月から、商標「AFURI」をつけた日本酒をOEM生産(他社のブランドで販売する製品をメーカーが作ること)により製造し、米国向けに輸出している。商品は、原告の米国店舗で提供、販売している。

一方、吉川醸造は2021年4月から、「雨降 AFURI」と書かれた商品8つを製造し、全国で販売している。

商標が類似するかどうか検討するとき、外観、称呼(読み方)、観念(意味合い)という3つの要素を総合的に考慮して決まる。

AFURI社は、外観、称呼、観念のいずれの観点からも互いに類似する関係にあると主張している。

●外観
「AFURI」の文字書体はわずかに異なるものの、構成する「A」「F」「U」「R」「I」は全て共通するため、実質的に同一または少なくとも互いに類似する。

●称呼
「アフリ」の称呼において共通していて、同一である。

●観念
神奈川県伊勢原市に位置する大山の通称である「雨降山(アフリサン)」との観念が生ずる点において共通する。

さらに、吉川醸造の日本酒はAFURI商標権の指定商品である第33類の「清酒」に含まれるため、「原告指定商品と被告商品とは同一の関係にある」と指摘。吉川醸造の販売行為は、商標権を侵害するものであるとして、1100万円の損害賠償を請求している。

訴状によると、AFURI社は提訴に至る前、吉川醸造と交渉をおこなっていた。

まず、2022年8月22日付の書面で、吉川醸造に「商品が商標権を侵害し、不正競争防止法違反である」と通知した。

翌月、吉川醸造から、商品は商標権侵害、不正競争防止法違反のいずれも成立しないこと、一定の和解案を提示するものの、今後も商品中のAFURIのアルファベット表記は継続する、といった回答があった。

その後、両者は書面や複数回の面談によって和解交渉をおこなったが、吉川醸造が商品ラベル中のAFURIのアルファベット表記の使用は今後も継続するとしたため、訴訟提起に至ったという。

●吉川醸造の反論は?

答弁書によると、吉川醸造は「外観、称呼、観念はいずれも異なり、取引の実情に鑑みても、出所の誤認混同が生じるおそれはないため、非類似である」などと請求棄却を求めている。

●外観
AFURIの商標は通常用いられるような書体で「AFURI」と黒色で表記したローマ字である一方、吉川醸造の標章は、ラベルであり多数の文字から構成されているので両者は顕著に異なる。

●称呼
AFURIの商標に接する需要者は「あふり」という3音を認識する。一方、吉川醸造の標章は、多数の文字やデザインから構成されるものであるため、そこから特定の称呼が生ずるものとは言えず、称呼は異なる。

●観念
AFURIの商標は、AFURIが「AFURI」と「阿夫利」を構成要素とする商標を多数出願し、その商標意見を有していること、AFURIが経営するラーメン店では「AFURI」と「阿夫利」が同時に使用されていることに鑑みると、AFURIの商標に接した需要者が、取引上自然に想起するのは「阿夫利」という漢字である。

この「阿夫利」とは、神奈川県にある大山の近郊地域の通称名、および、大山阿夫利神社を表示する標章の要部またはその著名な略称であるため、AFURIの商標に接した需要者は「阿夫利」という漢字から、大山の近郊地域または「阿夫利神社」を想起する。

一方、吉川醸造の標章に接する需要者は、ラベル正面部分に記載された「雨降」の漢字の一般的な意味から、「雨が降る」「雨が降っている」といった意味または意味合いを想起するため、観念は全く異なる。

●「AFURI側は許諾している」」

また、「標章の使用について、AFURI側は許諾している」とも主張している。

吉川醸造は日本酒「雨降」の販売に先立ち、AFURIが商標権を取得し、AFURIまたは阿夫利との名称を使用していたことを認識していた。2021年2月に電話でAFURIの常務に連絡したためだ。

吉川醸造の代表取締役は2021年2月に、大山の地域の通称である阿夫利に由来して、「雨降」と書いて「あふり」と読む銘柄の日本酒の販売を考えていることをAFURIの常務に電話で伝えた。AFURIの常務は「面白いですね」といい、異論は唱えなかったという。

さらに、吉川醸造の代表は「読み方がやや特殊なのでローマ字でAFURIと読み仮名を振りたい」と伝えたところ、AFURIの常務は「お互い元は同じ(阿夫利に由来)ですから(問題ない)」「一緒に大山を盛り上げていきましょう!」といい、雨降(あふり)の名称の日本酒にローマ字でAFURIと読み仮名をふすことを快諾したという。

電話したときから商品を販売することを知っていたにもかかわらず、書面を送るまでの2022年8月までの1年半に、商標権侵害であるとのクレームをおこなったことはなかったとし、「これはAFURIの常務が吉川醸造の代表に対し、雨降のローマ字読みとしてAFURIと記載することを快諾していたに他ならない」と主張している。

●「産地を示す商標」でなければ商標登録できる

双方の主張をふまえて、商標にくわしい冨宅恵弁護士の見解を聞いた。

——「阿夫利」というのは、地域・歴史・文化に根差した名称でもあります。地域の名称などを個人や企業が商標登録し、独占することは可能なのでしょうか。

商標は、特許庁で審査を受けて、商標法が定める登録要件などを満たしていると判断されてはじめて登録されるのですが、商標法が定める登録要件の一つに、「登録商品の産地や販売地を『普通に用いられる方法』で表示する商標でない」ことがあります。「普通に用いられる方法」とは、その書体や全体の構成等が特殊なものでないものを言います。

ですから、商品の産地や販売地を、産地や販売地を示すために用いられる方法で表示する商標が登録され、特定の者に独占されることはありません。

AFURI社が、商標権が侵害されていると主張している「AFURI」という商標は、「阿夫利山」の山名から由来する商標で、産地に由来しているものの、産地を示す商標ではありませんし、産地を示すために用いられる一般的な方法で表示されているとまで言えませんので、特許庁に登録されていると推認できます。

●指定商品を広く設定することは「一般的」

——AFURI社は「阿夫利」「AFURI」で構成される商標を複数取っており、指定商品も数多くあります。企業における商標管理として、指定商品を広く設定することはよくあることなのでしょうか。

AFURI社は2019年4月24日に、清酒に使用することを前提に「AFURI」という商標を出願しているのに対し、吉川醸造は2021年4月17日以降、清酒のボトルに「雨降 AFURI」と記載されたラベルを用いているようで、AFURI社の商標出願のほうが先におこなわれています。

そして、AFURI社は、複数の商品や、それにまつわるサービスを指定して、「阿夫利 AFURI」や、「AFURI」と図形を結合した商標など複数の商標登録を受けています。

このような商標登録は、多くの企業で、広範な商標権を取得するために一般的におこなわれていることで、AFURI社だけがおこなっているわけではありません。

●似ているかどうかはどう判断する?

——今回の2つの商標が似ているかどうかは、どのように判断するのですか?

吉川醸造は、自社が使用するラベル全体が使用している商標であると主張して、AFURI社の登録商標「AFURI」と類似しないと主張していますが、吉川醸造のラベルの内、輪郭であるとか、付飾的な部分や、付記的な部分のように識別機能に影響のない部分を除外して判断することになります。

そのため、吉川醸造のラベル表面部分の「AFURI 雨降」や「雨降 AFURI」とAFURI社の「AFURI」を比較することになると思います。

ちなみに、阿夫利山という山が存在し、吉川醸造が説明するように、阿夫利山が雨降山から転じたものであるならば、「雨降」が「あめふり」と読むのではなく「あふり」と読むということを説明したものであると評価できますので、個人的には、「雨降」と「AFURI」を分離すべきではなく、「雨降」の部分が主要な部分であると考えます。

また、吉川醸造のラベルの「雨降」は、阿夫利神社の神職に揮毫してもらった独特な書体ですので、そういった書体で構成された商標として類似するか否かの判断をすることになります。

商標の類否判断は、古くから、以下のように最高裁で判断手法が示されています。

両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断する。

●特許庁は類似しないと判断している

ところで、特許庁では2021年6月30日に、吉川醸造の前記した独特な書体で構成された「雨降」が商標登録されていて(この商標は2022年8月22日、誤って登録されたものであるとして、無効にするようにもとめる審判が請求されています)、特許庁は、「AFURI」、「阿夫利 AFURI」、「AFURI」と図形を結合したAFURI社の登録商標と吉川醸造の「雨降」は類似しないと判断しています。

ちなみに、吉川醸造が2023年3月14日に出願した、独特な書体の「AFURI」と「雨降」の結合商標は現在、特許庁で審査中です。

そもそも、阿夫利山という山が存在し、阿夫利山が雨降山から転じたものであるならば、「アフリ」と呼称し、阿夫利山やその周辺地域を含む地域を概念する商標を、特定の者に、広く独占させてよいと思いませんので、個人的には、「雨降」と「AFURI」が類似しないという特許庁の判断が正しいと考えます。

そして、吉川醸造がラベルに使用している「雨降 AFURI」の「AFURI」の部分が「あふり」と読むことの説明的記載で分離して評価せず、「雨降」が主要な部分と考えるならば、「雨降」と「AFURI」が類似しないと評価するのと同様に、「雨降 AFURI」と「AFURI」も類似しないということになります。

そして、これは、個人的な経験を前提にした思い込みかもしれませんが、「雨降 AFURI」を目にしても、AFURI社の出所を示すものと混同することもありませんので、上記した結論に問題はないと考えています。

一方、吉川醸造のラベルの裏面部には、「AFURI」とだけ記載されたラベルが存在し、吉川醸造が「AFURI」という表示だけを単独で使用し、この使用がAFURI社の商標権を侵害していると評価できなくもありません。

ただ、裏面部の「AFURI」については、ラベル裏面という表現範囲が限られたところで、「雨降」の呼称のみを説明的に記載しただけで、裏面の「AFURI」に出所表示として機能が存在しないと考えてよいのではないでしょうか。

プロフィール

冨宅 恵
冨宅 恵(ふけ めぐむ)弁護士 スター綜合法律事務所
大阪工業大学知的財産研究科客員教授。多くの知的財産侵害事件に携わり、プロダクトデザインの保護に関する著書を執筆している。さらに、遺産相続支援、交通事故、医療過誤等についても携わる。「金魚電話ボックス」事件(著作権侵害訴訟)において美術作家側代理人として大阪高裁で逆転勝訴判決を得る。<https://www.youtube.com/c/starlaw>

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