ペット可の賃貸マンションから退去する際、15万円もの消臭代を支払うようもとめられている――。猫2匹を飼っているHさんは、眉間にシワを寄せながら語りはじめた。
Hさんは数年前、都内のペット可の賃貸マンションに移り住んだ。契約では、退去の際に原状回復することや、「臭い」が残った場合の消臭代として15万円を支払うことが、特約で定められていた。Hさんもこの時点では納得していたという。
ところが、いざ退去しようというときになって、立会業者は「臭いがする」と主張したが、実際にそんなに臭いがするかどうか、「正直、よくわからない」と思ったのだという。それなのに「15万円支払え」と言われたので、現在は争う姿勢を示している。
「もちろん、猫のせいで、ふすまや障子が破れているのは、支払いますよ。だけど、臭いについて、どう客観的に判定するのでしょうか。それに15万円という金額が妥当なのかどうかもよくわかりません。感覚的に『臭いがする』と言われても納得いきません」(Hさん)
はたして、退去時のペットの臭いについて、どのように解決すればいいのだろうか。弁護士に聞いた。
●臭いの証明責任は「大家」にある
「消臭代は、建物賃貸借契約における原状回復費用の問題となります。
原状回復費用については、『賃借人の故意・過失による毀損や、通常を超える使用による損耗』についてのみ、賃借人が負担するとされています。ただし、通常使用による損耗、つまり普通に使って傷むことについても、賃借人が負担するという特約も、『適正かつ明確な合意があれば有効』とされています。
したがって、一般論としては、通常のペット飼育によって発生する程度の臭いであれば、賃借人は消臭代を支払う義務はありません。しかし、通常使用による損耗についても、賃借人が負担するという『適正かつ明確な合意』があれば、臭いが通常程度にとどまるものであっても、賃借人は消臭代を負担しなければなりません。
そうしますと、特約がなくても、通常のペット飼育によって発生する程度を超える臭いであれば、賃借人は消臭代を負担しなければならないことになります。
その場合、臭いの程度が問題となりますが、臭いが通常程度を超えることを証明する責任は、賃貸人(大家)側にあると考えられますので、その証拠を賃貸人が示さない限り(なお、客観的な証拠を示すのは実際には困難と思います)、賃借人は、有効な特約がない限り、消臭代を負担する必要がないことになります」
●消臭代15万円の特約が無効となる可能性も
Hさんのケースでは、消臭代が15万円かかることは特約で決まっていた。どれくらいの金額が妥当といえるのだろうか。
「先ほど説明したように、『通常損耗も賃借人が負担する』という特約は、適正でなければなりません。裁判例では、家賃月額13万9000円でペット消毒代(クリーニング代)5万円を負担することになった場合や、脱臭処理費2万5000円を負担することになった場合に特約を有効と認めています。
今回のケースでは、家賃額が不明ですが、これらの裁判例とくらべて高額であり、家賃額そのほかの事情(猫を飼うことを前提に家賃を他より高額にしていたなど)によっては、消臭代15万円を負担する特約が無効となる可能性があります。
また、有効な特約があって、その中で賃貸人の選定する業者によるとされている場合はそれにしたがわなければなりませんが、そうでない限りは、賃借人の方で業者を選定することも問題ないと考えられます」