新型コロナウイルスによって収入が減ったり、失ったりした人たちは当面の生活費の確保にも困る状態だ。特に住む家の家賃支払いは最重要の課題となる。生活のまさに基盤を守るため、貸主に家賃の猶予を求めることはできるのだろうか。
不当な立ち退き要求の相談など、借家・借地問題に取り組んできた「ブラック地主・家主対策弁護団」の西田穣弁護士に聞いた。
●弁護士「契約解除は難しいのではないか」
ーー新型コロナで収入が減ったために、家賃を支払えないという相談は寄せられていますか
はい。来月(5月)に更新月を迎える方から、更新料を払うと、その後の家賃は払えないという相談が届いています。
家賃は前払いが通常ですから、4月分の家賃は3月末に支払い済みで、5月分もギリギリなんとか支払える。しかし、そこから先は全く余裕がないというお話でした。
家賃が支払えないという相談は5月に入ってから増えると考えていて、懸念しています。
ーー貸主から「家賃を払えないなら出て行け」と言われたとき、出ていかなければいけないのでしょうか。
判例上、契約解除する場合は、賃借人と賃貸人の間の信頼関係が破壊されたといえることが必要になります。通常、単に1カ月分の家賃を滞納しただけで、裁判では信頼関係が破壊されたとみなされません。
家賃の支払い猶予について、昨今の新型コロナウイルスの情勢を考えますと、コロナ情勢で仕事をできなくなったという事情がある程度考慮される可能性があるとみています。
「コロナの問題(緊急事態宣言)によって仕事ができなくて、なんとか払おうとしたけど全額払えなかった」などの事情がはっきりしている場合、一定期間の猶予を定めて賃料の支払いを催告して、それでも家賃を支払ってこなかったといった場合でないと、契約解除は難しいのではないかとみています。
●各国の事情
諸外国ではすでに法律で、賃料の延滞金請求や契約の解除を規制しています。ドイツでは、6カ月間の賃貸住宅の契約解除が禁止されていて、さらに賃料免除まで適用されています。
アメリカでは家賃の免除はありませんが、3カ月間の滞納について延滞利息請求が禁止され、4カ月目も契約解除禁止が指示されています。
契約解除はそのまま「住む場所を失う」ことになります。生活の根底と言える住宅を失えば、仕事を探すにも困るでしょう。米英独が規制を出しているので、日本も追従して、解除を制限する施策を出す可能性が高いと思っています。
ーー支払いが難しいと思ったら、あらかじめ貸主側に事情を伝えておくべきでしょうか
それが良いと思います。大家さんもこういう状況では、信頼できる人を見つけてすぐに入居してもらうのも大変だと思います。
今まで一度も滞納してなかった人を追い出してもメリットはありません。大家さんに相談してみて、良い回答が得られなければ、弁護士に相談するなど動いてみてください。
●素直に契約解除に応じる前に相談
今回の新型コロナウイルスは、家賃の問題について広範囲に多くのかたを悩ませる初めての情勢だと思います。国民全体が直面する問題であり、ひとりの弁護士でなんとかできるレベルではないかなとも思います。
心配しているのは、裁判にすらならないケースです。大家から「出て行け」と言われたことで、出ていかなければならないと素直に応じてしまうかたもいるでしょう。
契約解除して初めて退去させられるのです。信頼関係が破壊されたと言えなければ、契約解除はできません。そんな簡単にあきらめないでください。一度弁護士を頼ってほしいと言いたいです。
ーー今回は貸主側にも困る人が出ると思います
そうですね。私も基本的には賃借人側に立つ弁護士ですが、賃料を払えない人もかわいそうだし、零細の大家さんも切羽詰まっていると思います。
(4月20日午後6時50分、編集部追記) 離職や廃業で経済的に困窮した人の家賃を補助する「住居確保給付金」の対象が20日から拡大された。「休業等により収入が減少し、離職等と同程度の状況にある」人も対象に。詳しくはこちら