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「新証拠の開示」約束後すぐに執行…「真実わからず」オウム元死刑囚の再審弁護人語る
伊達俊二弁護士(左)、小川原優之弁護士(10月11日、東京・霞が関の弁護士会館)

「新証拠の開示」約束後すぐに執行…「真実わからず」オウム元死刑囚の再審弁護人語る

オウム真理教の元幹部、井上嘉浩元死刑囚の遺族が東京高裁に対し、近く再審請求する意向であることがわかった。10月11日、再審弁護人の伊達俊二弁護士が、報道機関向けのセミナー(日弁連主催)のなかで明らかにした。伊達弁護士は「死刑が執行されたことによって、真実がわからなくなることがある」と死刑制度の問題点を指摘した。

●1審と2審、分かれた司法判断

伊達弁護士による話をもとに、井上元死刑囚の再審請求をめぐる経緯についてまとめる。

まず、井上元死刑囚に対する判決は1審東京地裁と2審東京高裁とで司法判断が分かれたという問題がある。1審(井上弘通裁判長)は、假谷さん拉致監禁事件は「逮捕監禁罪」にあたり、地下鉄サリン事件については後方支援役だったと認定。「無期懲役」が言い渡された。

一方、2審(山田利夫裁判長)で言い渡されたのは「死刑」。假谷さん拉致事件は「逮捕監禁致死罪」が成立し、地下鉄サリン事件では中心的な役割だったと認定した。

その後、中川智正元死刑囚と井上元死刑囚の証言が異なるとの疑問も生じ、伊達弁護士は新たに証拠開示するよう、検察官に求めていた。

●わからなくなった「真実」

7月3日、再審請求の第2回進行会議が開かれ、検察官は新証拠の開示を約束したという。ただ、後からわかったことだが、この日は上川陽子法務大臣(当時)が死刑執行に署名・捺印した日。裁判官は第3回進行会議を8月6日に指定したが、それを待たずに7月6日に死刑は執行された。井上元死刑囚と中川元死刑囚の死亡により、「真実」はわからなくなったと、伊達弁護士は強く問題視している。

「死刑はまちがえることがある」ーー。刑法学者で死刑廃止論者でもあった故・団藤重光氏(元最高裁判事)の言葉を、伊達弁護士は紹介した。そのうえで、「裁判は人がおこなうことなので、まちがいは絶対に起きます。死刑が執行されてしまえば、取り返しがつきません。そんな中で死刑を存続させることについて考えてほしい」と強調した。

●死刑にかわる刑罰を考える

セミナーでは、小川原優之弁護士(日弁連・死刑廃止及び関連する刑罰制度改革実現本部事務局長)が、死刑廃止とあわせて、死刑にかわる刑罰を考える必要性も訴えた。代替刑として挙げたのは「仮釈放のない終身刑」だ。

「抽象的な議論をするのではなく、終身刑の現実を知らないといけない」と考えた小川原弁護士は、9月に死刑廃止国・イギリスにあるホワイトムーア刑務所(終身刑の受刑者を収容)を視察してきたばかり。厳しいセキュリティのなかでも刑務所長は受刑者に対して「フレンドリー」な対応に見えたという。「受刑者との信頼関係を大事にしている」と刑務所長が話したことが印象的だった。

「日本に死刑があることは、国際社会における日本の評価を低下させてしまうのではないか」。小川原弁護士は、死刑制度が日本でいまなお存続していることを心配している。

●日弁連、会長声明で「死刑廃止を目指す」

EU加盟国などからは日本の死刑制度に反対する声明が出ている。日弁連は7月に、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までに、死刑制度の廃止を目指すよう求める会長声明を出した。一方、死刑制度に関する政府による世論調査(2014年調査)では、約8割の国民が「死刑もやむを得ない」と容認している。

(弁護士ドットコムニュース)

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