札幌市で8月28日、夫(49)が妊娠8カ月の妻(23)の顔を殴り、妻と胎児両方を死なせてしまう痛ましい事件があった。夫は警察に自首。傷害容疑で逮捕されたのち、30日に傷害致死容疑で送検された。
報道によると、妻は車の中で殴られており、顔は判別がつかなくなるまで腫れ上がっていた(日テレNEWS24)という。
刑法では、胎児は「人」ではなく「母体の一部」とされている。つまり、被害「者」は一人ということになるが、胎児の死は量刑にどのように影響してくるのだろうか。
●生まれないと殺人罪は適用されない
いつから「人」になるのか。「人の始期」について、刑法では身体の一部が母体から出た瞬間から(一部露出説)というのが通説だ。
刑法の適用という点では胎児は人そのものではないため、法律で禁止されている「妊娠22週以降の人工妊娠中絶」をしても、「堕胎罪」に問われることはあっても「殺人罪」に問われることはない。
仮に妊婦に暴力を加えて、流産や死産させたとしても、刑法上は「体の一部」への危害として取り扱われるので、妊婦に対する罪しか成立しない(流産させる目的があれば、「不同意堕胎罪」になる可能性はある)。
一方、胎児に傷害を加え、その胎児が生まれた後に死亡した場合は、殺人罪などに問われる可能性がある。胎児性水俣病の事件が有名だ(最高裁1988年2月29日第3小法廷決定)。
●胎児の死は、行為の悪質性の評価などに影響
では、今回の事件のように、胎児を死なせてしまった場合は量刑に影響しないのだろうか。
辰野真也弁護士は、「影響はあると思います。重くなるでしょう」という。
「通説を前提にすると『2人を死なせてしまった事件』として取り扱うわけにはいきませんが、行為が悪質で危険であるとか、遺族の被害感情が激しい等の理由で、『1人を死なせた事件』でありつつも重めに判断されることが考えられます」(辰野弁護士)
たとえば、2015年に大阪で起きた、妊婦がナイフで切りつけられ失血死し、胎児も亡くなった事件では、殺人や銃刀法違反の罪に問われた男性に懲役21年の判決が確定している。