視察のために訪れた兵庫県姫路市で、宿泊先ホテルの女性従業員(22)の手の指を無理やり舐めたとして、静岡県焼津市の市議会議員の男性(69)が7月20日、強制わいせつの疑いで兵庫県警に逮捕された。
報道によると、逮捕された市議は今年5月、姫路市内のホテルのフロントで、女性従業員に両手を出すよう求めたうえで、その指を無理やり舐めた疑いが持たれている。市議は当時、酒に酔っていたとみられ、警察の取り調べに「まったく記憶にない」と否認しているという。
逮捕容疑となった「強制わいせつ」といえば、性器や胸を触ったり、舐めたりする行為が典型的だが、今回のように「指を舐める」のもあてはまるのだろうか。わいせつ事件にくわしい奥村徹弁護士に聞いた。
●「手を舐める」のは「わいせつ」でない?
「強制わいせつ罪(刑法176条)の『わいせつ』とは、伝統的な判例では『いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう』と解されていています。
また、わいせつ行為にあたるかどうかは、『社会通念に照らして客観的に判断されるべきものであって、社会通念上わいせつ行為にあたらないものが、被告人の特別の内心の意図によってわいせつ行為となることはない』(東京高裁平成22年3月1日)とされています。
結局、『わいせつ』かどうかは『社会通念』で判断されることになります」
ここでいう社会通念とは、どういうものなのだろうか。
「何が『社会通念』かというのも難しいです。参考として、『舐める行為』が起訴された強制わいせつ罪の裁判例を見ても、性器・臀部・乳房・乳首・首・唇・膝・足を舐めた事例はありますが、手の指を舐めた事例は見当たりません。
つまり、一般に、手の指を舐める行為は、『いたずらに性欲を興奮、刺激させ、性的羞恥心を害して性的道義観念に反する』とまで捉えられておらず、したがって、強制わいせつ罪にあたらないと考えます。
なお、報道によれば、近々、最高裁において、『わいせつ行為』=『客観的に性的自由・性的羞恥心を害する行為』などとする方向へ判例変更される可能性があります。
ただ、その場合でも、被害者の『主観』だけで『わいせつ性』が決まるわけではないので、結論は変わらないと思います」
●暴行罪や迷惑防止条例違反にあたる可能性がある
今回のケースは、強制わいせつ罪にあたらないとして、ほかの罪にあたらないのか。
「『従業員に<両手を出して>と声を掛け、従業員が手を前に伸ばしたところ、いきなり口元まで引っ張った』『舐めた』というのは、『人の身体に対する有形力の行使』となります。暴行罪(刑法208条)に該当するおそれがあります。
また、ホテルのフロント周辺は『公共の場所』ですし、いきなり指を舐める行為は『人に対する、不安を覚えさせるような卑わいな言動』(兵庫県迷惑防止条例3条の2第1項1号)に該当する可能性があります。
逮捕容疑は、強制わいせつ罪でしたが、実際の処分はこのあたりの罪名に落ちると予想します。
なお、強制わいせつ罪の『わいせつ行為』の定義については、判例変更の可能性がありますが、着衣の上から胸や尻を触る行為など、『わいせつ性』が微妙で、現時点では『卑わいな言動』(迷惑防止条例違反)とされている行為は影響を受ける可能性があります。判例の動向に注意してください」