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「司法の闇」に迫るドキュメンタリー映画「ふたりの死刑囚」1月に劇場公開
映画「ふたりの死刑囚」のワンシーン (C)東海テレビ放送

「司法の闇」に迫るドキュメンタリー映画「ふたりの死刑囚」1月に劇場公開

名張毒ぶどう酒事件の奥西勝と、袴田事件の袴田巌。死刑判決が確定しながらも長年にわたり冤罪(えんざい)を訴えて、再審を請求しつづけてきた二人の男とその家族を描いたドキュメンタリー映画「ふたりの死刑囚」が2016年1月、劇場公開される。制作は、司法の闇に迫るドキュメンタリーを数多くてがけてきた東海テレビ。今年10月、奥西死刑囚が八王子医療刑務所で死亡したのを受けて、緊急公開されることになった。(亀松太郎)

●30歳の女性監督がとらえた「再審を求める死刑囚」の実像

名張毒ぶどう酒事件が起きたのは、いまから半世紀以上も前の1961年のことだ。三重県名張市の小さな村で開かれた懇親会で、ぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡した。ぶどう酒を運んだ奥西勝死刑囚が殺人容疑で逮捕され、警察にいったん自白したものの、その後「自白は強要されたものだった」として潔白を主張。一審では無罪判決を受けたが、二審で有罪となり、1972年の最高裁で死刑が確定した。

それ以来、無実を訴えて再審を求め続けたが、かなうことなく、今年10月上旬に89年の生涯を閉じた。東海地方で起きた重大事件ということもあり、名古屋市に拠点をおく東海テレビは、名張毒ぶどう酒事件を継続的に取材し、事件をテーマにしたドキュメンタリーをこれまでに5本、制作してきた。「ふたりの死刑囚」はその最新作で、30歳の鎌田麗香ディレクターが監督を務めた。

本作の特徴は、2014年3月に再審開始の決定を受け、48年ぶりに釈放された袴田巌死刑囚に密着取材し、奥西勝と袴田巌という「ふたりの死刑囚」を対比しながら描いていることだ。半世紀ほど前に凄惨な殺人事件の被疑者として逮捕され、いったん自白したものの、途中から一貫して潔白を主張して、裁判のやり直しを求め続けきたという点で、両者は共通する。

しかし、一方は釈放が認められ、一方は願いがかなわぬまま獄死した。映画は、彼らを支援してきた家族や弁護士の姿も紹介しながら、二人の共通点と相違点、そして、多くの矛盾をはらんだ「司法制度の闇」を明らかにしていく。

東海テレビのディレクターとして、名張毒ぶどう酒事件のドキュメンタリーを4本制作した経験をもつ齊藤潤一プロデューサーは「奥西さんがここまで生き続けて、再審を求めて戦い続けたことによって、いろんな司法の問題があぶりだされた。奥西さんは亡くなってしまったが、その意味で、この事件は意義があったのではないかと思う」と話す。

●「50年間、苦しみ抜いた姿を見てほしい」

映画の中で印象的なのは、亡くなったことでようやく多くの人々と「対面」できるようになった奥西死刑囚の姿を、カメラがしっかりととらえ、画面を見つめる我々に「直視」するよう迫っていることだ。「これが現実だし、ようやく奥西さんに会えたというのがあったので、あのシーンは映画で使うべきだと判断した。50年間、苦しみ抜いた姿を見てほしかった」(齊藤プロデューサー)

「ふたりの死刑囚」のもう一つの見どころは、半世紀ぶりに自由を手に入れた袴田死刑囚が、姉の秀子さんと一緒に暮らすなかで、徐々に人間としての「表情」を取り戻していく過程が、丹念に映し出されていることだ。裁判所の判断で釈放されたものの、いまだ再審が開かれていない袴田死刑囚は、長期間にわたる独房生活がもたらした様々な「拘禁反応」に苦しめられているが、多くの人々の支援を受けて、その表情はしだいに明るく、豊かになっていくのだ。

だが、無罪になったわけではないため、彼には選挙権もなければ、パスポートもない。そんな袴田死刑囚に対して、鎌田監督は釈放から1年後、「巌さんにとって、幸せって何ですか?」と問いかける。このシーンについて、齊藤プロデューサーは「映画を見た人に、袴田さんって幸せなのかなと考えてほしい」と語っている。

再審、いまだ開かれずーー。仲代達矢さんの重々しいナレーションで幕を開ける映画「ふたりの死刑囚」は、2016年1月16日から東京のポレポレ東中野で公開されるほか、全国の映画館で順次上映される予定だ。

(弁護士ドットコムニュース)

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