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キャンプ場女児行方不明 「我が子を殺した犯人」扱いされた母親の信念、中傷犯が死んでも訴訟続ける
小倉とも子さん(2026年2月/千葉県/弁護士ドットコム撮影)

キャンプ場女児行方不明 「我が子を殺した犯人」扱いされた母親の信念、中傷犯が死んでも訴訟続ける

山梨県のキャンプ場で2019年9月、小学1年生の小倉美咲ちゃん(当時7歳)が行方不明になった。

母・とも子さんは、6年の月日が経った2025年、「過去に区切りをつける」として現地で植樹をおこなった。

それでも、過去のものにできないのが、誹謗中傷との戦いだ。「我が子を殺した犯人」と扱われ、陰謀論めいた荒唐無稽な発信に長らく苦しめられてきた。

中傷の中心人物に損害賠償を求めて提訴したが、訴訟の途中だった2023年、相手の男は死亡。その後、とも子さんは相続権のある血縁者らを相手に裁判を続けている。

「心の傷は残る」。とも子さんに詳しく聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

●中傷犯は「自作自演」までしていた

美咲ちゃんと暮らした千葉県の自宅で、とも子さんは中傷を浴びせられた日々を振り返る。

画像タイトル 自宅に飾られている美咲ちゃんの写真(弁護士ドットコム撮影)

行方不明の直後から、SNSやネット掲示板で中傷が始まった。

「一番ひどかったのは、ブログを書いていた70代の男でした。家族の心をバラバラにされました」

「募金詐欺」「人身売買・臓器売買した」といった悪質なデマが繰り返され、関係のない長女や夫のことまで晒された。その影響をうけ、数々の人間が中傷に加担していった。

投稿を見つけるたび、証拠のスクリーンショットを残した結果、愛する家族やペットの写真ばかりだったスマホのカメラロールは中傷の投稿だらけになった。

画像タイトル 行方不明当時の誹謗中傷

発信者情報の開示請求で、ブログを書いていた男は、複数の投稿者を装っていたこともわかった。

「男は掲示板で1人5役を演じていました。別人を演じて書いた投稿をもとに、『こんなことが書かれていた』とまたブログを書いていたのです」

家族の生活はズタズタにされた。

「いつか美咲が見つかり、長女が成長したとき、投稿を目に入れさせたくなかったんです。どうしようもない人間に執着されて、私たち家族の人生は壊されました。家族のためにも、裁判で決着をつける必要がありました」

●「法律があっても自分が法律だ」

誹謗中傷から約2年後の2021年12月、千葉地裁は、ブログ「怨霊の憑依」を運営していた野上幸雄の名誉毀損罪の成立を認め、懲役1年6カ月・執行猶予4年の有罪判決を言い渡した。東京高裁もこれを支持し、判決は確定している。

だが、野上は一貫して非を認めなかった。話が通じない、とも言える。

千葉県警の取り調べ調書によると、野上は30代から「霊媒師」を名乗って活動し、のちに未解決事件をブログで取り上げるようになった。

美咲ちゃんの失踪についても、早い段階から「母親が怪しい」と書き立てた。

捜査機関の取り調べで語った言葉からは、野上がいくら「デマ」や「虚偽」を指摘されても、それを受け入れようとしない人物像がうかがえる。次のような発言も残されている。

「(ブログの)内容が核心的なことであれば、嫌がらせや妨害をうけるという自分なりの判断基準があり」

「私の信念は、正義は見て見ぬふりをするな 法律があっても自分が法律だ」

画像タイトル 運営者が死亡してもブログは残り続けている(2026年4月)

刑事裁判の法廷でも謝罪はなく、理解に苦しむ主張を繰り返した。傍聴席で、とも子さんはメモを取る手を途中で止めたという。

●カレンダーはめくられないまま

家宅捜索で撮影された写真には、野上が犯行に使ったパソコンと向き合う姿がある。

パソコンの置かれたデスクがきれいに整頓されていたのとは対照的に、すぐ横にかけられたカレンダーはめくられないまま、時間だけが過ぎていた。

●何十年も顔を合わせていない「父親」の投稿で“被告”に

とも子さんは2022年、民事でも損害賠償を求めて提訴したが、訴訟はなかなか進まなかった。

野上は体調悪化を理由に入退院を繰り返した。「次回期日に参加できるか体調面が不安です」と裁判所に電話をしてから、1週間も経たぬうちに、心不全で死亡した。2023年9月だった。

死んだ後も、とも子さんは国内外で暮らす野上の子や孫を相手に訴訟を続けている。

「相続人として、あなたが本件訴訟の被告となりました」

数百万円の損害賠償を請求する訴訟の通知が裁判所から届けられると、血縁の子や孫はすぐに相続放棄に着手した。

娘の1人は「何十年も連絡をとってなく顔も見ていない状態で一切かかわりがありません。遺産放棄の手続きをしている最中です」と裁判所に説明している。

●この訴訟を取り下げない理由

相続人を探して裁判を続けることについて、とも子さんは葛藤も語る。

画像タイトル 小倉美咲ちゃん(家族提供)

「正直に言えば、血縁者とはいえ、すでに関わりのない人を相手に訴訟を続けることに、申し訳なさもあります。

それでも、私たち家族は深く苦しめられ、友だちも離れていき、大変な思いをさせられました。

謝るどころか、有罪判決が出たあとも誹謗中傷を続け、罪に罪を重ねたまま死なれて、私は悔しいです。罪を認めてくれていたら終わることができたはずです。

子どもが悪いことをしたら、親の私が『ごめんなさい』と謝ります。誰かに罪を認めて謝ってもらいたい。その思いで続けています」

●「誰かが止めなければならない」

こうした訴訟に対しては、「金目的」といった心ない声も寄せられる。

しかし実際には、長期化する裁判は精神的な負担も大きく、裁判を起こしたところで回収できる金額は少なく、費用の負担のほうが大きいケースも珍しくない。

一時は人と会えない状態まで追い込まれたが、回復の兆しがみえたとき、とも子さんは「自分が経験したことを社会に役立てたい」と感じるようになった。

現在も複数の中傷投稿者に対する訴訟を続けている。

「加害者は目立つ人を標的にします。あのときは、たまたま私だっただけで、次は別の誰かを狙います。どこかのタイミングで『それは間違っている』と誰かが伝える必要があるなら、私がやろうと決めました」

画像タイトル 小倉とも子さん(弁護士ドットコム撮影)

●「四半世紀も会っていなかった」

今回、野上と血縁関係のある女性の1人が取材に応じた。

20年以上前に、孫にあたる子どもの顔を見せたきり、会っていないという。

「なんでこんなことになってしまったんだろう」

「生前1回ぐらいは(野上に)会いたかった。親だからね」

幼いころの印象と、中傷を繰り返していた人物としての姿は、そこまで結びつかないようだった。

「わざわざ人のことをこんな風に言わなくても(よかったのに)。もっと違うこと考えていればいいのに」

被害者のとも子さんが裁判を続ける理由を女性に尋ねると、「裁判を続けてどうなるの?」と不思議そうにしていた。本心からそう言っているようだった。

この女性も訴訟の被告となってから、相続放棄をしている。

●被害者の負担を減らすには

主に生命や身体を故意に傷つけた重大な犯罪では、刑事裁判で有罪判決が出てから、同じ裁判官が賠償も審理する「賠償命令制度」がある。

民事裁判を別に起こすより、スムーズな手続きとなり、申立の手数料も2000円に抑えられており、被害者の負担軽減につながる。

ただし、簡易かつ迅速な手続で判断(おおむね4回以内の審理で結論を出す)できる犯罪に限定する考え方から、名誉毀損罪は対象外とされている。

とも子さんは「もし対象であれば、絶対に利用したかった。体は傷つかなくても、心は傷ついている」と話す。

導入にあたり、対象範囲の拡大は将来の課題とされた。今年2月には、法務省の検討会が、侮辱罪を制度の対象とするか議論している。結局は見送られたが、死者への侮辱罪の創設も話し合われるなど、中傷被害者を守ろうとする動きは進もうとしている。

●自分自身の体験を伝えることで社会に役立てたい

画像タイトル 小倉とも子さん(弁護士ドットコム 撮影)

相続権の放棄と「家族の縁を切る」ことはイコールではないが、死んでから家族が手続きを進めていく様子をみるに、誹謗中傷を続けた人間にふさわしい末路──。加害者に対して、そんな言葉もよぎる。

ネットやSNSに投じられる断片的な情報は、事態の全容のほんの一部に過ぎない。

そんな不確かな情報を与えられたとき、自分勝手な推理を披露したり、「結論」を出したがる気持ちは、誰にでもあるかもしれない。

しかし、そんな想像力があるなら、その一部でも「これを発信したら相手がどう傷つくか」に向けることはできないだろうか。

とも子さんは、自らが取材に応じると、新たな中傷を受けることも覚悟している。それでも語ることを選び、家族のため、社会のために役に立ちたいと願っている。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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