学校の教師が盗撮したとして、懲戒処分を受ける事例は少なくありません。
商業施設など学校の外での盗撮行為も目立つものの、勤務する学校の中で同僚や児童・生徒をターゲットにするケースもあります。
今年3月には、東京都が、20代の男性教諭を懲戒免職処分としました。勤務先の学校の女子トイレで、個室に入った女子生徒を動画撮影したというものです。
弁護士ドットコムにも「盗撮した」という教師からの相談が複数寄せられています。
「学校で小型カメラを使って生徒の着替えを盗撮してしまいました」(ある教師)
「日本版DBS」の議論も進み、教師の性犯罪に対する視線は厳しさを増しています。教師が学校で盗撮した場合、どのような罪に問われるのでしょうか。 刑事事件にくわしい神林美樹弁護士に聞きました。
●2023年7月13日以降の盗撮行為は「性的姿態等撮影罪」が問題となる
——教師が学校の中で、生徒などの着替えなどを盗撮した場合、どんな罪に問われるでしょうか
性的姿態撮影等処罰法(性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律)が成立して、性的な姿を一定の方法で撮影する行為に対する処罰規定として、性的姿態等撮影罪(2条1項/撮影罪)が新設されました。
2023年7月13日の施行以降の行為については、この撮影罪の成否が問題になります。
法定刑は、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です。これまで、学校などでの盗撮行為を処罰対象としていた各地の迷惑防止条例よりも重い処罰内容になっています。
教師が学校で生徒を盗撮するケースで撮影罪が成立するか検討してみましょう。
処罰対象となる撮影行為のうち、いわゆる盗撮行為について、同法2条1項は、正当な理由がないのに、ひそかに、対象性的姿態等を撮影する行為を処罰対象としています。
「対象性的姿態等」とは、大まかにいうと、次の3つとなります。
1:人の性的な部位(性器・肛門もしくはこれらの周辺部、臀部・胸部)
2:人が身に着けている下着のうち、現に性的な部位を直接・間接に覆っている部分
3:わいせつな行為・性交等がされている間の人の姿態
学校内での盗撮行為として問題となりうるものとしては、たとえば、階段で、スカートの中にカメラ付き携帯電話を差し向けて下着を撮影する行為が考えられます。
この行為は、正当な理由なくひそかに身に着けている下着を撮影する行為(上記の2)に該当し、撮影罪が成立します。
冒頭にあったような「小型カメラを使って生徒の着替えを盗撮」したという行為も、実際に下着などを撮影した場合には、撮影罪が成立します。
また、撮影行為の未遂も処罰すると規定されています(2条2項)。たとえば、実際には撮影自体に至らなかったとしても、更衣室に小型カメラを設置し、性的部位や下着を撮影しようとした行為は、性的姿態等撮影未遂罪として、処罰される可能性があります。
●小型カメラを更衣室に設置するだけでも処罰の可能性がある
——勝手に盗撮する行為であっても撮影罪にあたらないこともありますか
ひそかに撮影(盗撮)する行為であっても、制服などの衣服の上から撮影する行為であれば、撮影罪は成立しません。
なお、同法2条1項4号は、撮影対象が16歳未満の場合(※13歳以上16歳未満の場合、行為者が5歳以上年長であるとき)には、撮影方法を問わず、正当な理由なく16歳未満の者の性的姿態等を撮影する行為を処罰すると定めています。
ですので、この場合、ひそかに撮影(盗撮)ではなくても処罰されることに注意が必要です。教師が生徒を撮影する場合、撮影対象(生徒)が16歳未満、行為者(教師)が5歳以上年長であるというケースも多く、この条文の適用が問題となるケースも多いと思います。
さらに、撮影行為によって生成された記録について、以下の行為をした場合は、撮影罪とは別途、各規定によって処罰されます。
・提供する行為:3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(3条1項)
・公然陳列する行為:5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金または併科(3条2項)
・提供・公然陳列目的で保管する行為:2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金(4条)
●教師の性犯罪に注がれる厳しい目
——教師の盗撮行為について思うところを教えてください
教職にある人が学内で盗撮行為をした場合、被害者を深く傷つけてしまうだけでなく、たくさんの人を傷つけてしまいます。さらに、報道されるケースもあれば、懲戒免職となることもあります。
大切にされてきた仕事を失い、子どもに接する仕事に就くことが難しくなってしまいます(現在、子どもに接する仕事をする人に性犯罪歴がないか確認する仕組みである「日本版DBS」の導入も議論されています)。
カメラのボタンを押すという行為によって失うものは、あまりにも大きすぎます。
盗撮行為のきっかけは、かならずしも性的な欲求だけではなく、さまざまな要因によって追い詰められてしまった心理状態が背景にあるケースが少なくないように感じます。
問題の根本に立ち返り、アドバイスや支援を受けながら改善に努めることによって、再発防止につながります。認知行動療法やカウンセリングを実施している医療機関もあります。一人で悩まず、まずは専門家にご相談ください。