電車内では、何かの拍子に他の乗客の体にぶつかったり、足を踏んだりしてしまうことがある。
大きなトラブルに発展するケースもあり、弁護士ドットコムには「電車に乗りこもうとした際、ドア付近で立っていた男性の足を踏んでしまった」という相談が寄せられている。
この相談者が動転して黙っていると、相手から「今足を踏んだだろ」「なぜ謝らないんだ」「わざとなのか」と大声で詰め寄られたそうだ。車内は空いていて、足を踏んでしまった相手も立ち止まっていたため、完全に相談者自身の「不注意」だという。
次の停車駅で降りて、相手とはそれきりだったが、「警察に被害を訴えられたら、私は捕まってしまうのか」と心配している。はたして罪に問われるようなことはあるのだろうか。清水俊弁護士に聞いた。
●警察の捜査で特定→損害賠償請求もありうる
——足を踏まれた人がケガをしていれば、治療費を請求されたり、罪に問われることは考えられるでしょうか。
暴行罪や傷害罪はいわゆる故意犯と呼ばれるもので、「わざと」暴力をふるった場合の犯罪であるため、過失は含まれません。
今回の場合は、誤って男性の足を踏んだという過失行為であるため、暴行罪や傷害罪にはなりませんが、それでケガを負わせた場合には、過失傷害罪に問われる可能性があります(刑法209条1項、30万円以下の罰金または科料)。
なお、過失傷害罪は、起訴するために被害者の告訴が必要な犯罪(親告罪)なので、被害者がどこまで積極的に動くのか、動いたとして警察がどこまで本腰を入れて捜査するかがポイントとなります。
——民事では賠償請求などの可能性はあるでしょうか。
民事上は、過失で足を踏んだ行為について、不法行為に基づき損害賠償を請求される可能性があります。
暴行やケガの程度にもよりますが、損害としては慰謝料、治療費・通院交通費、休業を余儀なくされていれば休業損害などが考えられます。
しかし、電車内で面識のない人同士の事故であり、しかもそのまま次の駅で降りてそれきりということですから、互いの名前や住所もわからない状態だと思われます。相手方が特定できない状況では損害賠償の請求はかなり難しいと言えます。
ただ、被害者の刑事告訴が受理され、警察が捜査権限を使って、目撃者の聞き込みや、駅の防犯カメラ、交通系ICの履歴などを捜査していくことで、被疑者である相談者にたどり着く可能性はあります。
そのような刑事事件の動きをきっかけとして、示談を含めた民事事件の解決につながることはままあります。