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公務執行妨害か、警察の行き過ぎか? 「殴る真似」をして逮捕された男性「納得いかない」
写真はイメージです(ぱんだ / PIXTA)

公務執行妨害か、警察の行き過ぎか? 「殴る真似」をして逮捕された男性「納得いかない」

静岡県掛川市でパトロール中の警察官に「殴る真似」をした男性が、公務執行妨害の容疑で逮捕されたと報じられています。

静岡朝日テレビの報道によりますと、男性は11月8日、警察官に職務質問された際、「早く行かせろ」なとど言いながら、右手のこぶしを警察官の顔面に突きつけ、殴るまねをして脅迫し、職務を妨害した疑いが持たれています。男性は行為は認めているものの、行為が職務妨害なのか「納得できない」と話しているそうです。

実際に殴らない場合でも、公務執行妨害罪にあたる可能性はあるのでしょうか。元刑事というキャリアを持ち、刑事事件に詳しい澤井康生弁護士に聞きました。

⚫️公務執行妨害罪の「暴行」とは?

公務執行妨害罪は、次のように定義されています。

「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。 2 公務員に、ある処分をさせ、若しくはさせないため、又はその職を辞させるために、暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする」

澤井弁護士は、まず公務執行妨害罪の「暴行」がどのようなものか、次のように説明します。

「刑法上の暴行の概念は実は4種類あります。

(1)最広義の暴行 全ての不法な有形力の行使であり、対象は人でも物でもOKです。内乱罪などの暴行がこれに該当します。

(2)広義の暴行 人に向けられた不法な有形力の行使であり、対象は人に向けられたものであれば足り人でも物でもOKです。職務強要罪、加重逃走罪の暴行がこれに該当します。

(3)狭義の暴行 人の身体に対する不法な有形力の行使であり、対象は人であり、人の身体に加えられたものであることが必要です。暴行罪の暴行がこれに該当します。最狭義の暴行~人の犯行を抑圧するに足りる程度の人に対する有形力の行為であり、対象は人です。強盗罪や不同意性交罪の暴行がこれに該当します。

(4)最狭義の暴行 人の犯行を抑圧するに足りる程度の人に対する有形力の行為であり、対象は人です。

公務執行妨害の暴行罪は上記のうち広義の暴行です。公務執行妨害罪の保護法益は公務であり、公務員の身体の安全ではありません」

⚫️判例では直接身体に加えられなくても「成立」

今回のケースは、実際には殴られていませんが、「暴行」としてとらえらえているということでしょうか。

「公務執行妨害の暴行は、直接に公務員の身体に対して加えられる必要はなく、公務員に向けられた有形力の行使で足りるとされています。つまり公務が妨害されるのであれば公務員の身体に直接加えられる必要はなく、公務員に向けられればよいということです。

判例にも次のように公務執行妨害の成立を認めています。

『公務執行妨害罪は公務員が職務を執行するに当りこれに対して暴行又は脅迫を加えたときは直ちに成立するものであって、その暴行又は脅迫はこれにより現実に職務執行妨害の結果が発生したことを必要とするものではなく、妨害となるべきものであれば足りる。

投石行為はそれが相手に命中した場合は勿論、命中しなかった場合においても暴行であることはいうまでもなく、しかもそれは相手の行動の自由を阻害すべき性質のものであることは経験則上疑を容れないものというべきである』(最高裁昭和33年9月30日判決)

また、公務執行妨害罪の暴行又は脅迫を公務員の職務の執行に密接不可分の関係にある補助者に対して加えられたものでもよいとされています(最高裁昭和41年3月24日判決)。

したがって、殴る真似であり直接公務員の身体に接触していなくても公務員に向けられた有形力の行使といえるので、公務執行妨害罪における暴行又は脅迫といえ、同罪が成立することになります。

一般の方は実際に当たらなければ公務執行妨害罪にならないと誤解されていると思いますが、そうではないということです。実際に私も警視庁時代に女性警察官に対して同じような行為をした犯人を公務執行妨害罪で逮捕したことがあります」

プロフィール

澤井 康生
澤井 康生(さわい やすお)弁護士 秋法律事務所
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(3等陸佐、少佐相当官)の資格も有する。現在、早稲田大学法学研究科博士後期課程在学中(刑事法専攻)。朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。

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