性加害の根本原因は、ジャニー喜多川氏の個人的性癖としての性嗜好異常にほかならない——。
ジャニー喜多川氏(享年87)による性加害問題を受けて、ジャニーズ事務所が設置した「外部専門家による再発防止特別チーム」の調査報告書で、このような指摘がされた。
特別チームのヒアリングでは、元ジャニーズジュニアの証言から、13歳〜15歳の中学生時代を中心に、一部高校生を含む思春期の少年を性愛対象として、同意のない性行為を強要する性加害を繰り返した事実が明らかになっている。
この「性嗜好異常」とは、いったいどういうものなのか。治療は可能なのか。依存症を専門とする「大石クリニック」院長で、精神科医の大石雅之医師に聞いた。
大石雅之医師(弁護士ドットコム撮影)
●正式には「性嗜好障害」という病名
調査報告書では「性嗜好異常」と書かれていますが、国際的な疾病の分類では「性嗜好障害」という病名になります。パラフィリア症とも呼ばれます。
これは、社会的なリスクを冒してまで、犯罪行為に当たる性的な問題行動を起こすものです。同意しない人や子どもなど同意できない人に対して、性的な行為をおこなうことも対象になります。
この「性嗜好障害」の中に、さらに分類があり、痴漢や盗撮、露出などと並び、子どもを対象とする「小児性愛」があります。診断基準上は13歳以下とされていますが、対象が中学生や高校生の場合も含めることもあります。
依存症とよく似ていますが、「性嗜好障害」の診断基準に「コントロールができない」というものはありません。厳密には区別されており、依存症の分類には入っていません。
●重症の人には効果がない?
性嗜好はすぐには変えられませんが、時間をかけて治療することで変えることは可能です。
小児性愛では「子どもが喜んでいる」と、認知が歪んでいる人もいます。その場合、認知行動療法によって、認知を変えることになります。性的な問題行動の引き金を検討して、対処行動を考えることもします。
私のクリニックには、痴漢や盗撮などを自分でやめたいという思いで治療に来ている人もいます。たとえば、人間は「たばこを吸いたいけどやめたい」といった相反する思いを持つことがありますよね。たばこと同じで、どちらの気持ちが強いかです。自分で気づいて治療に来る人もいれば、逮捕後に弁護士に連れられて来る人もいます。
認知行動療法は、軽症の人には効果がありますが、重症の人には効果がないとされています。どこからが重症という明確な基準はありませんが、刑務所に5回、10回と入ったり、何百人もの人に手を出したりしている場合は、重症に当たると思います。ここにどうアプローチするかが、一番の問題です。
●先生になってから性嗜好障害になる人も
今、「日本版DBS」の議論が進んでいます。ただ、効果があるかどうかは、精神科医の中ではかなり疑問視されています。
たとえば、学校の先生で言えば、子どもたちに近づくために先生になるという人ばかりではありません。先生になって、子どもと付き合うようになってから、性嗜好障害になる人もいます。
みんな逮捕されたらどうなるかわからないので、なかなか治療を受けません。重い犯罪であるほど隠匿するとも言われています。世界的には厳罰で抑止することは難しいと言われています。子どもは訴える能力がありませんから、生涯捕まらない先生は山ほどいます。
「日本版DBS」に実効性があるかどうかは、やってみないとわからないところでしょう。
病気だからなんでも許されるのではなく、責任能力があるから犯罪として処罰されます。ただ、重症の人は、サラリーマンや公務員であれば懲戒処分を受けて仕事を失い、家庭も失うことがあります。住む場所や仕事の面倒をみてあげないと、社会復帰ができません。こうした加害者に対する社会復帰の支援も必要だと思います。