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「恋愛できなくなってしまう」15歳女子高生と淫行逮捕の40代男性から見た「刑法改正」
写真はイメージです(miyuki ogura / PIXTA)

「恋愛できなくなってしまう」15歳女子高生と淫行逮捕の40代男性から見た「刑法改正」

性犯罪規定を見直す改正刑法が成立し、7月13日から施行される。

「性交同意年齢」が13歳から16歳に引き上げられ、16歳未満との性交は同意の有無にかかわらず処罰対象となるほか、時効も延長される。

その行方を複雑な思いで見ているのは、40代の男性経営者だ。

「改正後の法律であれば、僕は強姦したことにされる」

数年前、15歳の女子高生を相手にした性犯罪事件で逮捕され、不起訴となった。改正法のもとでは性的な目的で近づく行為も「グルーミング罪」として処罰されるとあって、「こんな法律では恋愛ができなくなる」と話す。

性犯罪加害者の治療にあたる専門家は、こうした言い分を「社会や法律のほうが悪いというのは、治療でよく聞く内容」と指摘する。改正法は罪を犯した人にとってしっかりと「嫌な法律」になっているのだろうか。

●「加害者も被害者もいない」

男性は数年前、青少年健全育成条例違反の罪で逮捕された。

経営する店の中で、客の少女と2人きりになったときに行為があったという。

それからしばらくして、自宅で逮捕されると、取り調べで性交の事実を認めながらも「真剣交際」「女の子から誘われた」と供述した。

金銭の授受が認められないことなどから不起訴処分(起訴猶予)となり、解決金の支払いや少女に近づかないことなどを条件として、保護者とも示談が成立したという。

イメージ(Graphs / PIXTA) イメージ(Graphs / PIXTA)

刑罰は免れたが、実名・顔出しのニュースで取り上げられ、ネットには批判が相次ぎ、店の売上も大幅に下がるなどの社会的制裁を受けたそうだ。

今でも「犯罪者」などと名指しされているが、男性は「法律に違反したかもしれないが、僕は加害者ではない」と一貫して主張する。

●「付き合っていなかったから性行為をした」

男性自身はネット記事から「真剣交際であれば未成年とのセックスも問題ない」とする情報を得ていたことからも、自分が罪に問われるのはおかしいとも話す。

警察や検察の取り調べ、今回の取材でも「交際していた」と繰り返し述べたわけだが、よくよく聞いてみると、交際の事実は疑わしい点が残るものだった。性行為は数回あったが、少なくとも1回目の時点では交際していなかった。

「女の子から誘われても断るのが正しいけど、機会を逃せば、他の男に行ってしまうかもしれない。付き合いたいし、セックスしたいとなると、断れなかった。真面目ぶって嫌われたくなかった」

「15歳といっても、お母さん的な性格の子だし、僕よりも精神的に大人。年齢差があっても支配的な感じではない」として、「対等な付き合い」を強調する。

2回目は避妊しなかったという。15歳での妊娠が人生に与える影響は甚大だが、そこまで考えたうえでの「真剣交際」だったのか。

「相手の保護者を含めて話し合いになる。彼女の人生を考えたら、高い割合で言えば堕ろすしかないかな」

●法律の罰金は抑止力にならず。刑法改正をどう受けとめる?

示談をもとめた保護者からは、強烈な怒りを向けられた。事件をきっかけに少女が診療を受けるようになったことを悲しみ、店をたたむことも当初は要求されたそうだ。

「保護者の怒りがズレていた。『僕の逮捕報道で娘が登校拒否になった。おまえのせいだ』と言われたが、逮捕した警察に怒りを向けるべき」

男性の中では、少女にショックを与える原因をつくった警察こそ「加害者」だというのだ。

「罰金数十万円払うほうがマシだった。普通に有罪でよかった」

この夏に施行される改正法は子どもを狙った犯罪の対策を強めている。彼の視点からどう見えているのか。

●新設される「グルーミング罪」に抵抗を示す

未成年に対するグルーミング行為(手なずけ)に対する罰も「面会要求罪」として規定される。わいせつ目的で年長者が若年者と巧みに接近する行為とされるが、「相手を好きにさせるのが恋愛だし、こんなものができたら恋愛できなくなってしまう」と否定的だ。

時効の延長にも反発をみせる。

「10年前などあまりに古い事件では、証言が正しいのかわからない。数年前の性交でさえ、僕は警察から聞かれて覚えてないことが多かった。法改正で救われる人もいるかもしれないけど、言いがかりで罪にされてしまわないか不安だ」

知ろうとしなかったのか、本当に知っていないのかは判別ができないが、彼は「2005年にできた淫行の規定(東京都の青少年健全育成条例)も逮捕されるまで知らなかった」と話す。

どこまでやったら犯罪かハッキリと周知してほしいとも強調した。

●性障害医療の専門家「稚拙な言い訳は臨床現場でもよく聞かれる」

性障害専門医療センター「SOMEC」代表理事で、再犯防止のため性障害治療にとりくむ精神科医の福井裕輝さんは、男性の言動を受けて「悪いとはわかっていても、自分が正しくて、法律や社会のほうがおかしいという考え方をもつ確信犯的な思考の印象です」と分析する。

SNSや出会い系サイトなどインターネットを通じてつながる犯罪が増えていて、特に未成年の関与が増えている中で、法改正は必要であり、遅かったくらいだとも指摘した。

miyuki ogura / PIXTA(左)、kouta / PIXTA(右) miyuki ogura / PIXTA(左)、kouta / PIXTA(右)

「『彼女のほうから誘われた』『グルーミングを禁止されたら恋愛できない』というのも、成年者であれば禁じられているわけではなく、15歳には同意能力がないのであって、稚拙な言い訳だと思います。

時効延長されると冤罪が増えるおそれがあるとしても、性犯罪に限らずどんな罪でも罰則規定は何らかの抑止力になるために作られています。それに付随して冤罪も生まれるでしょうけど、それよりも作るメリットが大きいと想定されている。だから問題だとは思いません」

2017年の刑法改正で「強姦罪」が「強制性交等罪」になり、被害者の性別が問われなくなったタイミングで、治療に訪れる女性患者が急に増えたという。

「今回の法改正でも、性交同意年齢の引き上げによって、性犯罪の枠が新たに増えるので、今まで問題が表面化していなかった人などが治療を受けにくることが予測できます。

13歳未満の小児性愛(ペドフィリア)より上の15〜19歳に向かう性的嗜好(エフェボフィリア)との病名だとすれば、治療できます。もしこの男性に治療意欲があるなら、自分は正しくて、法律や社会がおかしくて間違っているという『認知の歪み』の心理的教育をしながら、自分が悪かったんだと理解してもらいます。

不起訴となった男性が、社会的制裁だけ受けている状態は、単に本人だけがどこまでも納得のいかない状態と言えます。警察や検察が治療につなげる流れを作ってほしいと思います」

福井裕輝さん(SOMEC提供) 福井裕輝さん(SOMEC提供)

●10代の少女を好きなわけじゃない。大人の女性は「純粋じゃなくなってくる」

男性の話に戻る。彼は「若い少女だけを好きなわけでない」と説明している。

10代との交際が多いものの、「交際しても問題にならない20代や同年代と本当は付き合いたい」のだという。

ただ、その年代の女性たちが「純粋じゃなくなってくる」から交際まで至らないそうだ。

「同年代の女性はお金とか会社の地位やステータスで見るようになってくる。若い子は、ステータスや経済力ではなく、僕を人間そのものとして見てくれる。好かれることが多い」

「失うものが大きすぎるから、もう同じことはしない」と言いつつ、また未成年の客と2人きりにならないように気をつけなければ、とも口にしていた。

男性にとって、改正刑法は一定程度「嫌な法律」として抑止力になりそうだが、冤罪を避けるための措置や、やりとりにおいてグルーミングをどのように見きわめるのか慎重な運用がもとめられるだろう。

取材を受けたのは「何か言えば炎上するし、黙っているしかなかった。誰にも何も言えなかった。誰かに何か言いたかった」という思いがあったからだという。孤立させず、安心して話せる場も必要かもしれない。

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