弁護人としては約40年ぶりの制裁裁判にかけられ、過料3万円を言い渡されたばかりの中道一政弁護士(大阪弁護士会)が6月5日、弁護士ドットコムのオンライン番組に出演し、当時の状況や法廷録音の必要性について語った。
中道弁護士は5月30日に大阪地裁であった公判で、法廷録音の許可をめぐり岩﨑邦生裁判長と対立。手錠をかけられ退廷させられたうえ、制裁裁判を受けたことで話題になった。
番組では中道弁護士がこれまでの活動を報告したうえで、記者や会場からの質問に答える形式で進んだ。以下、中道弁護士の報告や番組では回答しきれなかった内容も含めて、出来事の時系列に沿った一問一答の形式に再構成して紹介する。
全体で7000字超あり、以下は中見出しの一覧。
・(1/7)岩﨑裁判官との因縁
・(2/7)初公判でほのめかされていた「法廷警察権の行使」
・(3/7)手錠をつけられ拘束室へ 残された被告人
・(4/7)すぐに終わった制裁裁判
・(5/7)法廷録音、そこまでして求める理由は?
・(6/7)当事者による法廷録音、「運用で認められる」と考える根拠
・(7/7)国賠訴訟はしないのか?
●(1/7)岩﨑裁判官との因縁
——今回制裁裁判を開いた岩﨑裁判官とは因縁があると聞きました
法廷録音を初めて求めたのは2022年11月で、その事件では国選弁護人を解任されました。12月にも3件で録音を求めていて、岩﨑裁判官はそのうちの1つの担当。事前に法廷録音の許可を求めましたが理由の説明なく不許可でした。
一度解任されているので、戦い方はいろいろと考えていて、このときは法廷録音を不許可とする訴訟指揮に対して異議を出しました。棄却されるでしょうが、異議を棄却した決定を対象として抗告できると考えたのです。
そうしたら岩﨑裁判官は「抗告の結果が出たら、その判断には従うのか」「不服申立ての手段が尽きれば従うのか」と聞いてきました。
私は抗告審が門前払いされる可能性もあるので、「不服申立ての判断が出されたときに考えます。不服申立ての判断に従うかどうかは分かりません。判断の内容を見て検討します」と答えました。
これに対し、岩﨑裁判官から「内容次第では従わないということか」と聞かれたので、「その可能性はあります」と答えたのですが、岩﨑裁判官はすぐさま「判断の内容次第では従わない」旨を調書に記載すると述べました。私は改めて「特別抗告の内容次第」だと説明し、「判断の内容次第では従わない」という方向のみの調書を取ることに抗議をしました。
しかし、公判調書には「判断の内容次第では従わない」とだけ記載されていました。私は法廷録音に基づいた書き起こしを提供しつつ、公判調書を具体的にこのように書き直してほしいという異義申し立てをしました。
録音によると、私が「『判断の内容次第では従わない』という方向だけで調書をとるのはやめていただきたいです」と発言したとき、岩﨑裁判官は「記録にとどめるかどうかはこちらの裁量です」と述べています。
そこで私は「記録にとどめることが裁量というご発言自体が録音の必要性を裏付けていると考えます」と反論しています。それに対して、岩﨑裁判官は「まあ、まあ、それはいいんですよ」と言っていて、ちょっと困っておられたと思います。
結局、この訴訟指揮に対する異議を却下したことについての抗告は、抗告の対象外であるということが最高裁で確定してしまいました。そのため、並行して録音許可申請をしていた他の事件でも同じことをしようと思っていたのですが、抗告はしないことにしました。
大阪地裁(白熊 / PIXTA)
●(2/7)初公判でほのめかされていた「法廷警察権の行使」
——今回の制裁裁判を迎えるまでにどういう経緯があったんでしょう?
別の戦い方を考えていた今年2月頃に本件の被告人と出会い、被疑者段階から受任しました。法廷録音で国選弁護人を解任されたことがあるという話をしたところ、ご本人のほうから録音したいと強く言われました。私選だったので解任はないということで、要望に応えようと思いました。
制裁裁判になった5月30日の公判は第2回で、初公判は4月20日にありました。開廷直後に録音を実施していることを宣言し、同時に法廷内録音許可申請書を提出しました。不許可と言われ、その理由を問う、というやり取りが繰り返されました。
ただ、このときは閉廷されたくなかったので、やむを得ず録音機を一時停止し、書記官さんの前に置いて「停止してますよね」と確認させたうえで、裁判の進行について議論しています。ですが議論が不調に終わったので、改めて録音を再開しようとしたところ、岩﨑裁判官はこのままでは閉廷せざるを得ないと言う。
私は改めて録音を禁止する理由をたずねましたが、岩﨑裁判官が「法律上必要のない理由は述べません」と言うので、私も「考えを改める気はない」と強気に返しました。
岩﨑裁判官は次のようにも述べていて、実は初公判のときから法廷警察権に基づく措置がありうることは、ほのめかされていたんですね。
「次回でも同じようなことをやるのであれば、法廷警察権等に基づいて適切な措置をとります。解任はもうないわけですが、ほかに何も手段がないわけでもない、こちらとしてはいろいろ考えることはありますので、行動を改める機会は差し上げますので」
画像はイメージです(takeuchi masato / PIXTA)
●(3/7)手錠をつけられ拘束室へ 残された被告人
——5月30日、法廷では何が起こったんでしょう?
期日は追って指定することになっていて、初公判からしばらくして、第2回公判期日の日程調整のFAXが来ました。5月30日にチェックをつけ、FAXの備考欄に「法廷録音は実施する予定」と書いて返信しています。
公判では録音機をすぐに机上に置きました。岩﨑裁判官から録音を停止するように命じられたので、その根拠を聞くけど、やはり答えない。
しばらくすると退廷命令が出され、私が不当だと思って法廷に留まっていると、警備員が私を外に連行しようと入ってきて、それでも法廷に留まっていると、岩﨑裁判官から拘束命令が出され、手錠をかけられました。
警備員はそれほど力を込めていたようには感じませんでしたが、手を押さえられ、足を持ち上げられて、踏ん張っていられないという感じになって、拘束室に連れて行かれました。
午前11時30分の開廷だったんですが、直後に拘束されたので、1時間半ほどを拘束室で過ごしたことになります。
——被告人はどうなったんでしょうか?
連行される前に荷物だけは何とかさせてくれる時間をくれました。それで被告人に記録を渡しました。被告人から「一人になったらどうしたら良いか」と聞かれたので、「さすがに弁護人抜きで進むことはあり得ないと思います」と申し上げました。
私もさすがに拘束室までは想定してなかったんですが、退廷命令で法廷の外に出されることは考えていました。もしもそうなったとき、恐らく被告人一人で進めることはないということ、国選弁護人を職権で選任することぐらいはしてくれるだろうということは、事前に伝えてあったんです。
ところが、「弁護人抜きで進むことはないと思う」と聞いた瞬間、岩﨑裁判官は「この事件は必要的弁護事件ではないので進めますよ」というふうにおっしゃったんです。私の行為の責任でもあるのですが、被告人もかなり不安になったと思います。
その後、被告人は調子が悪くなってしまって…。「何を言われているのか分からないです」と繰り返し発言し、裁判に対応できない感じになっているさなかに、次回期日が指定されたようです。
あとで公判調書を確認したのですが、私の失言はたくさん記載があるのに、岩﨑裁判官の「必要的弁護事件ではないので進めますよ」のところは記載がありませんでした。この点については、異議申し立てをしようと考えています。録音がないと、裁判官の失言を立証できないですよねと。
●(4/7)すぐに終わった制裁裁判
——拘束室はどんなところでしたか?
地下1階なのか2階なのか良くわかりませんでしたが、被告人がいつも裏から来る道と繋がっている部分にある部屋です。カギは二重ロックでしたが、8畳ぐらいありました。
拘束室に連れて行かれる頃には、職員さんとも打ち解けて雑談をしていたんですが、「そろそろお昼ですけど、ご飯どうなるんですかね」と軽く言っただけで、職員さんの雰囲気が変わりまして。ご飯ってやっぱり「人権の砦」の一つなんだなと実感しました。「この弁護士にお昼出さなかったら、何言われるか分からへん」って、思いはったんでしょうね。
急いで準備してくださったお弁当は、正方形の弁当箱が9等分されていて、それぞれにご飯含めておばんざい的なおかずが入っていました。お支払いを申し出たんですけど、いらないと言われたので、料金は裁判所持ちになっています。
——制裁裁判はどんなものでしたか?
拘束室滞在中、13時に開廷すると口頭で伝えられました。同じ法廷に戻って、岩﨑裁判官から制裁裁判を受けたんですが、5分、10分程度で終わりました。
決定によると、退廷命令の執行にあたって職員に「激しく抵抗」するなどして、裁判所の職務の執行を妨害したということになっていました。向こうから見たらそうなんでしょうけど、自分としては暴れてはいなくて、その場に留まり続けていたという認識です。
ただ、先ほどから申し上げている通り、岩﨑裁判官とは訴訟指揮をめぐって徹底的に争ってきたので、双方ともに感情的になる場面は多々ありました。ご批判は大いにあるかなと思います。
ちょっと後悔しているのは、拘束中に「当番弁護士を呼んでください」って言えば良かったなということです。現在は抗告して結果を待っています。こちらについても誰かに代理人をお願いできたら良かったなと。
ただ、制裁裁判のことは、大阪弁護士会の刑事弁護委員会のメーリングリストに流れて知られているので、委員の先生方から有益なアドバイスをたくさんいただきました。
『法曹時報』に記載されている「法廷等の秩序維持に関する法律違反事件の被制裁者別人員」を参考に、弁護士ドットコム作成
——大阪弁護士会への懲戒請求はなかったんですか?
これまでもなかったですね。単なる推測ですけれど、裁判所から弁護士会に対して懲戒請求をすると、弁護士会としても法廷録音について会をあげて判断せざるを得なくなるでしょうから、裁判所としても踏み込みづらさはあるかもしれません。
●(5/7)法廷録音、そこまでして求める理由は?
——そもそもどうして法廷録音が必要なのでしょう?
なんで自分の裁判の録音を持ってはいけないのか、とは思いますが、現状録音すると閉廷されてしまうので、早く終わらせてあげるべき自白事件などでは、ご要望があっても、やめておきましょうという対応にしてます。今回の事件以外を除くと、現在は録音する事件はやっていません。
今回の事件は報道の通りストーカー事件ですが、被告人は起訴について納得できないという感情を強くお持ちなので、法廷でなされることすべてを正確に記録したいと要望しています。
——裁判所がつくる調書はそんなに信頼できないのですか?
自分の経験上では、不正確なものが「時々ある」ぐらいで、全体的には割としっかり作ってくださってるイメージです。
ただ、今回の岩﨑裁判官のように自身に不都合な発言を消してしまうケースもあるので、一応全件録音していたいと。被告人にとっては、人生を左右することですから、シンプルにその場で話されたことを証拠として持っておきたいですよね。
たとえば、昨年録音申請した事件の1つでは、録音許可のやり取りが調書で本当に忠実に表現されていたので、自分のデータはもう削除しましたという上申書を出したりもしました。データをずっと持っていることに懸念があるということなら、調書を確認したうえで削除することはやぶさかではありません。
中道弁護士
●(6/7)当事者による法廷録音、「運用で認められる」と考える根拠
——今後はどうする予定ですか?
次回期日については、先ほど述べたように異議申し立てをしようと思います。今回と同じことをやるかどうかはどうですかね…。
ただ、自分もいち弁護士が過料を受けたぐらいで、と思っていたので驚きましたが、一般紙もニュースにしたり、SNSでバズったりと反響が大きかったので、裁判所も直接自由を拘束するとかではなく、たとえば録音機を取り上げるとか、より制限的でない手段をお考えになるかもしれませんね。
そのほかではひとまず、制裁裁判の決定に対する抗告に集中したいと思います。
【編注:放送後の6月9日、大阪高裁は中道弁護士の抗告を棄却する決定をした。中道弁護士は特別抗告するという】
——法廷録音には立法が必要になってくるのでは。認められるには今後どういう運動が必要だと思いますか?
立法化するとしても全面的に録音していいっていう立法は多分不可能だと思うんです。でも、何らかの条件のもとに許可するということだと、今の刑事訴訟規則と変わらないので、立法ではなく、運用で解決すべきではないでしょうか。
実際、私は既存の規則自体が、録音は原則許可の運用をすべきとちゃんと読めるように作られていると考えています。
私が弁護人としての法廷録音の許可を求めている根拠は、「刑訴規則47条2項」になります。裁判所での法廷の録音等に関する定めは、「刑訴規則215条」もあるんですが、215条の対象は一般傍聴人等、47条2項は訴訟関係人等という建て付けです。
【第四十七条】公判廷における証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人の尋問及び供述、被告人に対する質問及び供述並びに訴訟関係人の申立又は陳述については、第四十条の規定を準用する。
2 検察官、被告人又は弁護人は、裁判長の許可を受けて、前項の規定による処置をとることができる。
【第二百十五条】公判廷における写真の撮影、録音又は放送は、裁判所の許可を得なければこれをすることができない。但し、特別の定のある場合は、この限りでない。
最高裁判所事務局刑事部・編『刑事訴訟規則説明書』(1949年、法曹會)によると、刑訴規則47条2項は、規則215条の「特別の定め」ということになっています(p110)。そうであれば、一般傍聴人は不許可原則という考え方はあり得ても、訴訟関係人は許可原則で運用することが予定されていたんじゃないかと言えないでしょうか。
そして、刑訴規則47条2項は、「公判中心主義の理想の達成を助成」するための規定であるということも書かれています(p30)。逐一メモを取りながら裁判するのは大変ですので、録音しながら、訴訟活動に取り組むのは非常に合理的だと思っているところです。
また、公判調書の正確性に対する異義申し立てについて定めた刑訴法51条の権利の実効性を確保するという観点から刑訴規則を解釈することも当然のことではないでしょうか。 刑訴法322条2項は、「その供述が任意にされたものであると認めるときに限り、これを証拠とすることができる」としていて、署名押印がない公判調書にも事実上ほぼ無条件の証拠能力を認めています。
公判調書に絶大なる証拠能力を認めている刑事訴訟法の制度から見ても、公判調書の記載の正確性はすごく大事なことで、これに対する異議申し立てという制度的担保があるはずです。その制度的担保の実効性を確保するという観点から、客観性のある証拠を弁護士やあるいは検察官も持つべきではないかと思っています。
——裁判所が録音を開示するという方向性はありませんか?
最高裁判所事務総局・編『刑事手続法規に関する通達・質疑回答集(追補2)』(1960年)では、刑事訴訟規則40条について次のように書かれています。
「問 弁護人から刑事訴訟規則第47条第一項の規定により録取した録音を再録音したい旨申出のあつた場合これが拒否についての貴局のご意見並びに他に同様の実例があるならばその結果を至急承りたく照会いたします(新潟地裁所長)
答 刑事訴訟規則第47条第一項の規定により公判廷における証人尋問等の内容を録取した録音を再録音したい旨が弁護人からあつた場合、裁判所としては、必ずこれに応じなければならないものではないが、訴訟遂行のため特に必要があり、かつ、弊害が伴わないと認められる場合には、再録音を許しても差しつかえないものと解する。もつとも、録音を再生して聴取させることによつて右申出の目的が達せられると認められる場合には、なるべくそのような方法によるのが相当であると思われる。なお、再録音したい旨の申出がなされた実例は二、三ある模様であるが、いずれも、その結果は、聞知していない。(昭和33、1、17 最高裁刑二第三号刑事局長回答)」(p476)
「特に必要があり、かつ、弊害が伴わないと認められる場合」とはされているものの、複製まで認めて良いと書かれているのだから、聞かせるだけなら認めても良さそうなものです。
しかし、私が国選弁護人を解任される際、求意見でこの部分を出しましたが反応はありませんでした。法廷録音がダメなら開示してほしいと言っていますが、認められていません。
●(7/7)国賠訴訟はしないのか?
——視聴者からは国賠訴訟はしないのか、という質問が届いています
国賠はちょっと考えてはいました。とりわけ国選弁護人を解任された事件はやりやすいなと思ったんです。解任が不法行為だとすれば、それと因果関係のある損害は私が仮に選任され続けていれば得たであろう、国選弁護人としての報酬請求権という形で成り立つなと。
ただ、騒動からほどなく今回の被告人と出会って。裁判所からの解任がない私選弁護人なので、この方面でとりあえずやってみようと。並行して国賠もやっていいかなと思っているんですけど、なかなか手が回らないという感じです。
——ほかの弁護士に伝えたいことはありますか?
ご依頼人にその気があるのでしたら、法廷録音を求めていくというのはあると思います。閉廷されるような扱いは相当しつこく録音の許可を求めてるときなので、法廷録音の許可を求めて不許可と言われ、異議を出し、異議に対する決定をもらうという流れを全国でやるっていうのはあり得るかもしれませんね。要望があれば、これまでの書面等は共有できますのでご連絡ください。