声優の櫻井孝宏さんの女性問題が「文春オンライン」で報道されたことを受けて、所属事務所は1月18日、経緯を説明する声明を発表した。
文春オンライン(同17日)によると、女性は2006年から2021年まで、櫻井さんが結婚したあとも、それを知らされないまま交際関係を続けたという。
その後、女性は、櫻井さんが結婚していた事実や、別の女性との不倫を伝える記事が出たことなどをきっかけとして、櫻井さんに「謝罪費」を求めたが、提示された「100万円」に納得できず、
〈こちらとしては提示額にゼロが1つ足りないという認識ですので、双方の事実認識・価値判断・物事の捉え方にあまりに差異がありすぎ、こうして解決出来る事柄ではないという判断に至りました〉 〈本件に一番相応しいと思う形で本件に幕を引かせて頂きます〉
などと返答したという。
所属事務所は「櫻井は1000万円を請求されており、指定期日までに対応がない場合、当該女性の納得のいく方法・手段を実施すると伝えられておりました。法外な金額であったことから、櫻井が個人で委任した弁護士を通じて要求を断ったところ、報道がなされた次第です」と説明した。
15年にもわたる不誠実な交際の解決金として、1000万円の支払いは「法外」なものだろうか。また、女性の行為は恐喝などの罪に問われる可能性はあるのだろうか。
●弁護士の見解「背景からすれば、1000万円の金額設定も心情としては理解できる」
——記事の内容や15年にわたる交際を事実とした場合、これまで受けた苦痛に見合う金額として1000万円を求めることは「法外」なのでしょうか
まず、既婚の事実を隠して女性と交際する行為は、女性の貞操権等を侵害する不法行為にあたり、女性が被った精神的苦痛への慰謝料など損害賠償請求の対象となります。
ただ、慰謝料については、これまでの裁判例の蓄積による相場感はあるものの、特段、計算式などはなく、また、裁判所で認容されるであろう金額になるべく近づけて請求しなければならない、というものでもありません。
むしろ、本人の意向やその後の和解交渉を見据え、相場感より高めに設定することも往々にしておこなわれています。ただし、請求金額に応じて訴状に貼る印紙代が高くなりますし、弁護士費用も契約内容によっては高額になり得るため、そうした観点からの歯止めはあるかと思います。
さて、今回の1000万円という慰謝料が「法外」か、というご質問ですが、「およそ裁判等で認められない」という意味だとすれば、判断しかねます。
そもそも、慰謝料は事案ごとの個別事情により総合的に判断されるものであるため、事情をよく知らない第三者が「法外」かどうか判断しようがありません。
今回のケースについてみると、たしかに貞操権侵害としての一般的な相場感からすれば少し高額なようにも感じますが、他方で、この女性が本当に15年間騙され続けていたとすれば、ご本人の怒りや悲しみは相当なものであり、1000万円という金額設定も心情としては理解できますので、無下に否定できないようにも思います。
——今回の1000万円請求は恐喝などの罪にあたるのでしょうか
慰謝料として1000万円という金額を設定したことだけで、直ちに恐喝罪になるとは言えません。恐喝罪とは「暴行または脅迫により人を畏怖させて財物等を交付させる行為」を言いますので、典型としては「払わなければ殺す」といった恐喝行為が必要となるからです。
ここでの「脅迫」とは、「相手方の生命、身体、財産、名誉、自由に対する害悪の告知」をいいますが、その観点からすると、『本件に一番相応しいと思う形で本件に幕を引かせて頂きます』という言葉だけでは脅迫行為として不明確ではないかと思われます。
ですので、今回の請求は恐喝にあたらないと考えられるのではないでしょうか。
なお、逆に、貸した100万円の返済を求めるという正当な請求権行使であっても、暴行や脅迫を用いれば恐喝罪に該当してしまいます。