「覚せい剤」買うために闇バイト、二度の服役…元売人「ガマンやめたらクスリもやめれた」
取材に応じたキクチさん(仮名、2021年11月4日/都内/弁護士ドットコム)

「覚せい剤」買うために闇バイト、二度の服役…元売人「ガマンやめたらクスリもやめれた」

覚醒剤をやめられず、2度の服役経験があるキクチさん(仮名・43歳男性)は、クスリを買う金ほしさに、ほかの犯罪にも手を染めたことがある。

覚醒剤をやめて約4年9カ月。現在は派遣社員として東京都内で働きながら、受刑者や出所者を支援するNPOの活動に参加したり、講演活動をしている。

「回復に向かう過程は人それぞれ」と語るキクチさん。彼は、どんな道のりを歩んできたのか。

●ドレッドヘアの男子学生に「魔法のクスリ」を教わる

キクチさんは子どものころから、自分が思っていることを口に出せないタイプだった。中学3年のころ、高校に行かなくなり、家でガラスを割るなどして荒れている姉の姿を横目で見ながら過ごしていた。

高校は、都内にある私立大学の附属高校に推薦入学。大学進学にこだわる母親や姉の意向で、自分の意思で選択した学校ではなかった。高校1年生のときは、同級生とは一言も話さずに帰宅することがほとんどだった。3年間の高校生活で、心を許せる友人は1人もできなかった。

「学校に行くのが嫌で仕方なかったです。でも、さすがに、親に高校を『やめたい』とは言えませんでした。僕も『高校は出ていないとヤバイ』とは思っていたので…。中学の同級生にも恥ずかしくて、友人ができないことを言えなかったですね」

エスカレーター式に入った大学の入学直後は「生まれ変わる!」と決意したものの、やはり行く気にならなかった。特にやりたいこともなく、内部進学者もいるため「居場所がない」と感じたためだ。

唯一おもしろさを感じていたのは、中学の同級生と高校時代に始めた麻雀だった。大学に行くふりをして、フリー雀荘に入り浸る日々が続いた。

ある日、店員に「雀荘で働かないか」と誘われ、バイトを始めた。そのときの同僚がキクチさんに覚醒剤をすすめた。国立大学に通う2つ年上のドレッドヘアの男性だった。

画像タイトル 雀荘では、自分の給料を賭けて麻雀をしていたという(OrangeMoon / PIXTA)

「めちゃくちゃ頭がいい同僚で、よく家に遊びに行っていました。ある日、彼に『イギリスの学者も使っている』と言われ、すすめられたのが覚醒剤でした。ヤバイなとは思いましたが、使ってみたら、36時間ぐらい起き続けられたんです。

『何これ!ずっと起きていられるじゃん!魔法のクスリだ!』と思ったのを覚えています。でも、使っていくうちに、だんだんクスリがないと怠さを感じるようになっていきました」

●覚醒剤を買う金ほしさに、詐欺などの犯罪に…

大学3年目に中途退学。雀荘のバイトもやめて、同僚との縁は切れた。しかし、覚醒剤を断ち切ることはできなかった。

派遣の仕事を始めたが、給料はすべて覚醒剤に消えた。「金がなければ、クスリを買えない」。そう思ったキクチさんは、消費者金融7社から計275万円を借り、闇金にも手を出した。仕事は覚醒剤を使いながら続けていたが、ある日、解雇された。

「派遣社員になったころは毎日怒られていて、嫌だなと思っていたんです。それでも、この仕事をがんばっていれば、大学を中退した自分でもなんとかなると思っていました。クスリを使うと、強気になるんですよ。そのうち、仕事に行かなくなったり、派遣会社の人とケンカしたりするようになって、クビになったんですよね」

覚醒剤を買う金に困ったキクチさんは、自分の携帯電話や銀行口座の名義を売るようになった。ネットの掲示板で闇バイトを見つけ、携帯電話の偽契約にも手を染めたことがある。それだけでは足りなくなり、ついに密売人に「このバイトは楽ですか」と声をかけた。

「売人は『バカが来た』と思ったはずです。すぐに『君もやる?』と聞かれて、覚醒剤を売るようになりました。約12時間拘束されて、日給は1万円。時給換算するとありえないですよね。始めてから3週間で逮捕されましたけど」

画像タイトル キクチさんは、客が来るまでは山手線沿線のファストフード店で時間を潰した(shima-risu / PIXTA)

逮捕後は覚醒剤取締法違反(使用)で起訴されて、釈放後、さらに営利目的での所持で追起訴された。裁判では実刑判決が言い渡され、2008年夏から2010年冬まで刑務所に入った。

出所時は32歳。「もう2度とクスリはやらない」と決めた。薬物依存症回復のためのプログラムは受けなかったが、2年間はやめ続けることができ、「なんだ、やめられるじゃん」と思った。

ところが、2年経ったころ、無性に覚醒剤を使いたい衝動に襲われた。再び覚醒剤を使いながら仕事して、給料が一瞬でなくなる日々に戻った。そんなある日、電車内に置き忘れられている他人の荷物が視界に入った。

「何を思い立ったのか、荷物を置き引きしたんです。中には、運転免許証など、持ち主の本人確認書類が入っていました。それを見て、かつて携帯電話の偽契約などをしていたことを思い出し、また犯罪に手を染めてしまったんです。覚醒剤を買うことしか考えていませんでした。今考えれば、頭がおかしくなっていたんだと思います」

その後、詐欺をはじめとする罪で逮捕され、再び実刑判決が下った。2013年、35歳のことだ。当時、キクチさんには交際中の女性がいたが、逮捕後に破局した。

「彼女には5回ほど手紙を書きましたが、まったく返事がないんですよ。『なんでだろう?』と疑問に思っていましたが、あとから警察が彼女の家に行ったことを知りました。一人で覚醒剤を使っていたので、彼女に迷惑がかかるとは思わなかったんです。『返事が来るわけないよな』と理解しましたし、バカでしたね」

●「仮釈放から3日後」に覚醒剤を再使用

2016年春、仮釈放となったキクチさんは再び覚醒剤に手を出した。仮釈放からわずか3日後のことだった。クスリを入手できたのは、刑務所の同じ工場内で「トモダチ」ができたためだという。

「2回目に入所したB級刑務所(犯罪傾向が進んでいる人が収容されている刑務所)は、薬物を入手するためのネットワークができやすいんですよ。このネットワークを使う気はなかったのですが、やはり覚醒剤をやめることができませんでした。

1回目の出所後は、保護観察官との面会時に尿検査があり、『(陽性反応が)出たら、警察署に連れていくからね』と言われていたんですが、2回目は尿検査自体がなかったんです。そのため、保護観察官に会っている最中も使っていました。なぜ尿検査がなかったのかは、僕にもわかりません」

その後、コールセンターで半年間勤務したが、給料はこれまでと同じように覚醒剤に消えた。徐々に無断欠勤するようになり、最終的に仕事をやめた。

「『毎日、何やってるんだろう?』と思ってしまって。毎回、覚醒剤のために仕事して、借金が増えて…の繰り返しだと気づいたんです。これまで、僕が仕事していたのは『仕事しろ』という風潮があったからなんですよね。仕事をやめたら、覚醒剤もやめられるかなとも思いました」

画像タイトル コールセンターでは顧客に説明する能力も求められたため、覚醒剤を使いながら仕事をすることに限界も感じたという(World Image / PIXTA)

仕事をやめたあとは家に引きこもっていたが、覚醒剤を使う日々であることに変わりはなかった。

しかし、キクチさんは覚醒剤を使いながら「もう、クスリをやめたい。でも、やめ方がわからない」という相反する感情と闘っていた。これまで、薬物依存症の回復支援施設などに足を運んだことはあったが、もう一度行く気にはならなかった。

2017年2月のある日、収入のために始めたFXで、手持ちの15万円を一瞬で失うという事態に見舞われた。パニックに陥ったキクチさんは、自分を落ち着かせようと手元にあった最後の覚醒剤を使いながら、これまで生きてきた道のりを振り返った。

「思えば、覚醒剤は僕にとって、あらゆることをガマンするためのツールでした。これまでの僕は、何事もガマンしなければならないと思って生きていました。でも、ある本を読んで、感情を表現していいんだということに気づいたんです。ガマンせずに感情を表現していけば、もう覚醒剤はいらないんじゃないか。ふと、そう思ったんですよ」

それから現在に至るまで、キクチさんは覚醒剤を使わない日々を送り続けている。

●「回復のあり方は人それぞれ」

最後に覚醒剤を使ってから1カ月後、キクチさんは受刑者や刑務所出所者を支援するNPO法人「マザーハウス」の協力で生活保護を受けた。家族から前科などを責められ、ケンカを繰り返す毎日に耐え切れず、家を出たいと考えていたためだ。

マザーハウスの活動に参加したり、教会に行ったりする日々を送るうちに、心身ともに元気になった。薬物依存症の自助グループのほか、さまざまな場所に顔を出しながら、人とのつながりも築いた。

勉強にも励み、2019年10月には宅建試験に合格。その後は実家に戻り、現在に至るまで、派遣社員としてデータ入力などの仕事をしている。人とのつながりがあったおかげで、自分の体験を大学の授業や学会などで話す機会にも恵まれたという。

画像タイトル 大学生のほか、再犯防止に関わる福祉や更生保護関係者などの前で体験談を語ったこともある(EKAKI / PIXTA)

「薬物依存症の回復のあり方は一つだけではなく、人それぞれなんですよね。もちろん、回復支援施設につながって、うまくいく人もいますが、全員がそうではありません。既存のレールに乗っかれない人もいますし、つながってもやめられない人もいます。

僕の周りにいる人たちを見ているかぎりの感想ですが、提供されるプログラムをただ受け身でしていても、自分を変えることは難しいのではないかと感じることがあります。また、うまくいかないことを誰かのせいにしても何も解決しません。問題は自分の中にあるので、そのことに気付けるかだと思います」

家族との関係は「まだ良好とはいえない」。それでも、今は覚醒剤を使っていた日々とはまったく違う日々を送り、夢もあるという。

「今年5月からはコーチングの勉強を始めました。宅建に合格した年は、刑の執行を終えてから5年を経過していなかったので免許を受けることができませんでしたが、今年、ようやく欠格事由から外れたんです。来年1月からは実務講習を受けに行くんですよ。

一番の目標ですか? 僕のようにクスリをやめられなかったり、悩んだりしている人たちを助けることです。宅建の資格を活かしたいですし、コーチングを使って、自分のように苦しんでいる人たちがしあわせな人生を送るためのサポートをしたいと考えています」

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