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関西スーパー統合、一株主の「うっかり」が招いた大どんでん返し 裁判でわかった舞台裏
「関西スーパー」(Googleストリートビュー)と「オーケー」(弁護士ドットコム撮影)

関西スーパー統合、一株主の「うっかり」が招いた大どんでん返し 裁判でわかった舞台裏

文字通り、首の皮一枚で繋がり、日本ビジネス史に残る僅差の劇的勝利を収めたはずだった。しかし……。創業62年の大手小売業「関西スーパーマーケット」(兵庫県伊丹市、東証一部)が、非上場のディスカウントスーパー「オーケー」(神奈川県横浜市)からの買収提案に対抗し、自衛目的で開いた臨時株主総会の結末には、「事実は小説より奇なり」の大どんでん返しが待っていた。

たった一人の株主がとった「賛成なのに棄権」という矛盾した奇妙な振舞いのせいで、「関西スーパー」の目論見がガラガラと崩れてしまったのだ。目下、一縷の望みを託し、司法を巻き込んだが、株価乱高下も止む気配がない。(ジャーナリスト・森下太郎)

●「出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要」

ごくかいつまんで騒動の前段をご紹介すると、横浜本社の「オーケー」側が、「関西スーパー」の上場来最高値と同じ1株2250円での公開買付けと、その結果の子会社化や資本業務提携を提案したのが、今年(2021年)6月のことだった。

慌てた「関西スーパー」は、同じ関西圏の同業者で、株を持ち合う阪神阪急グループ「エイチ・ツー・オー(H2O) リテイリング」(大阪市北区)と経営統合を対抗案にして、その可否を問う特別決議のために、10月29日に臨時株主総会を開催した。

特別決議は出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要で、関西スーパーにとっても楽なハードルではなく、ギリギリの勝負になることは事前に想定されていた。

緊迫する株主総会の当日、混乱の元凶となったのは、山口県を中心に90店舗のスーパーを経営する企業の代表取締役副社長である。この会社は「関西スーパー」の株を26万株ほど保有し、「関西スーパー」提案に賛成の立場。社長の署名、社長印がある正式な議決権行使書と委任状を総会前に郵送し、立場を旗幟鮮明にしていたという。

このままなら何も問題は起きなかったはずだが、「大事な株主総会だから」と、社長に言い含められた副社長氏が総会の場に姿を現し、なぜか傍聴席に向かわなかったことが最初の躓きだった。

●投票で「どうすればいいかな」無記入のマークシート

副社長氏は、事前に委任状を提出したが、傍聴ではなく総会に出席したい旨を告げ、受付票や、賛否を記入するマークシート式の投票用紙を受領。3時間以上を費やして質疑応答が終わった午後1時40分から始まった投票で、何を思ったのか、マークシートに何も書かず、白紙のまま投票用紙を回収箱に投じてしまったのだ。 

3分の2の賛成を必要とする特別決議の場合、棄権は反対とほぼ同じ意味を持つことが明らかで、投票のために議場閉鎖した前後に、議長や関西スーパーの事務局は何度も、マークシートに記入しないで投票した場合は「棄権」として取り扱われることを説明し、会場にはその旨、アナウンスも流れていた。

投票の際、副社長氏は、「議決権行使書をすでに発送済みなんだけど、どうすればいいかな。まあ後で番号を突き合わせればわかるか」と話しながら、回収箱に無記入のマークシートを入れたという。

その後、集計に時間が掛かる中、何か不安に襲われた副社長氏は、2時間後、おもむろに「マークシートを白紙で出しているが、取り扱いがどうなっているか」と、事務局に問い合わせ、議決権行使書や委任状には賛成に「〇」を付けたことや、株主総会に出席したことは議事内容を聞くためだったと説明。

つまり、白紙で投票したけれども、議決には賛成の意思を持っていたと訴え始めた。白紙が棄権扱いになるという議場アナウンスも耳にしていたが、事前の議決権行使が有効だと勘違いしていたと主張したのだ。

驚いた「関西スーパー」側の弁護士は、株主総会検査役の弁護士に事情を説明し、この副社長氏の議決権は棄権ではなく、賛成として取り扱うことにして集計。その結果、「関西スーパー」側の提案が66.68%という僅差で承認可決されたのである。

66.66%では否決、66.67%を超えれば可決だから、約27万個あった議決権のうち、3分の2をわずか46個超えたスレスレの勝利を得たのだ。

しかし、この奇妙な集計の経緯を知った「オーケー」側は、当然のように納得せず、仮処分を申立て、舞台は裁判所に移ったわけだ。

●スレスレの勝利、神戸地裁は「棄権」と断じる

その結果、神戸地裁は11月22日、(1)投票のための議場閉鎖の解除後は訂正できない、(2)副社長氏がマークを記入しないまま投票用紙を回収箱に入れた行為は、棄権という意を伝えるものであったとしか解することができない、(3)副社長氏が株主総会の受付で「出席」を選択した時点で、事前の委任状による議決権の行使を撤回したことになる、という理由で、副社長氏の意思は棄権だったと断じ、結論がひっくり返ってしまった。

つまり、「関西スーパー」と「H2Oリテイリング」の経営統合の案は、株主総会で否決されたことになる。

副社長氏に代表権が付いていたことも、関西スーパーにとっては不利に働いた。副社長氏は、自身の上役である代表取締役社長の職務代表通知書を持ってきていたが、本人にも代表権があり、対外的において包括的な業務執行権限を持つため、社長の職務代表通知書に制限されないと判断されたのだ。

一方の関西スーパーは、「副社長氏の意思は議案に賛成として取り扱うべき」という全く逆の東大教授の意見書を提出している。

それによれば、投票の時の「後で番号を付け合わせればわかる」という発言がポイントで、要するに、前もって郵送した議決権行使書と委任状や職務代行通知書を調べれば、副社長氏が議案に賛成であることがわかるという趣旨だったと解釈している。

さらに白紙の投票を棄権として取り扱うことは会社法の規定によるものではなく、議長の裁量権限の行使に過ぎず、議長は株主の意思を正確に反映させる善管注意義務を負っているのだから、副社長氏の投票を棄権と取り扱うことは許されないという立場だ。

つまり、神戸地裁は株主総会の形式を重視し、東大教授の意見書は、実質を見ようとしている。双方もっともな意見だが、どちらに転ぶかで「関西スーパー」の未来は180度変化するのだ。

●保全抗告の申し立て

今現在、この株主総会の顛末に関しては「オーケー」にやや有利に見える。しかし、感情的なしこりが生じてしまった「関西スーパー」の買収がより難しくなった面は否めず、横浜のディスカウントストアが強引に割り込むことに違和感を持つ関西の同業者も少なくあるまい。

その点を懸念したのか、「オーケー」側は5年前に市場で買って保有していた約8%の「関西スーパー」株を買い取らせるプランBを視野に入れているという。

会社法では、株主総会において、経営統合の特別決議に反対した株主は、保有する株式の買い取りを請求することが認められている。「オーケー」はまさにこのポジションに立ち、撤退を決意すれば、「関西スーパー」株を売却できるわけだ。しかも、これまでの平均取得株価は1300円前後と見られ、1800円前後で推移する現在の株価ならば1.4倍になる。

薄利多売のディスカウントストアのビジネスモデルを考えれば、濡れ手で粟の大儲けだが、一方、TOBをチラつかせて「関西スーパー」を揺さぶり、高値で株を引き取らせるやり口は、株価操縦だという批判を浴びることも覚悟しなければならない。

11月30日付で関西スーパーは保全抗告の申し立てを行った。 両社の争いは大阪高裁に戦場を移している。

【筆者プロフィール】
森下太郎(ジャーナリスト):政治、経済分野を中心に1990年代から取材活動をおこなう。

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