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裁判所のPC電源使えず、弁護士が「違憲だ」と申し立て 処分は適法だった?
横浜地方裁判所(コン太くん / PIXTA)

裁判所のPC電源使えず、弁護士が「違憲だ」と申し立て 処分は適法だった?

横浜地裁で進行中の刑事事件で、裁判長から法廷内の電源は「国の電気」だとして使用禁止を命じられた弁護士が、「刑事被告人が弁護人の援助を受ける権利を侵害する」として、東京高裁に抗告を申し立てた。

法廷での電気使用を求めているのは、刑事弁護人として知られる高野隆弁護士。高野弁護士のブログ(10月1日)によると、9月27日の公判前整理手続中に、景山太郎裁判長から「裁判所の電気を使用してはならない」と命じられたという。

これに対し、高野弁護士はその場で異議を申し立てたものの景山裁判長に棄却されたため、東京高裁に抗告を申し立てた。

抗告理由として、(1)パソコンの利用は効果的な弁護活動を行う上で必要不可欠であり、弁護人の援助を受ける権利を侵害し違憲である、(2)法廷での弁護活動は「私的」なものだから国の電気の使用を許されないというのは、刑事弁護人の公共的役割に対する無理解に基づくもので、およそ的外れで時代錯誤的な思い込みによる判断であることを挙げている。

今回の裁判所の処分に対し、SNSなどでは、「古臭い考え方」「電気の管理も訴訟指揮の範囲なのか?」「椅子や机は使わせても電気を使わせない理屈がわからない」など弁護士とみられるアカウントを中心に疑問の声があがっている。

はたして、国の電気の使用禁止を命じる今回の処分は適法なのだろうか。神尾尊礼弁護士に聞いた。

●「公判前整理手続」中の処分であることに着目

——公判前整理手続中に命じられた処分が問題となっています。

「公判」で禁止された場合とは少し状況が異なります。まずは「公判前整理手続」というのがどういうものか説明します。

刑事裁判において、実際に法廷で証人尋問をしたり、それを傍聴人が見ていたりといったシーンがよくTVドラマなどで出てきます。これを「公判」といいます。

「公判」では、証人を呼ぶ、論告や弁論を行うなど、事実認定に向けて多様な手続が予定されています。ただ、否認事件や大型事件のような複雑な事件でいきなり「公判」をはじめてしまうと、時間が余計にかかったり審理に無駄が生じたりしてしまいます。

そこで、裁判員裁判や一部の否認事件等では、起訴されてから「公判」を開く前に、当事者間で主張や証拠を整理することになりました。これを「公判前(ぜん)整理手続」と呼んでいます。我々は「コウハンゼン」と呼ぶことが多いです。

——公判前整理手続にはどのような特徴がありますか。

基本的には「公判」と同じ法廷で行いますが、非公開です。裁判官・検察官・弁護人が出廷します。被告人自身は、出頭するかどうかを選べます。私は出廷させることが多いです。

なお、余談ですが、名探偵コナンの映画で「公判前(まえ)整理手続」というものが開かれ、起訴前に裁判官室に当事者が呼ばれ次回期日までの宿題を出されるシーンがありますが、日本の刑事訴訟法の制度ではありません。また、同シーンでは起訴前に弁護人に証拠が開示されていますが、これも現行の日本ではほぼあり得ないシーンです。起訴前に証拠が開示されることはまずありません。

●今回の処分は「違憲違法と考える」

——公判前整理手続での処分であることにはどのような意味があるのでしょうか。

公判でしたら、証拠が記録媒体の場合、それを再生させるなど直接的に電気が必要なこともありますし、プレゼンのために電気が必要なこともあります。

他方、公判前整理手続は、このようなプレゼンの機会等は少ないので、電気を使わせないことは(公判に比べたら)許容される余地があるかもしれません。

——高野弁護士は、今回の処分は「違憲」としています。

前述したように、実際問題として、公判前整理手続が行われる事件は複雑な事件であることがほとんどです。たくさんの記録があって、物理的に法廷に持ち込むことが難しい場合があります。また、証拠の標目等をデータ化することで、瞬時に検索できるようにしていることもあります。

公判前整理手続は、主張や証拠を整理する手続です。裁判官室に呼ばれて、次回までの宿題を出されて終わりのような軽い手続ではありません。整理を実効的に行うには、パソコンを使う場面がかなりあります。

それにもかかわらず、法廷で電気を使わせないというのは、公判前整理手続の目的を果たせなくなるおそれがあります。ひいては、整理手続が長期化し、裁判が長期化し、身体拘束も長期化するかもしれません。

たとえば明らかに裁判に関係ないことに電気を使っているといったような事情がない限り、裁判を受ける権利を侵害するものとして、違憲違法な処分と考えます。

——今回のケースのように、裁判所から電気使用を咎められたことはありますか。

私自身はコンセントが遠いなどの理由で自分のバッテリーを持ち込むことが多いですが、必要な時に裁判所の電気を使ってもそれを止められた経験はありません。

プロフィール

神尾 尊礼
神尾 尊礼(かみお たかひろ)弁護士 東京スタートアップ法律事務所
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。一般民事事件、刑事事件から家事事件、企業法務まで幅広く担当。企業法務は特に医療分野と教育分野に力を入れている。

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