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あご骨折でミルク飲めず…生後3カ月女児の「放置死」、なぜ防げなかったのか?
美里町役場(Googleストリートビューより)

あご骨折でミルク飲めず…生後3カ月女児の「放置死」、なぜ防げなかったのか?

埼玉県美里町で2020年9月、衰弱した生後3カ月の女児を放置して死亡させたとして、女児の父親(29)と母親(28)が1月20日、保護責任者遺棄致死の疑いで埼玉県警に逮捕された。

報道によると、両親は2020年8月ごろ、女児が上半身の骨折でミルクを飲むことが困難となり、低体重・低栄養状態だったのに、医療措置を受けさせず、9月11日に全身機能障害で死亡させた疑いがある。

女児には、あごや胸部の骨折、額や腹の打撲痕などがあったが、父親は「哺乳瓶であごを殴った」「虐待で捕まるのが嫌で病院に連れて行かなかった」などと供述。母親は「病院に連れて行かなければと思ったが、夫に拒否され従ってしまった」と話したという。

死因や両親の供述などから、虐待があった可能性をうかがわせる事件だが、どう対応すべきだったのだろうか。子どもの虐待ゼロを目指しているNPO法人の代表理事をつとめる後藤啓二弁護士に聞いた。

●最も警戒すべきは「面会拒否」

——またも、親による虐待の疑いがある事件が発生してしまいました。

これまでの虐待死事件の多くは、児童相談所や市町村が案件を知りながら警察等の他機関と情報共有せず、あるいは「要対協」に報告せず、連携もしないまま虐待死事件に至るケースでした。

しかし、報道をみる限り、今回の事件は、市町村、児童相談所、警察が案件を共有し、要対協にも登録していた案件で、町はそれなりに危機感を持ち、対応していたようにも見えます。

報道によると、次のような虐待の危険な兆候が見られていました。

・両親は町職員の訪問を嫌がり、父親が町職員に「支援はいらない」「バカにしているのか」と声を荒げていた
・2020年4月以降は新型コロナの感染拡大を理由に面会を拒否、5月の女児出産後も職員の自宅訪問を拒否していた
・8月23日には近所の住民から「泣き声がうるさい」と通報があり、翌日に警察官が家庭訪問していた
・死亡確認の2日前の乳幼児健診を受診しなかった

また、亡くなった女児以外にも子どもが複数いて、両親は2人とも無職、生活保護を受けているということで、経済的には苦しい状況だったと思われます。

——虐待の兆候をとらえるチャンスはあったのでしょうか。

今回のケースで最も警戒すべきは、「面会拒否」だったと思います。

目黒女児虐待事件(結愛ちゃん事件)では、児童相談所が母親から面会を拒否されると「親との信頼関係」を理由にその後、家庭訪問もせず、放置し虐待死に至らしめました。これ以外にも、児童相談所や市町村が親に「面会拒否」されたあと、そのまま放置し虐待死等に至ったケースが多数あります。

今回の美里町は放置したわけではなく、病院や親族を通じての安否確認に努めていたようで、その間、警察も家庭訪問しています。それでも、虐待死は防げませんでした。町も児童相談所も警察も警戒しつつ、女児が虐待死させられるとまでは思ってなかったわけです。

——どう対応すべきだったのでしょうか。

報道によりますと、美里町は30回電話して8回しかつながらなかった、母親が電話に出ることはなかった、とされています。居留守を使われていた可能性もありますし、威圧的で拒否的な対応をする父親が母親に電話に出させなかったとも推測され、美里町だけでは対応困難な事案だったと考えられます。

そうしますと、このような威圧的・拒否的な対応をする保護者に対しては、警察でなければ毅然と対応できないことは明らかですので、警察は児童相談所と町への情報提供で終わらせるべきではなかったと思います。

威圧的で面会拒否している家庭であり、かつ近隣住民から通報があり警察が家庭訪問しているわけですから、その時点で虐待ではないと判断したとしても、一歩進んだ対応が必要だったはずです。

「要対協」実務者会議で虐待リスクの評価を上げて、美里町だけに対応させるのではなく、たとえば、(1)警察と一緒に家庭訪問し子どもに会わせるよう説得する、(2)それで拒否されたら一時保護する、というぐらいの対応が必要だったと思わざるを得ません。

実際、高知県では、児童相談所が面会拒否された場合には直ちに警察に連絡され、警察官が児童相談所職員と一緒に家庭訪問し、子どもに会わせるよう説得します。警察官が行きますと、ほとんどの場合、保護者は会わせますので、子どもの安否は確認できます。それでも面会拒否する場合は一時保護するべきと考えます。

●面会拒否などの虐待リスク、見直すべき

——今後同じような事件を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。

今回報道されているような状況や対応、および面会拒否され虐待死等に至った多く事件の教訓も踏まえると、面会拒否・家庭訪問拒否の虐待リスクの危険度を上げ、原則として短期間でも一時保護するなどの対策が必要だと思います。

また、保護しない場合には、先にも述べましたが、最低限、警察官が市町村や児童相談所職員とともに家庭訪問をし、親に子どもに会わせるよう説得する、それでも面会拒否し続けるのであれば一時保護する、あるいは犯罪に該当する場合には親を逮捕するなどして、親と子どもを物理的に分離し、子どもの安全を確保するという取り組みが必要です。

目黒女児虐待事件では、東京都の児童相談所は、親から面会拒否されると「親との信頼関係は重要」としてそのまま放置し、子どもの安否確認も警察への連絡もしませんでした。

児童相談所は「親との信頼関係は重要だから面会拒否くらいで、警察に連絡しない、安否確認もしない、一時保護なんてとんでもない」などの思い込みやそれまでの対応を漫然と続けるのではなく、実際に起こった虐待死事件を貴重な教訓として、救えなかった原因を分析し、再発防止のための対応策を日々ベストなものにしていくしかありません。

全国の市町村、児童相談所、警察などの関係機関には、今回の事件を貴重な教訓として、先ほど述べた方針を取ることを求めます。あわせて、厚労省と警察庁には連名でそのような通知を全国の自治体に出すことを強く求めます。わが国では、このような取り組みがほとんどないため、同じような事件がいつまでも繰り返されているのです。

——その他、気になる点はありますか。

今回の事件で、児童相談所が一時保護の検討していたのか、また、美里町や警察その他の機関が一時保護の必要性を児童相談所に訴えていたかどうかは気になるところです。

これまで、市町村が一時保護するよう児童相談所に働きかけたものの、児童相談所がそれに応じず、虐待死に至るというのは、多くの虐待死事件で見受けられています。

私が出席したことのある「要対協」実務者会議でも、市町村の危機感より児童相談所の危機感が薄く、一時保護に消極的というのはよくみられる光景です。

今後については、市町村に「一時保護権」を付与することも検討すべき課題だと思います。

私が虐待再発防止委員会の委員を務めた千葉県野田市では、昨年、国に対して市町村に一時保護する権限を付与するよう要望書を提出しています。市町村の中には、子どもを守るために市町村にも一時保護する権限があればと考えているところが多くあり、それに応えるべきですし、児童相談所の業務軽減にもなると考えます。

プロフィール

後藤 啓二
後藤 啓二(ごとう けいじ)弁護士 後藤コンプライアンス法律事務所
1982年警察庁入庁、大阪府警生活安全部長や内閣参事官などを歴任し2005年に退官。在職中に司法試験に合格。NPO「シンクキッズ」代表理事。犯罪被害者支援、子ども虐待・児童ポルノ問題などに取り組む。著書に『子どもが守られる社会に』(2019年)など。Think Kids(シンクキッズ)こどもの虐待・性犯罪をなくす会 (http://www.thinkkids.jp/)

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