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〈座間事件〉争点となった「被害者の承諾」の有無、過去の"類似事件"を振り返る
東京地裁立川支部(渋井哲也)

〈座間事件〉争点となった「被害者の承諾」の有無、過去の"類似事件"を振り返る

神奈川県座間市内のアパートで男女9人が殺害された事件。強盗・強制性交等殺人などの罪に問われた白石隆浩被告人の裁判員裁判はあす12月15日、東京地裁立川支部(矢野直邦裁判長)で判決が言い渡される。

最も大きな争点は、被害者が殺害される際に「承諾」があったかどうか。検察側は「承諾はなかった」と死刑を求刑。一方、弁護側は「証明が不十分」として、死刑を選択できない承諾殺人を主張した。はたして裁判所の判断は・・・。(ライター・渋井哲也)

●検察側は「万死に値する」と死刑求刑

11月26日の論告求刑で、検察側は、被害者たちが白石被告人に首を絞めて殺害されることを受け入れていたかについて、「すべての被害者は抵抗し、明確に拒絶していた」と主張した。

また、「被害者が仮に本気で自殺したいと話していたと仮定したとしても、その方法は首吊り自殺であって、殺害されることやその後にどうなってもいいと発信していた人はいない」と述べた。

加えて、少なくとも3人目までの被害者は、カカオトークやLINEで、自殺の意思を撤回していたとする。

裁判で明らかになった事実として、当時21歳の女性被害者はカカオトークで「生きていこうと思う」と送信していた。また、15歳の女性もLINEで「生きていこうと思った」、20歳の男性も「俺、これから生きていきます」などとメッセージ送信していた。

さらに、検察側は「被告人は、事件発覚直後から公判まで、1人も承諾はなかったし、全員抵抗していたと証言している。本当に死にたい人はいなかったとも供述している」と説明した。

つまり、白石被告人は、被害者からの殺害の承諾もないし、間違って承諾したとの認識も事情もなく、さらに抵抗していたことは承諾していないことが明らかだ、というのだ。

そのうえで、検察側は「良心の呵責もない」「金銭欲や性欲など、もっぱら自らの欲望のために殺害した」「前代未聞の猟奇的かつ残忍で非人間的な犯行」「万死に値する行為」「極刑をしか選択の余地がない」として、死刑を求刑している。

●弁護側は「承諾があった」と反論

一方、弁護側は「承諾がなかったとする検察側の主張に疑問がある」と反論した。

その理由として、事前のやりとりで、「首絞めでお願い」(21歳女性)、「首吊りがいい」(15歳女性)、「この前にAさんと同じ方法(Aさんと白石被告との3人で会ったときに見せた首しめのこと)で」(20歳男性)、「眠るように」(26歳女性)、「一緒に死にましょう」(17歳女性)などと、LINEなどでやりとりをしていたことをあげる。

また、白石被告人は19歳女性には「首吊りのためだけに、ロフト付きの部屋を借りた」とLINEをしており、23歳女性とは八王子駅で合流したあとの会話で、女性本人が白石被告人の部屋で自殺することを選んでいたと主張した。

「白石被告人に会ったのは、死ぬためであり、出会い系サイト代わりに使用していた人は誰もいない。白石被告人の部屋に入ればロフトや梯子、ロープがあることがわかる。その部屋でお酒や薬を飲んだ。各被害者が思い立った流れの中にいた。つまり、承諾があった。所持金は、白石被告人に処分を委ねていた」(弁護側)

さらに、被害者との約束では「一緒に死ぬ」というものがあるが、「白石被告人と被害者との間に『心中をして、あの世で幸せになる』という意味はなく、『一緒』に特別な意味はない。また、ロフトや梯子の大きさから『同時に』にはできないことはわかっていた。つまり、白石被告人の手で命を経つことを承諾していた」とした。

そのうえで、9人の殺害は「重大な責任がある」としながらも「死刑を選択できない承諾殺人」と主張した。

●自殺系サイトで誘い出したケース

この事件は、裁判員6人が裁判官3人とともに判断する。はたしてどのような刑になるのか。検察側の求刑通り「死刑判決」が下されるのかどうか。被害者が"自殺"を考えていた類似の事件の判決を見てみる。

2005年5月、自殺系サイトに自殺に関連する書き込みをしていた男女3人が殺害された事件。

判決によると、被告人が「人が窒息して苦もんする表情を見ることで性的快楽を得ていた」ことや、自殺系サイトで投稿者を騙して誘い出し「緊縛するなどして抵抗を排除した上、窒息死させることでさらに強い性的快楽を得よう」とし、「練炭自殺の計画があります。もしよろしけばご一緒しませんか」などと投稿していた。

そして、25歳の女性と21歳の男性、14歳の少年の3人を誘い出した。そして、窒息させることを繰り返して殺害した。

この裁判では、精神鑑定で、性的サディズムと責任能力が争点になった。鑑定では、犯行時、被告人は、反社会性パーソナリテイ障害や性的サディズム、フェティシズムに該当したとされたが、ほかの精神障害は認められないなどとして、「責任能力はある」と判断された。

被害者3人については、「練炭自殺を志向していたものの、本件のような凄まじい苦痛を伴う死に方を強いられるなどとは全く想定していなかったことは明白」と判断した。自殺志願者だからといって「結果の重大性に左右されない」などとして、死刑判決が下った。

白石被告人の場合、精神鑑定で、反社会性パーソナリティ障害が検討されたが、当てはまらず、精神障害はないとされた。責任能力もあり、性的快楽を得ようとしたことは同じとも言える。また、被害者が「凄まじい苦痛を伴う死に方を強いられるなどとはまったく想定していなかったこと」は共通する可能性がある。

●自分だけ自殺未遂に終わったケース

2007年5月、熊本市内の駐車場で練炭自殺をしようとして、2人が死亡し、1人が未遂となった事件では、「自殺を手伝った」として自殺幇助の罪が問われた。

介護士だった被告人が「女性 30歳 熊本 九州圏内で、来週あたり逝きませんか?」などと書き込み、2人が集まったというケースだ。

裁判所は「自殺サイトを媒介とした本件犯行の社会的影響は軽視することができず、集団自殺を助長、誘発しかねない」としながらも、被害者2人の自殺意思は相当に強固で、相互に自殺の手助けをした側面があること、被告人がうつ病のため、動機に酌量に余地があることなどで、懲役2年6カ月(執行猶予4年)の判決を下した。

この事件では、被告人自身も自殺願望があった。いわゆる「ネット心中」を志向するやりとりをしていたことは、白石被告人と共通点があるが、白石被告人は「自殺をしようと思っていなかった」と法廷で証言している。「相互に自殺の手助けをした側面」はない。そのため、「ネット心中」で未遂で生き残った被告人とは違ったケースである。

●嘱託殺人が適用されたケース

2019年7月、教員試験に失敗した男子大学生が自殺を考え、ツイッターで自殺志願者とつながり、持病に苦しんでいた30代女性からの自殺の依頼を受けた。男子大学生は同年9月、池袋のラブホテルで女性を殺害した。

この事件の被告人は、法廷で「ツイッターで自殺志願者のアカウントがあることを知り、力になりたいと思った。自分も死にたい。協力できればと思った」と証言した。事件前の2カ月で183人にダイレクトメッセージ(DM)を送り、金銭を要求したり、性行為を約束させたケースもあったという。

朝日新聞などによると、裁判所は「命の価値を軽視する反社会的な犯行」「事情を深く知りもせず軽々しく自殺に関与することが人助けであるはずはなく、非常に悪質」として、懲役5年の実刑判決を下した。

この事件は、座間事件のあとに起きたが、ツイッターを通じて自殺志願者と出会ったことは共通する。しかし、殺害された女性から殺害の依頼を受けていたことで、嘱託殺人が認定されている。

一方、白石被告人の場合、明確な殺害の依頼についての証言はない。死の結果を招く「承諾」について、黙示的に存在したかどうか、裁判所や裁判員がどう判断するか。

●一概に参考にはできないかもしれないが・・・

それぞれの事件は、座間事件と相違点はある。ただ、事件ごとに加害者と被害者とのやりとり、当事者の自殺願望の強度や有無、殺害の依頼の有無などが違う。また、裁判の争点や弁護側の法廷での主張もさまざまであるため、一概に参考にはできないかもしれない。

争点となっている「承諾」は、次のように裁判例で示されている。

「承諾殺人罪における『承諾』は、必ずしも明示的になされることを要せず、黙示的になされてもよいが、殺害行為時に存在することを要し、かつ、被害者の真意に基づいてなされたもの、すなわち、死亡することの意味を熟慮の上、自由な意思により殺害を受容するものでなければならず、事理弁識能力を有する被害者自身が表明したものでなければならないと解される」

(2002年11月、石川県内で長女が自殺を図ったが未遂となった。このままでは障害が残ると思った被告人が刺身包丁で数回突き刺し殺害した事件。金沢地裁判決)

座間事件は、被害者9人全員について「承諾がない」とするのか、また、それぞれの被害者の承諾の有無について個別に判断することになるのか。いずれにせよ、「前代未聞の殺人事件」の裁判は、裁判員たちの頭を悩ませているにちがいない。

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