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教師の「わいせつ行為」認めない教育委員会、被害訴えた女性「公正に判断して」あす判決
札幌市と教師を相手に訴訟を起こした石田郁子さん(2020年12月/弁護士ドットコム撮影/東京都)

教師の「わいせつ行為」認めない教育委員会、被害訴えた女性「公正に判断して」あす判決

「教育委員会がきちんと対応してくれれば、訴訟も起こす必要はありませんでした」

そう話すのは、石田郁子さんだ。札幌市立中学生だった15歳のとき、男性教師から性暴力を受け、19歳になるまでわいせつな行為が繰り返されたとして、札幌市と男性教師を相手取り、損害賠償を求めた裁判を起こしている。

石田さんの訴えている控訴審は12月15日、東京高裁で判断が下されるが、石田さんは提訴前、札幌市教育委員会に対して、男性教師のわいせつ行為について証拠を提出し、事実を調査して適切に処分するよう何度も求めてきた。

しかし、札幌市教育委員会は「教師本人が否定している」「もし処分すれば男性教師から訴訟を起こされるリスクがある」などの理由から、現在に至るまで何も対応していないという。

石田さんが2020年5月、教師による性暴力についてアンケート調査をおこなったところ、被害にあった子どもの保護者が学校側に伝えても隠ぺいされたケースや、同僚教師が気づいても見て見ぬふりをしたケースがいくつもあった。

教師による性暴力は年々増加しているが、それも「氷山の一角」といわれる。今後、どのような対策が望まれるのか。石田さんに聞いた。(弁護士ドットコムニュース・猪谷千香)

●市教委に懲戒免職処分求める

訴状などによると、男性教師によるわいせつ行為が始まったのは1993年3月。石田さんは中学の卒業式前日に男性教師から呼び出され、キスされた。わいせつな行為はエスカレートし、19歳になるまで繰り返された。石田さんは後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断されている。

石田さんが性暴力に遭っていたことに気づいたのは30代になってからだった。そこで2016年2月、弁護士らとともに市教委を訪れ、男性教師への懲戒免職処分を求めた。男性教師はまだ現役で教壇に立っていた。「子どもたちに、自分と同じような被害に遭ってほしくない」という思いからだった。

実は、市教委に申し入れをする2カ月前、石田さんは男性教師に面会している。そこで男性教師が事実をおおむね認めて謝罪している会話を録音。後日、証拠として市教委に提出した。

(編集部注:この録音については裁判でも証拠として石田さん側は提出しているが、男性教師側は石田さんが家庭で問題を抱えており、精神が不安定だったため、その場を逃れるために認めるふりをしただけだとして、事実を否定している)

この録音以外にも、石田さんはわいせつ行為の裏付けとなる資料を次々と提出した。たとえば、何冊にもなるスケッチブック。美術が好きだった石田さんは、男性教師の姿を描いたクロッキーを多数残していた。

「教師から性的な『悪いこと』をされても、絵を描くのは『正しいこと』なのだから、行為が相殺されるという意識があったんじゃないかと思います」と振り返る。

●否認を繰り返す男性教師

ほかにも、男性教師がフランスに行った際に石田さんに送った手紙、石田さんが当時教師との関係を悩んで打ち明けた友人の証言なども提出した。

結局、石田さん側が提出した証拠は数十点にもおよび、市教委側とのやりとりは2016年12月まで続いた。しかし、市教委が男性教師に対して処分を下すことはなかった。

石田さんが2019年1月、開示請求によって入手した市教委の文書によると、この件は「わいせつ行為の申出について」という名目で、たった4ページにまとめられて終わっていた。

文書によると、市教委は2016年3月、男性教師に事情聴取をしている。しかし、男性教師はわいせつ行為を否認。交際は事実だが、石田さんが大学に入学して以降であると主張していた。

6月にも同様の事情聴取がおこなわれたが、ここでも男性教師は否認。石田さんが描いたスケッチは「写真や想像で描かれたものではないか」とし、手紙についても「別の人物が書いたのではないか」と主張したという。

同月、3回目の事情聴取でも否認。手紙については、男性教師が在籍している学校長も同席し、本人の筆跡と比べて「両者の筆跡は酷似していることを確認」したものの、「このような手紙は書いたことはない」とあらためて否定した。

「本当に進路相談をするだけの教師と生徒の関係だったら、わざわざ外国から手紙を送ったりはしないですよね。手紙の筆跡鑑定すらしてもらえませんでした」と石田さんは話す。

 石田さんが札幌市教育委員会に提出したスケッチの一部。男性教師に連れて行かれた山が描かれている。地名は「塩谷丸山」の間違いという(本人提供)

●第三者委員会による調査を

この間、石田さんの代理人である弁護士は、意見書を3回も提出。市教委側の調査方法を批判し、外部の専門家による事実認定と厳正なる処分を求めた。しかし、それは実現していない。

文書によると、男性教師によるわいせつ行為を事実として認定することはできず、懲戒処分はできないとしたと結論づけていた。また、市教委側の弁護士から、「現状で懲戒処分をおこなった場合、男性教師から処分の取消請求をされると、市教委側が敗訴するものと考える」という見解があったことも記録されている。

石田さんはこうした市教委の姿勢を批判する。

「もしも両者が違う言い分をしていた場合、片方が否定したからといってうのみにせず、第三者による客観的な調査をしてほしいです。現在のような仕組みでは、もし教師によるわいせつ行為があったと訴えても、教師が否定したら、被害者の言うことは信用してもらえず、事実が隠ぺいされてしまいます」

市教委の調査が不十分であるとして、石田さんはその後、提訴に踏み切った。しかし、民事訴訟において賠償請求できる期間が過ぎていたため、東京地裁の判決では石田さん側の訴えは認められず、事実の認定にも至らなかった。

「地方公務員の懲戒処分に時効の規定はありません」と石田さんは指摘。東京地裁や東京高裁の訴訟では、わいせつ行為があったかどうか、公正に判断してほしいと訴えてきた。

また、こうした教育現場の現状を変えようと、石田さんは今年9月と12月、文科省に対して「政策提言」などをおこなってきた。その中には、「第三者委員会による調査を必須とする」ことや「依願退職・異動によって教師に責任回避させない。追跡調査の仕組みを作る」こと、「他の教師による通報の義務化、連携できる職場環境を作る」ことなどを求めている。

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