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営業する店に「バカ」と張り紙…「自粛警察」の暴走、罪に問われる可能性も
営業を継続する飲食店の張り紙には「バカ」という書き込みがされた(提供@kuzu_ningen)

営業する店に「バカ」と張り紙…「自粛警察」の暴走、罪に問われる可能性も

新型コロナウイルスの感染が広がる中、営業を続ける店に対し強い口調で休業を求める人たちがいます。ネットでは「自粛警察」「自粛ポリス」とも言われていますが、中には、嫌がらせや誹謗中傷のような行為も確認されています。

無観客ライブ配信をしていた東京・高円寺のバー「いちよん」には、「ライブハウスを自粛してください。次発見すれば、警察を呼びます」という張り紙がされました。店主が5月4日、「世知辛い」とツイートすると、「営業妨害として通報してほしい」、「匿名って卑怯」と嫌がらせに反発する声が相次ぎました。

また、東京・大森の居酒屋には、「この様な事態でまだ営業しますか?」「バカ」という張り紙がありました。

店を通りかかりツイートした投稿者によると、張り紙を発見したのは4月24日ごろ。

最初に「この様な事態でまだ営業しますか?」と張り紙がされ、店側が「コロナの拡大防止に注意しながら、信念を持って営業を継続してまいります」と返したところ、その上に「バカ」と落書きをされたことがその後のテレビ局の取材で判明したそうです。

菅義偉官房長官は5月13日、こうした行為について「法令に違反する場合は関係機関で適切に対処したい」と述べました。

勝手に店に張り紙したり、「警察に通報する」と書いたりする行為は、どのような罪に問われる可能性があるのでしょうか。本間久雄弁護士に聞きました。

●無断で張り紙「軽犯罪法違反」

ーー営業していることを理由に、張り紙をされる店も出ているようです

自粛警察活動は、決して無視できない法的問題をはらんでいます。これからどのような罪に当たる可能性があるのか、解説していきます。

まず、店舗に無断で張り紙をする行為は、軽犯罪法1条33号(みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、もしくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、またはこれらの工作物もしくは標示物を汚した者)違反となりかねません。

その場合、「拘留または科料」に処されることになります。拘留とは、1日以上30日未満の間、身体拘束される刑罰です。科料とは、1000円以上1万円未満の金額を国庫に強制的に納付させられる刑罰です。

●威力業務妨害罪が成立する可能性も

ーー中には、暴言が書かれた張り紙もあります

張り紙を店舗に大々的に張って、店舗経営者を心身ともに疲弊させたようなときは、威力業務妨害罪が成立する可能性があります。

威力業務妨害罪(刑法234条)の「威力」とは、人の意思を制圧するような勢力のことをいいます。その場合、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金となります。

また、原状回復が困難なほど店舗建物に張り紙が貼られた場合、建造物損壊罪(刑法260条)も成立する可能性があります。その場合、5年以下の懲役となり、より重い罪となります。

意見を述べることは、表現の自由(憲法21条)として保障されていますが、社会的相当性を逸脱した行き過ぎた表現は、刑事罰の対象となります。

●侮辱する表現を書けば「侮辱罪」に当たる

ーー張り紙の「警察に通報する」という文言はどうでしょうか

「警察に通報する」といった程度では、脅迫とは言えないと思います。

ただ、「自粛しないと店に火を付ける」などと、張り紙に生命身体財産等に危害を加える旨の脅迫文言を書いて自粛を迫ると、強要罪(刑法223条)が成立することになります。その場合、3年以下の懲役となります。

その他、「金儲け優先のあこぎな経営者」などと侮辱する表現を用いてしまうと侮辱罪(刑法231条)が成立し、拘留又は科料に処せられることになります。

刑法の話ばかりしてきましたが、張り紙による名誉毀損や営業妨害によって客の人数が減ってしまったり、店主や店員が精神的苦痛を受けたときは、不法行為(民法709条)に基づき、売上減少の逸失利益や店主や店員の慰謝料等について損害賠償請求を受けることになります。

ーー営業中のお店に対する「私刑」は様々な法的問題に発展する可能性があるんですね

正義のために活動していたはずが、知らぬ間に法を犯していたというのは大きな矛盾ではないでしょうか。

自粛しない店舗側にも従業員や家族の生活を守る等の自粛したくとも自粛できないそれなりの理由があるはずです。

このコロナ禍において、好き好んで営業をしている店舗の方が寧ろ少数派ではないでしょうか。義憤に駆られて短絡的な行動に走る前に、相手の立場に思いを巡らせて踏みとどまっていただければと思います。

プロフィール

本間 久雄
本間 久雄(ほんま ひさお)弁護士 横浜関内法律事務所
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。

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