入管収容・刑事拘禁・精神医療の分野で、「恣意的拘禁」による人権侵害の問題に取り組む弁護士などがつくる市民グループが1月20日、日本政府に対して、国連の作業部会による調査を受け入れて、もし勧告が出された場合はそれにしたがって人権侵害を解決することをもとめる共同声明を出した。
共同声明は、国内の10の市民グループによるものだ(全国難民弁護団連絡会議、移住者と連帯するネットワーク、監獄人権センター、人権ネットワーク、ヒューマンライツ・ナウ、入管問題調査会、関東仮放免者の会、ハマースミスの誓い、関西生コンを支援する会、日本カトリック難民移住移動者委員会)。
●「国際人権基準に違反する恣意的拘禁がおこなわれている」
市民グループは、国連の「恣意的拘禁作業部会」による国別訪問手続き(カントリー・ビジット)の実現をうったえている。
この作業部会は、人権侵害の監視や検証をおこなう機関で、あらゆる自由剥奪について、「恣意的拘禁」にあたるかどうか、という調査している。この手続きは、制度全体に及ぶものだ。
日本はこれまで、少なくとも2度にわたって、作業部会から国別訪問手続きの要請を受けているが、いまだに実現していないという。
市民グループは声明で「現在、日本では入管収容、刑事拘禁、精神医療の各分野において、恣意的拘禁にかかる人権侵害が深刻化している。いずれも国際人権基準に違反するものだ」と指摘している。
●「本来ならば在留資格を得られる人が虫けらのように扱われている」
市民グループは1月20日、外務省に共同声明を提出したあと、東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開いた。
全国難民弁護団連絡会議の鈴木雅子弁護士は「昨年、国の拘禁下にあった人(長期収容されたナイジェリア人)が餓死する事件があった。収容の長期化は、ここ数年で著しくなってきた。2週間の再収容(2週間だけ外に出されたあと再収容される)の人たちは、身体だけでなく、精神を病んでいっている。入管が好きに(収容期間を)決められるのが、まさに恣意的だと考えている」と述べた。
そのうえで「昨今、外国人の受け入れが盛んに言われているが、この収容の対象になっている在留資格のない人たちは、もともと単純労働の担い手として、国が黙認してきた。(単純労働の担い手が)日系人となり、技能実習生となり、留学生となり、その陰で『いらない』と追い出される。本来ならば、在留資格を得られる人(難民申請者など)が、虫けらのように扱われている状況を改善したい」と話した。
●「文明国として恥ずかしくない法整備を」
精神医療の拘禁問題に取り組んでいる池原毅和弁護士によると、精神医療の分野では、約15万人が強制入院の対象となっており、しかも5年を超える入院が半数近くある。措置入院者については、国連の作業部会から『恣意的にあたる』という勧告も出ているが、日本政府はそれに対応していないという。
池原弁護士は「日本の人権状況は、とてもガラパゴス化している。国際的なスタンダードではない。節目節目の法改正には、国際的な視点からの批判が大きなテコになっているので、作業部会に来てもらって、日本の人権状況が、世界と比べてどれくらい遅れているか明らかにして、文明国として恥ずかしくない法整備がされることを強く期待している」と述べた。
また、監獄人権センターの海渡雄一弁護士は「古くからずっと指摘されていても、日本政府は、『守らなくていい』みたいな状況になっている。日本の拘禁制度がいかに世界から見て、異常なのか。日本国民、政治家、役所が知る機会をつくることだ。(作業部会の調査が)本当に実現すれば、画期的なのではないか」と語っていた。
●カルロス・ゴーン被告人の家族による個人通報もおこなわれている
なお、この作業部会はこれまで、日本政府に対して「恣意的拘禁」にあたるとして、勧告をおこなっている。次の4つの個別ケースだ(個人通報によるもの)。
(1)グリーンピース・ジャパンの職員2人が逮捕・勾留されたケース(2009年9月) (2)コーラを盗もうとして逮捕されて、強制入院となった統合失調症の男性のケース(2018年4月) (3)米軍基地移設に対する抗議活動をしていた沖縄の山城博治氏が約5カ月勾留されたケース(2018年8月) (4)ホテルで下痢をしてしまった後、警察官に拘束され措置入院となったケース(2018年11月)
市民グループによると、このほかにも、法務省の施設で、無期限・長期収容に対するハンガーストライキをしている外国人2人による個人通報や、日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン被告人の家族による個人通報もおこなわれているという。