子どもに裸の写真を撮影させたうえで、スマホなどで送信させる「自画撮り」の被害を防ごうと、北海道は、青少年健全育成条例を改正して、児童ポルノの提供を求める行為を罰則付きで禁止する方針を示している。
道青少年健全育成条例の素案によると、(1)18歳未満に対して、拒まれたにも関わらず、さらに求めたり、威圧したり・欺いたり・困惑させたりしたうえで、送信させる行為を禁止する。また、13歳未満については、求める行為そのものを禁止する。
改正の理由は、自画撮りの被害が増えているが、現行法令では子ども(18歳未満の青少年)に対して、自画撮りを求める行為を禁止する規定がなかったからとしている。6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金を科すことになるという。
来年1月の施行を目指しており、成立した場合は、全国初めて懲役刑が盛り込まれることになるそうだ。今回の条例案をどのように考えればいいのだろうか。児童ポルノ事件にくわしい奥村徹弁護士に聞いた。
●「自画撮りを未然に防ぐ効果はない」
前提として、自画撮り行為(sexting)の罪名を検討すると、現行の児童ポルノ法は、児童がみずから製造・提供する行為も除外していません。自画撮りについては、児童自身が製造罪・提供罪(頼んだほうは共犯)になることもあります(神戸地裁・平成24年12月12日)。
被害者が処罰されるのはおかしいので、実務では、頼んだほうを製造罪(同法7条4項)の単独犯として、児童の製造行為は問わないという運用になっています。威迫・欺き・困惑がなくても、求めて撮影送信させると製造罪になります。
ただし、自画撮りを求めて、それで終わった場合については、この法律に罰則がありません。
――北海道の罰則付き条例案についてはどう考えますか?
製造罪で検挙された自画撮り被害というのは、威迫・欺き・困惑がなく、無警戒に送らされてしまっている事案が大半です。威迫・欺き・困惑という要件を入れても、自画撮りを未然に防ぐという効果はないでしょう。
実際、先行している自治体の施行状況をみても、何回か撮影・送信させて製造罪で検挙された事件の最後の要求行為を条例違反で検挙していて、条例の実効性はないと思います。
さらに、道条例オリジナルの「13歳未満の青少年に対して求める」については、13歳未満に撮影・送信させる行為を強制わいせつ罪(刑法176条後段)とする裁判例にしたがえば、要求行為は強制わいせつ罪の未遂(最高懲役10年)で処罰できうる行為です。それなのに、あえて軽い罪で処罰することになって、意味がわかりません。
――県境をまたぐ行為もあると思いますが、その点についてはどうでしょうか?
児童ポルノ法が存在する以上、児童ポルノに関する問題は、国法(国の法律)の守備範囲です。
特にsexting行為は、10年以上前から問題となっています。繰り返しになりますが、児童ポルノ法では、被害児童が製造・提供の正犯になってしまうという矛盾が生じていています。その解決と自画撮り要求行為も含めて、国法で解決する必要があります。
また、インターネットでおこなわれる行為を条例で規制するのも無理があります。各自治体は、裁判例(注)を前提にして、自画撮り規制は領域外の者にも適用されると説明しています。
しかし、現状では、自画撮り規制がある自治体とない自治体があります。お互いの所在地を明らかにしない場合も多いです。他府県には公示されないので、域外者には責任を問いづらいでしょう。
(注)「条例は当該地方公共団体の区域内の行為に適用されるのが原則であるものの、本件のように当該地方公共団体の区域外から区域内に向けて内容が犯罪となる電話をかける行為に及んだ場合には、電話をかけた場所のみならず、電話を受けた場所である結果発生地も犯罪地と認められるのであり、このように犯罪の結果発生地が香川県にあるとされる以上、行為者は直接的かつ現実的に香川県に関わりを持ったものというべく、香川県民及び滞在者と同様に本件条例が適用される」(高松高裁・昭和61年12月2日)