「痴漢冤罪」と聞いて、恐ろしい状況を思い浮かべる男性は多いのではないだろうか。痴漢行為をしてしまったのならともかく、やっていないのにもかかわらず、「犯人扱い」されてしまった場合、社会的な信用を失うなど、本人が被る損失は計り知れない。最近も痴漢をめぐる無罪判決が出た。
バスの車内で女性の太ももを触ったとして、兵庫県迷惑防止条例違反の罪に問われた同県内の男性会社員に対して、神戸地裁は6月20日、「女性の証言は不自然で、信用性に疑問がある」として、無罪判決を言い渡した。
報道によると、判決理由で裁判長は、女性が「男性の犯行を確かめるために寝たふりをしていた」と話す一方で、当日にバス運転手に被害申告をしなかったことが不自然だと指摘。女性の話している被害内容についても、触られた部位が変わっているとして、「偶然触れたのを痴漢と勘違いした可能性がある」と述べた。
痴漢冤罪については、一般論として、勘違いで被害を訴えられる場合もありうるし、嘘の被害をでっちあげられる場合もありうるだろう。裁判の判決などで、冤罪が確定した場合、警察などに被害を申告した人を訴えることはできるのだろうか。藤本尚道弁護士に聞いた。
●痴漢冤罪ビジネスが横行
「痴漢事件では、警察官が被害女性の申告だけを信じ、犯人と名指しされた男性が簡単に逮捕されてしまうパターンが一般的です。そのため、いったん『痴漢』の疑いをかけられてしまうと、たとえそれが『冤罪』であっても、男性側で『身の潔白』を勝ち取ることは至難の業だと言えるでしょう。
そのような状況を逆手に取り、『被害者女性役』と『目撃証人役』がタッグを組み、被害者女性役がターゲット男性に接触して『痴漢!』などと叫び、証人役が『自分も見ていた』と同調することで相手を脅し、警察沙汰になることを恐れた男性から『示談金』を巻き上げる『痴漢冤罪ビジネス』も横行しています」
そのような行為は犯罪ではないだろうか。
「嘘をついて『痴漢冤罪』をでっち上げ『示談金』を受領する行為は『恐喝罪』(10年以下の懲役)に該当し、警察に虚偽の告訴をする行為は『虚偽告訴罪』(3月以上10年以下の懲役)に該当します。さらに、民事事件としては『不法行為』が成立しますので、男性側が被った損害の賠償を相手側に請求することも可能です」
●勘違いの場合、請求は困難
では、勘違いで犯人扱いしてしまった場合はどうなるのだろうか。
「被害女性が『真犯人』を間違えたというケースでは、女性側に損害賠償を請求することは極めて困難でしょう。満員の電車やバスの中での『犯行』であり、被害女性も気が動転していることが多いですから、犯人を間違えても仕方なかったと判断される可能性が高いものと思われます。
また、今回のケースのように『痴漢行為』があったか否かが微妙な事案であっても、女性の側が『被害を受けた』と勘違いする何らかの『具体的な事情』が存在すると思われますから、『勘違い』の原因が女性の一方的な過失だけとは言い切れないかもしれません。その意味では、誤った『被害申告』が民事上の『不法行為』として損害賠償の対象となる場面も、かなり限定されてしまうのではないかと思います」
藤本弁護士はこのように話していた。