「ごめん今、手持ちがないから」。友人のこんなひと言のために立て替えた食事代が、なかなか返ってこないというのは、よくある話ではないだろうか。相手が友人であるだけに、こちらが催促しづらいのを知っているせいか、のらりくらりとかわし続けられることもある。
こうしたことが積み重なると、ちょっとしたケンカをした後などに「訴えてやる!」と怒りがこみあげてくるものだが、実際に訴えるとなれば、元手が必要だ。数千~数万円をとり返すために、それ以上の金額を使うわけにはいかない。
では、貸した金が返ってこない場合、累計金額がいくらぐらいになれば、訴えを起こすべきなのだろうか。弁護士に代理人を頼む場合と自分自身で訴訟を起こす場合で違ってくるだろうが、それぞれ目安となる金額はあるのだろうか。借金問題にくわしい吉原美智世弁護士に聞いた。
●数千円の返金請求のために、弁護士に依頼するメリットはない
「少額の貸金を返してもらうにはどうしたらよいか、という質問はよくあります。『交渉しても返してもらえない場合は訴訟ですね』などと簡単に答えてしまいがちですが、実際問題としては、一般の方が訴訟を起こすのは、なかなか大変なことです」
このように吉原弁護士は述べる。では、訴訟を起こすとしたら、弁護士費用としてどれぐらいかかるのか。
「弁護士に依頼した場合、法テラス(日本司法支援センター)を利用したとしても、50万円未満の訴訟で8万8000円は必要です。さらに勝訴した場合は、勝訴した金額の10パーセントを報酬として支払わなくてはなりません。そういう意味では、数千円や数万円の返金請求のために、弁護士を依頼するメリットはないといえます」
●自分で訴訟を起こせば、「実費」だけで済む
では、弁護士に頼まずに自分で裁判を起こす「本人訴訟」の場合はどうだろう?
「自分で裁判所に足を運んで訴訟を起こす場合は、実費のみで済みます。ただ、弁護士に支払うお金のかわりに、アルバイトをするつもりで頑張らないといけませんが・・・。
実費として必要になるのは、訴状に貼る印紙です。10万円以下の請求だと1000円です。請求額が10万円増えるごとに1000円の印紙が加算されます。また相手に訴状を郵送してもらうために、裁判所に切手代を納めます。これが4000円ほどかかります」
つまり、10万円以下の請求をするために裁判を起こした場合、実費として、5000円が必要になるということだ。これだけならば安いといえるかもしれないが、訴状の作成から法廷での弁論まで、訴訟に必要な作業を自分でやらなければいけないことを考えると、はたして割に合うかどうか。
また、請求額が60万円以下の場合は、「少額訴訟」という簡易な制度が利用できるという。
「少額訴訟は、1回の裁判での解決を目指すものです。1回目の裁判のときに証拠書類を持っていき、相手の意向も聴いたうえで、支払うべき金額を確定して、その返済方法を話し合います」
このように裁判に訴えるとなると、それなりにコストがかかることがわかる。貸した金の額がそれほど大きくない場合は、借り主にくり返し催促して、自発的に返してもらうようにするのが合理的だといえそうだ。