杉井 静子 弁護士 インタビュー
弁護士を目指した理由
高校生の時、女性が働くことに対して社会にはまだまだ抵抗が残っていると感じました。60年代のあの頃は、まだまだ女性差別が広く深く残っていたのです。
他方で私は三姉妹の長女だったので、家庭内では頼るべき第一子として職業を持つことを期待されていました。そのような中、男性と対等に仕事できるのは医者か弁護士だと思い、自分の適性も考えて弁護士を目指しました。
試験合格時は裁判官にも魅かれましたが、裁判所修習で雑談の一つもない裁判官室仕事の様子を見て、普通の社会との隔たりを強く感じてしまいました。法曹の世界でも最も実社会に近いところで活動できるということで弁護士を選択しました。
関心がある分野と関心を持ったきっかけ
家事事件です。扱う事件の数としても多いです。生活に密着した、離婚をはじめとする夫婦の問題さらに親子の問題などに取り組んでいます。
最近痛感しているのは夫婦の問題において、子どもが蔑ろにされてきていることです。家庭裁判所の手続きを見ても子どもは手続き上の地位が与えられていません。子どもが当事者として紛争解決に参加し意見を表明する機会がまだまだ乏しいのです。
諸外国では子ども代理人や手続保佐人がいて子ども自身を当事者とする考え方が定着してきていますが、日本ではそうした制度がありません。私は、法制審議会の「非訟事件手続法・家事審判手続き法部会」の委員として、家事審判法の手続きの見直しに参加しています。親とは独立した子ども自身に、代理人なり手続き保護人なりをつける制度を取り入れていきたいです。
このような子どもの権利に関する法改正は今後とも大きな課題になるでしょう。
家事事件については始めから取り組んでいました。女性の依頼者の方が多いので自然とその中で問題意識をもつようになってきたものも多々あります。さらに、国際児童年、児童の権利条約などを受けて、女性の立場だけでなく子どもの地位・子どもの権利についても関心を持ってきた結果です。
事務所創立の経緯
31年間共同事務所に勤めたのち、2000年からは夫婦だけでのんびりやろうという気持ちで国立に法律事務所をつくりました。しかし、昨今の弁護士激増の時代、新人の就職難が生じており、若手弁護士の養成に対して問題意識を持つようになりました。実務を何も知らずに法律知識だけでいきなり過疎地での弁護士業務を行うことには無理があります。
そのような意識を持って、裁判所が八王子から立川に移転したのに合わせてこのひめしゃら法律事務所を設立しました。法テラスから委託される地方の弁護士過疎地に赴任するスタッフ弁護士の養成にも力を注いでいます。このように若手の養成に協力的な事務所は実際のところまだまだ少ないです。
印象に残っている事件
1つは、日産自動車の労働者が寮の中で死亡してしまった事件です。若い労働者が「金の卵」と言われた時代でしたが、高卒の少年が入社半年で命を落としてしまったのです。一週間交代で夜勤と日勤が入れ替わり、夜勤でも9時間10時間の労働を強いられるという状況でした。労働災害として訴え、10年近くの訴訟の末に勝訴しました。
2つ目は、NTTの労働者で研修中に一日だけ有給をとったところ、会社はそれを認めないとして「けん責処分」を行いました。処分としては軽いものですが、研修中も労働者の権利としての「年休権」を認めさせるために、依頼者・支援の労働組合とともに闘いました。
仕事で嬉しかったこと
沢山ありますが、事件が円満に解決し、依頼者の方が「これで心の整理ができた。再出発できる」ということを言って頂けると嬉しいです。
大変だと感じること
やはり一番難しいのは依頼者とのコミュニケーションです。準備書面だとか証人尋問に関しては長く仕事をしていけば慣れてくるものですが、相談者・依頼者とのコミュニケーションについては相手が本当に何を求めているのか、を探ることは難しいです。
特に昨今は様々にストレスを抱え心を病んでいる人も多く、まず気持ちを落ち着かせることから始めなくてはいけません。
また、依頼者の方の気持ちがコロコロ変わることもありますので、その変化にも対応しなくてはいけません。私は、半分はカウンセラーのような気持ちで相談者・依頼者のお話を聞いています。
ストレスを抱えてしまう要因
ひとつには忙し過ぎるということがあります。みんなが仲間として手を取り合う関係であるべき社会が、周りはみな競争相手という状況が現実です。グループで何かを目指そうと言うのではなく、個人が個別に評価されてしまいます。このような効率主義・成果主義・自己責任論には疑問を感じます。
弁護士としての信条・ポリシー
基本的に弁護士というのは弱者の味方です。いかなる権力に対しても屈しない立場を貫きたいです。
今後の弁護士業界の動向
今までの日本は弁護士といえば訴訟弁護士でした。訴訟になって初めて登場する存在という様に認識されてきました。このような傾向は地方の方が強いです。
現在は訴訟事件が若干減っていますが、それを理由に弁護士は食べていけなくなるという意見がありますがそれは間違いだと思います。訴訟事件でなくても、予防的・日常的に専門家に話を聞いてみよう、つまり法律相談をしてみようと言うニーズが社会にはまだまだあるはずです。
出張相談として自ら出向いて相談に乗ったり、夜間の相談に応じたり、というように弁護士自身が積極的に市民社会に入っていこうとすることが求められます。
今後のビジョン
私自身は法律相談を重視しています。事務所として定例相談日を設けて、日直の弁護士をおき、飛び込みでの相談でも受けられる体制を作っています。
今までの弁護士界は「飛び込みの相談は受けるべきではない」というのが常識でした。私はこれは間違っていると思います。町の中でも人々の目に見えるところに門戸を開いていなくてはいけないのです。