
依田 敏泰 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
一つにはテレビドラマ等を通じて、刑事事件を担当する弁護士という仕事に憧れをもったからということがありました。刑事事件というと、現実には自白している場合が多いですが、あらぬ嫌疑をかけられるなどで困っている人を助ける弁護士の姿はかっこよかったですね。
また、あまり言いたくありませんが、実は私は子供の頃いじめられっ子だったんです。休み時間の方が授業時間よりも嫌だった。そういう体験も重なり、理不尽なことがまかりとおっていいのだろうか、困っている人が泣き寝入りをするような事態があってはいけないという思いで、弁護士を志望するようになりました。
印象に残っている事例
以前、何億円もの価値があるというようなフェリー用の客船を盗まれた依頼者がいましたね。その依頼者は定期航路を開設しようと思って船を購入したのですが、ライバル企業が多く存在したため、一度諦めて、ある港にずっと停泊させておくことにしました。
ところが資金に事欠いていたせいもあって、その間、港を管理する港湾事務所に、港の使用料も支払わないで長期間連絡しなかったために、いらなくなった放置船舶であると勘違いされて邪魔者扱いされていたんですよ。そのうち台風でも来て、港でそのまま沈没してしまったら大変だなんてね。そんなところに目をつけた会社があって、港湾事務所に申し入れをして許可を得て、その船をフィリピンに輸出してしまったんです。
いくら港湾事務所がその申し入れを歓迎したとしてもですね、船舶の所有者の同意無しにあずかり知らぬところで勝手に船舶を移動させてフィリピンに輸出させてしまったというのですから、やはり窃盗に当たるわけで、正当に損害賠償請求ができるわけです。
しかし、依頼者にも落ち度はあるわけですし、港湾事務所も迷惑するようないつ沈没しても仕方のないような船舶であったなどといわれて、結局500万円程度しか請求できず、がっかりしたのを鮮明に覚えています。少々、古くなっていてもフィリピンなどに輸出して売却できれば、それなりのお金になるはずですし、正しく踏んだり蹴ったりでした。
それとですね、その事件では、船舶を輸出するために税関を通す手続に誰でも知っている有名大企業が別に関与しておりました。
普通、輸出するときは、輸出の手続きをしようとする者が所有者であるか、あるいは所有者から依頼された立場にある者であるのかぐらいは当然、確認するのだろうと思って、任務怠慢であるとして、船舶を持ち出した業者と併せて損害賠償請求したんですよ。船舶は建物と同じように登記制度が整っていますから、所有権を確認するのは簡単なはずなのです。
ところが、輸出に当たっては原則として、輸出しようとする者が所有者であるかなどということは調べなくてもよいことになっていることがわかりまして、何か釈然としない気持ちを持ったまま、裁判を取り下げたということもあります。これには依頼者は未だ納得できない気持ちを抱えているみたいですよ。まあ無理もありませんね。
仕事の中で嬉しかったこと
難しい裁判で、依頼者の主張が認められて、確定した時は嬉しいです。本当は、敗訴してしまっては、それまでの苦労は全く報われなくなってしまいますから、難しい裁判では敗訴のリスクを避けるために、和解が整うのが望ましいと考えています。
しかし最近はなかなか和解で解決するというケースが減っていますからね。判決の時、どうなるんだろう、自分たちの主張は認められるのだろうかと、はらはらどきどきなんです。だからこそ、勝ち切れて、かつ、依頼者の目標が達成できた時は、非常に喜ばれますし、私も達成感をかんじますよ。
弁護士になって大変だと感じること
判決に勝っても、相手にお金が無くて賠償金や慰謝料等を支払ってもらえない時は大変です。そうなる可能性を事前に依頼者に話していても、判決後にぐちぐち言われることがあるので、その時の依頼者との関係が大変です。
また、自分は勝てると思い込んでいた裁判で、裁判所側の見解が全く違い、負けてしまった時はさらに大変です。法律の解釈や証拠の評価についての考え方が裁判所と違ったわけですから、少なからず自信を喪失しますし、時には弁護士はやめて別の仕事を始めた方がよいのではとまで思い詰めるときもあります。
それに依頼者に対しても迷惑をかけてしまっているわけですしね。思いも掛けない敗訴判決が出た後に、依頼者にどういう顔で接したらよいのか、どういう風に説明すればよいのか、本当に困ってしまいます。
休日の過ごし方
サッカー観戦が好きなので、休日はテレビで試合を見ながらゆっくりと過ごしています。
弁護士としての信条・ポリシー
「ダメなものはダメ」とはっきりと言うことが私の信条です。もちろん証拠が無くて難しいという事件は全力で取り組みますが、そうではなく、依頼者からの無理難題な要求に対して、無理だけどやってみましょうというのはしないようにしています。
また、相手の方が何も争ってこない状況で、ここぞとばかりに相手に何でも要求しようとする人がいますが、「引くところは引く」ことを大切にしています。
依頼者に対して気をつけていること
上の回答と重なりますが、「ダメなものはダメ」とはっきり伝えることですね。私はHP等でも事務所を紹介しているので、初対面の方とお会いすることも多いのですが、インターネットで私の素性を公開しているからといって、誰でもウェルカムというわけにはいきません。非常識な方や自分と合わないと感じた方には、しっかりとお断りするようにしています。
関心のある分野
消費者問題ですね。ただ消費者は、購入した商品やサービスに問題があるとすぐに消費者センターに問い合わせるので、実際に相談が持ち込まれることはほとんどないので寂しい思いをしています。
消費者センターでもADR等を行って和解の協力を行っていますが、実際のところこれが話し合いになっていないのです。私もある依頼会社の関係で、その現場に立ち会って初めて知りましたが、消費者センターは確かに消費者・事業者側、それぞれ別個に意見をじっくりと聞いて頂けます。
しかしその後は、両者にそれぞれ歩み寄らせるという調整作業をせずに、両者の関与しない場で自分たちだけで議論をして、一方的に和解案を提示してくるんですよ。
結局、時間をかけるだけかけても、最後は押しつけなんです。それも和解案を受けるか受けないかの2者択一を迫るのです。提示していただいた和解案は受けられないけれども、もう少し修正していただければ受け入れられる、解決できるという場面は多いはずなのですが、そういう調整は一切受け付けないのですよね。
その挙げ句、和解がまとまらなければ、せっかく適切な和解案を提示したのに断られたなどという経緯が、いかにも事業者がけしからぬという印象を持たれるような書き方で公開されることになっているんですよ。事業者に対して一種の脅迫をして踏み絵を踏ませようとしているだけなのだとつくづく実感しました。消費者にとってもそれではトラブルは解決しないで時間ばかりかかるということになるんじゃないですかね。
まあ、行政のやることなので話し合いの場を持つといっても、個別の案件を解決するというのは二の次なんですね。主眼は再発防止であったり、事業者に対する警告であったり、消費者に対しての啓蒙であったりなんです。やはり、問題に直面した消費者の方々は、消費者センターはあくまでも緊急の駆け込み寺という認識を持って、駄目な時はすぐに弁護士に相談するべきだと思います。
誤解されかねない言い方ですけれど、人のことなんてどうでもいいじゃないですか。まずは自分が救われないとね。
ページを見ている方へのメッセージ
身辺にトラブルが起こって、相談したい気持ちがあるなら、どんどん事務所の扉を開いてください。そして、事件の得意・不得意よりも先生との相性を大切にしてください。ネットの評判や、有名だからという理由で選ぶのではなく、本当に信頼し、この人なら任せてみようと思えるような弁護士を根気よく探してください。