藤田 城治 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
困っている人を助けたいとか、法廷ものの映画を見るなどしてかっこいいなという素朴なところで弁護士になりたいという気持ちを持つようになりました。もっとも、真剣に試験に向けて勉強を始めたのは周囲の友人が就職先が決まるようになった大学4年生になってからでした。
試験合格後の修習中では法曹三者それぞれが魅力的でしたが、人と接していられる仕事ということで弁護士を選択しました。その頃思い描いていた自分がなりたい弁護士像と言われると、大きな企業の弁護士よりも市民側の弁護士でいたいという気持ちがあったように思います。
受験期に苦労したこと
大学卒業後浪人していたので、もちろん将来への不安感はありましたが、受験仲間や当時指導してくれた講師(弁護士)に恵まれたこともあって、楽しみながら受験に臨めました。
関心のある分野
1つ目には環境保護に関する分野があります。石垣島で現在建設中の新空港の設置許可の取消を求める訴訟、東京都東久留米市で東京都が行った落合川埋立工事の差し止めを求める訴訟を現在行っています。
もう1つの興味の柱としては、消費者事件があります。悪質商法、訪問販売、投資被害といった内容です。
弁護士会では「環境保全委員会」と「消費者委員会」の2つに所属しながら活動しています。
3つ目は、法政大学での事件をはじめとする表現活動に対する弾圧事件です。
その分野に関心を持った経緯
消費者事件に関しては弁護士に登録した最初から委員会に入っていました。消費者事件は社会的弱者が露骨に被害を受けている分野で問題意識があり、弁護士になったら取り組みたい分野でした。
環境保護に関しては登録2年目から扱うようになりました。私が、自然の多い岩手県の出身で自然保護や開発といった問題への関心は強かったためです。加えて、普段の自転車通勤のという身近なところから問題意識が深まった面もあります。自転車通勤は健康にも環境にもいいことなのに、実際にやっていると、空気も悪ければ道路環境も自動車中心で歩行者や自転車のことを考えていないと強く感じたことが、弁護士として環境問題に関わるようになったきっかけです。
ちなみに、現在所属している、この「森の風法律事務所」は、オオヒシクイ訴訟-茨城県の霞ヶ浦に飛来するオオヒシクイを原告にした訴訟。ちょうど、奄美大島でアマミノクロウサギ訴訟が行われていたのと同時期に争われていました-で、オオヒシクイの代理人となっていた弁護士が集まって設立された事務所で、各弁護士が環境委員会に所属して、それぞれ、環境保護に関する事件をやっています。私も環境保護の分野に取り組む中でこの事務所に所属するようになりました。
印象に残っている案件(事件)
今取り組んでいる石垣島の空港建設の事件は印象深いものですね。建設予定地の下に洞窟が沢山あって、絶滅危惧種のコウモリもいますし土砂を運搬すれ ば、工事現場に隣接している北半球最大といわれるアオサンゴの群落をはじめとする海洋環境にもダメージがあります。そのような生物保護の観点から訴訟を進めていきました。
このような希少生物保護の観点と同時に、そもそも洞窟の上に空港を作るのは安全性に欠ける、という面からも争っていました。実は、最初は「この筋では闘いにくいのでは」というところもありました。しかし、その後の調査で、現場の洞くつだらけの地盤が飛行機離着陸に耐えられない、本当に危険な場所だったということが明らかになりました。
その他にも、空港建設現場の洞窟から、「日本で最古の人骨」が発見されたこともありました。訴訟を進めていく中で新しい事実が発見され、それが訴訟の争点に加わってくるのは興奮します。
環境の事件では裁判中に、問題点を指摘していく中で、徐々に事実が明らかになり、当方が危惧していた、環境や安全上の問題が裏付けられてくるということが多々あります。
環境保護以外では少年事件も印象に残りますね。少年事件は4週間と言う短い期間で行いますが、その中でも彼らの成長に驚かされることが多く、そのような成長の手助けが出来ることが嬉しいものです。
法政大学の事件について
この事件も現在進行している事件で、自分の中では重要な事件です。それまではどこか抽象的だった「表現の自由」に関して、この事件を通じて、表現弾圧や思想弾圧というものが、現在も起こっているということをまざまざと感じさせられました。
この事件のきっかけは、2006年に、大学側が一方的に、構内の看板やビラに関して許可制を敷いたことへの学生の反発でした。そして、これに反対する集会を学生が開いていたところ、大学と打ち合わせしていた公安警察によって、学生数十人が一斉に逮捕されました。これが3年4年と続いてきています。2009年4月には、やはり大学を批判する演説をしていた複数の学生が逮捕され、現在刑事裁判になっています。
しかし、このような弾圧にかかわらず、彼らに賛同する人が増えています。長く声を上げ続けることで変えられるものは、確かにあります。
仕事の中で嬉しかったこと
やはり依頼者に喜んでもらえることです。「相談に来ただけで安心できました」と言ってもらえると嬉しいです。弁護士に相談に来る人は、誰もが、「この先どうなるんだろう」という、先が見えない不安に駆られています。そういう人たちに、決して楽観的なことばかりではありませんが、きちんと先を示すことで、安心させられる部分は大きいと思います。
弁護士になって大変だと感じること
訴訟の準備は大変です。
仕事の8割くらいは訴訟などのための証拠の検討や、書類作りになります。証人尋問のための準備などは、用意した中の数割しか活かせないもので、その中でもしっかり準備するということは大変なことです。しかも、事件ひとつひとつ違うものですから、前の経験から引き出せる面も多少はあるにせよ、結局はひとつひとつオーダーメイドでやっていくことになります。
もっとも、事件一つ一つに個性があり、その人のドラマが詰まっているところが、この仕事もおもしろいところでもあると思います。
休日の過ごし方
そもそも休みが取れないことも多いですが、冬はスキーに行きます。夏は時間があれば山を歩いたりしたいです。
弁護士としての信条・ポリシー
まずは依頼者の話をよく聞くことです。話を聞いているうちに、弁護士としては依頼者の話の先が途中で予測できてしまうことは確かにあります。あるいは、法律問題とは無関係なことに発展することも多々あります。
しかし、まだ言い漏らしたこともあるかもしれないし、何より、全て言い切らないと依頼者も 不満がたまってしまいます。ですから、依頼者は、どういうところで困っているのか、あるいは、どういうところに不満を持っているのか、とにかく話をよく聞くようにしています。時間をかけることも必要ですし、話しやすいように依頼者にリラックスしてもらうことも大切です。
弁護士にはありがちなことかもしれませんが、勝手に依頼者の話の筋を描いてはいけないと思います。我々は、すべてを法的に請求できるもの、たとえば、「ものを返せ」とか、「お金返せ」というところに押し込んでしまいがちです。しかし、相談者の真の望みは、「謝罪が欲しい」ということだってあります。
それらを理解したうえで、その訴えが、裁判上認められるものなのか、あるいは、お金と時間をかけて行う価値があるか、あるいは、社会的に意味があるものか、ということを依頼者が考えるための、その材料を提供するようにしています。
今後の弁護士業界の動向
今までの弁護士は、一人の弁護士がいろんな事件をやっているということが多かったです。しかし、これからは専門化が進むことは間違いないでしょう。
これがいい方向に進んでいるのか、というと疑問があります。いろんな立場に立つからこそ複眼的に考えられるのであって、そういう面がなくなってきてしまいます。そういう意味では、それぞれが得意な分野を持ちつつ、あらゆる事件に対応できるような総合的な力と関心を持ち続けることが理想的だろうと思います。
今後のビジョン
環境訴訟の分野に関して、訴訟制度を革新したいです。
問題意識を深めた具体的な例として、落合川の埋め立て工事に反対したホトケドジョウ裁判が挙げられます。東久留米の落合川というのは、池袋から電車で20分くらい住宅地の真ん中を流れる川です。ここでは、大量な湧水がわき出ています。夏には、子ども達が川で泳いで遊んでいて、先日は、全国の名水100選にも選ばれました。
ここで生息しているホトケドジョウは、わき水がきれいなところでしか育たないドジョウで、絶滅危惧種に指定されています。
この川の水源の一つを埋め立てる工事を差し止めようとしたのが、この裁判です。この訴訟では、河川の工事が対象となっていますから、土地の所有者もいないし小さな工事なので行政処分もなく、長い間、ボランティアなどで川の環境を守ってきた人が、環境権の侵害を根拠に差止訴訟を提起することになりました。
一審の東京地裁で約2年間に渡って審理が行われ、その間の調査や、ホトケドジョウの専門家や河川工学の専門家から、無駄な工事で、しかも、ホトケドジョウをはじめとする河川の動植物に悪影響を及ぼすだけということを示しました。
しかし、判決では環境権が存在しないという一点で棄却され、裁判所は、工事の違法性、つまり専門家が問題点を指摘した治水上の必要性や、環境保全のうえで適切だったかどうかについて、裁判所は、一点も判断を示さなかったのです。
自分の権利が侵害されたら訴える、言い換えれば、自分の権利が侵害された人だけが訴えられるという現行の訴訟制度では、この例のような具体的な権利侵害が把握しにくい訴訟はくみ上げられないのです。こうなると山奥での環境破壊などでは訴訟は無力です。これは大問題と思います。
他方、消費者問題では消費者契約法などで広告の規制に違反すると消費者団体が訴訟できます。ここで原告となる消費者団体は、自分たちの権利が侵害されたわけではないけど、全国の消費者の立場を訴訟で代弁できるのです。
環境訴訟においてもこうあるべきだと思っています。つまり、一人の利益ではなく全体の利益を考えるのです。アメリカが良いと言いたいわけではないですが、 沖縄の米軍基地の工事に関する裁判で、ジュゴンへの配慮が足りていなかったことを示した判決がアメリカでありました。この訴訟の原告には日本の環境法律家連盟も参加していました。
現状は制度が追い付いていないから、制度を作らせるためにも、このような制度が必要であると言い続けたり、環境が壊されていることを示し続けていきたいです。