道に迷い辿り着いた離島での弁護士人生。全国どこでも弁護士に相談できる社会を目指しています
目標のない日々から一念発起して弁護士の道へ
――弁護士になろうと思われたのは、どういったきっかけだったのでしょうか?
ニュースなどで見る弁護士が格好良く、小学生の頃から漠然と憧れていました。当時の文集にも「将来は弁護士になりたい」と書いていましたね。
その思いが強くなったのは、1995年、高校3年生の冬に経験した阪神淡路大震災でのボランティア活動です。たくさんの方が、自分の経験やスキルを使って助け合う姿を目の当たりにしました。一方で私は何もできず、それどころか手を怪我して救護室で治療をしてもらうことになり、無力さを痛感しました。
このときの経験から、社会で役に立つ人間になるには専門的なスキルを身につける必要があると思い、それならば自分は法律の専門家である弁護士になろうと決意しました。
――その後は、弁護士への道を一直線に進まれたのでしょうか?
それが、全くそうではありません。司法試験の勉強を始めたのは、大学を卒業してからです。司法試験受験予備校に通ったのですが、私は法学部出身ではなく、基礎から法律を勉強したことがなかったため、全くついていけず1年で挫折してしまいました。その後は、派遣社員・フリーター・議員秘書などの職を転々としながら生活していました。
同級生には「弁護士になる」と豪語していたのに1年で挫折して、そこから就活をして同級生と同じように会社員になるわけでもなく、かといって本気で何かを目指すわけでもなく、悶々とした日々を送っていました。
大きな川の川岸に、水がとどこおってゴミが溜まっているような場所がありますよね。まさにあんな感じで、本流に戻れずグルグルと同じところを回っているような感じでした。
――その後のご活躍を考えると、そんな時代があったなんて本当に意外です。再び弁護士を目指したのはどういうきっかけだったのでしょうか?
法科大学院(ロースクール)の制度ができて、弁護士を増やそう、多様な人材を増やそうという流れが起きたことがきっかけです。「自分も弁護士になれるかもしれない」と思い、もう一度挑戦してみることにしました。人生を一発逆転するにはこれしかないという感じでしたね。
ロースクールの試験に合格して、3年間通った後に司法試験に合格できました。ロースクールの3年間は人生で一番勉強した期間だと思います。「ここでまた諦めたら無意味な人生になる」という危機感から、寝る間も惜しんで机に向かっていました。
縁もゆかりもない奄美大島へ
――弁護士になってからは、どういったキャリアを歩まれたのでしょうか?
2009年に弁護士になり、東京都渋谷区の桜丘法律事務所で約1年間経験を積みました。この事務所では、弁護士が全くいない、あるいは非常に少ない「司法過疎地域」と呼ばれる場所に赴任する弁護士を養成しています。司法過疎の問題はロースクールに入る前から知っていて、北海道の僻地で医者をやっている知り合いもいたので、自分もそういった場所で弁護士をやりたいと思ったんです。
そして弁護士2年目に、奄美大島の末広町法律事務所の2代目所長弁護士に就任しました。末広町法律事務所は、日本弁護士連合会などの支援を受けて全国に設置されている「ひまわり基金法律事務所」の1つです。
――離島の弁護士、ドラマみたいで格好良いですね。奄美大島を希望していたのですか?
いえ、実は全くそんなことはないんですよ。司法過疎地域で弁護士をするつもりではいましたが、内心はドラマ「北の国から」に憧れて北海道を希望していて、全く逆方向に行ってしまいましたね。ただ、赴任先がどこになるかわからないことは知っていたので、すぐに気持ちを切り替えました。
結果的に奄美で約10年、その後もこうして沖縄で弁護士をしていますから、自分に合っていたんだと思います。
――司法過疎地域に赴任すると、その後もずっと同じ場所で弁護士をするものなのでしょうか?
いえ、任期が終われば自由です。もちろん残る弁護士もいますが、都会に戻る弁護士も多いですよ。私の場合は、末広町法律事務所の所長を5年間務め、そのタイミングで地元京都や東京で弁護士をするという選択肢もありました。
それで色んな方に相談した結果、岩手県のひまわり基金法律事務所で働いていた弁護士たちと一緒に、各地の司法過疎地域にまたがる弁護士法人を立ち上げることにしました。そして「弁護士法人 空と海」を立ち上げ、その事務所の一つとして、奄美に「そらうみ法律事務所奄美事務所」を開設しました。2020年には「そらうみ法律事務所浦添事務所」を開設して今に至ります。
そらうみ法律事務所は、東京都渋谷区、岩手県久慈市、岩手県陸前高田市、鹿児島県奄美市、沖縄県石垣市、そして私がいる沖縄県浦添市にあり、各事務所が日々地域の皆様の依頼に対応しています。
――奄美大島で弁護士をされて、どうでしたか?
それまで京都と東京でしか生活したことがなかったので、最初は方言や地名、島ならではの慣習などに戸惑うこともありました。
そもそも司法過疎地域では、弁護士に相談する、依頼するという文化が薄いので、資料を準備していただいたり、法的な手続きを理解していただくのも一苦労でした。また、島は人間関係が濃いため、約束をしたら内容を書面に残すべきという意識が浸透していません。いざトラブルになったときに、証拠がなくて苦労したことも多々ありました。
あとは、移動のスケールも都会とは全く違いました。たとえば東京であれば、30分〜1時間もあれば法律事務所に行けるでしょう。ところが奄美の場合は、ほかの離島から奄美大島まで来るのに1泊〜2泊が当たり前という世界です。ですから、なおさら弁護士に相談するハードルが高いんですね。それに気づいてからは、極力自分からほかの離島に行って相談や打ち合わせをするようになりました。飛行機の搭乗回数は年間100回を優に超えます。
弁護士だからといって偉そうに事務所で待っているのではなく、自分から行く、島のコミュニティに馴染もうとする、島の皆様や文化に敬意を払う、わからないことは素直に聞く、そうやっていくうちに徐々に弁護士に対する敷居が下がっていって、うまく回るようになりました。元々フットワークが軽いので、自分の強みが生きたと思います。
困っている方のお役に立てることが原動力です
――奄美大島に赴任され、その後沖縄も含めて10年以上、こうして司法過疎地域で弁護士をされている理由を教えてください。
やはり、困っている方のお役に立てるというやりがいが一番です。もちろん都会でも困っている方はたくさんいて、お役に立てることもたくさんあります。ただ司法過疎地域の場合は、そもそも弁護士に相談すらできず泣き寝入りする方もたくさんいます。
また、アウトロー(暴力団など)や地域の有力者の手によって、法的に不公平な形で解決されることも少なくないんです。そういった場所で弁護士として仕事をしていると、人のお役に立てる実感は非常に大きいですし、自分の存在意義を感じることもできます。
――弁護士として特定の分野に特化するというより、身近なお困りごとを幅広く解決していくような形でしょうか?
そうですね。債権回収、借金、遺産相続、離婚、成年後見、損害賠償請求、不動産、所有者不明の土地問題、刑事弁護など、あらゆる相談をお受けしています。
都会でも「マチ弁(街の弁護士)」といって幅広い分野を取り扱う弁護士は多いですが、我々司法過疎地域の弁護士は「究極のマチ弁」だと思っています。
――仕事をする上で、どういったことを心がけていますか?
依頼者や事務所スタッフと協働することでしょうか。弁護士に任せれば依頼者は何もしなくて良い、ということはありません。もちろん法的なことは弁護士がやりますが、必要な資料を集めていただいたり、様々な事情を説明していただいたり、依頼者にも色々と協力をお願いすることはあります。
ですから、「弁護士に全てお任せください」というわけではなく、依頼者や事務所スタッフも含めて協働して解決することを心がけています。そして経験上、うまく共同できたときに良い結果が出ると感じています。
――ご趣味や休日の過ごし方はいかがでしょうか?
マラソンが好きなので、週末に走ったり大会に参加したりしています。これまで、那覇マラソン・沖縄マラソン・石垣島マラソン・ヨロンマラソン・ニューヨークシティマラソンなどにも参加してきました。元々走るのは苦手というか好きではなかったんですが、色んなきっかけで走るようになり、今では健康維持も兼ねて習慣にしています。
一人で抱え込まず、まずご相談ください
――今後の展望をお聞かせください。
弁護士法人空と海を設立するときに、「30年は地域の司法サービスを担っていく」と宣言したので、少なくとも30年は事務所を続けられるようにしたいですね。もちろん、ただ続けるだけではなく、提供するサービスのクオリティをもっと高めていきたいです。
また、司法過疎地域を支える弁護士を育てることも大事な使命だと思っています。気づけば弁護士としてのキャリアも長くなり、3000件以上の相談に対応してきましたが、まだまだやれることはありますし、自分の存在価値をしっかり示せるように技術を磨き続けたいですね。
――最後に、法律トラブルを抱えて悩んでいる方へメッセージをお願いします。
一人で抱え込まず、まずは相談していただくことが一番大事だと思います。「こんなこと弁護士に相談していいのかな」「弁護士に相談して意味があるのかな」と思うかもしれませんが、意外と弁護士が役に立つことは多いですよ。我々弁護士は、たくさんのトラブルを見て、たくさんのトラブルを解決してきましたから、あなたの悩みに対しても、何かしら解決の糸口を見つけられるはずです。
当事務所では、原則として平日の日中に相談をお受けしていますが、土日祝・夜間でも可能な限り対応いたします。お電話またはメールにて、予約をお取りください。今も奄美には毎月1回定期的に出張していますし、離島にお住まいの方は電話やオンラインでのご相談も受け付けています。