
「人生を進める気持ちになってほしい」できる限り誠実に、難しい事件も最後まで依頼者に寄り添う
40歳を過ぎて司法試験に挑戦
ーー弁護士を目指したきっかけや理由を教えてください。
40歳を過ぎた頃から何か別のことで「もう一花咲かせたい」と思うようになり、法学部を出ていなくても司法試験を受けられるという話を聞いて、ではやってみようと独学で勉強を始めました。
それまでは、英語関係の職業に就いており、大学も東京外国語大学出身のため、法律とは全く無縁の人生でした。それでも、幼い頃から正義感は強い方だったと思います。特に労働現場では、矛盾を感じることが多く、そのたびに何とかできないものかという思いは、長い社会人生活の中で時々ありました。例えば、雇い止めや給料条件変更などの問題、教育現場で生徒との関係について上司が対応してくれず困ったことなどがあります。
新しい世界への好奇心とささやかな正義感が、弁護士になろうと思った理由になるのだろうと思います。
証拠の少ない事件では、相手方の証拠分析が鍵に
ーー注力分野とその分野に注力している理由を教えてください。
女性弁護士なので、離婚問題は常にあります。それ以外だと、消費者問題と労働問題です。
消費者問題については、日弁連消費者問題対策委員会の大分県の委員をつとめています。一昨年までは、大分県弁護士会消費者問題対策委員会の委員長もつとめていました。例えば、サクラサイトといった、ネットによる詐欺的な消費者被害などの事件も数多く関わっています。
労働問題でいうと、過労死等防止対策推進全国センターの大分県の幹事をしています。厚生労働省が主催する過労死のシンポジウムが毎年11月に全国で行われていて、その企画にも毎年関わっています。それと、東九州過労死を考える家族の会という、大分県を含めた九州の方々の、過労死のご遺族の会の事務局長をやっております。
ーー過労死問題に力を入れようと思ったきっかけは何ですか。
弁護士になる前から自分が労働者だったので、労働問題は身近に感じていました。
過労死等防止対策推進法ができた2014年頃から、各県で過労死のシンポジウムを自主的に取り組んでいたのですが、その担当者になってくれないかと繋がりのある弁護士に言われたことから、過労死問題に深く関わるようになりました。実際に家族を失った遺族の方と直接お話する機会が増えてきて、注力したいという気持ちが強くなってきました。
ーー仕事をするうえで心がけていることを教えてください。
できるかぎり誠実に仕事をこなすことを意識しています。「誠実に」というのは、依頼者にとって耳障りのよいことだけを言うのではなく、聞きたくないことも言い、言いたくないことも言ってもらうようにするということです。その上で、できるかぎり、依頼者の気持ちに寄り添えるように努力したいと思っています。
今の段階でできることと、できないことをできるだけ率直に依頼者に伝えた上で、立証が難しくても、よい結果が出るかわからなくても、それでもやってほしいと言う方はいらっしゃるんですね。そういう場合には、よい結果にならない可能性があることはご理解いただいた上で、依頼者の声を相手方にきちんと伝える努力もします。
労働事件では、こちら側で出せる証拠が少ないのですが、会社側が出す証拠の中にこちらに有利になるものがあるケースもあります。なので、相手の証拠をよく分析していくことも心がけています。
例えば、過労死の事件で、会社の記録では労働時間がそれほど長くはなく、パワハラの証拠もなかったのですが、亡くなったご本人が生前にLINEで「まだ帰れない」とか「こんなことで怒られた」などとご家族に連絡したり愚痴を言ったりしていた証拠があり、そのLINEがきっかけで、会社の方から実はこんなことがありましたと証拠が出てくるケースがありました。
ーー弁護士として活動をされてきた中で、印象に残っているエピソードを教えてください。
「ニヤクコーポレーション事件」と呼ばれる労働事件です。依頼者はパートで働いている方で、労働時間や仕事内容が正社員と変わらないのに給料が少ないということで、会社に対して、少ない分の給料の差額を請求し、正社員にするよう求めました。この事件については、2016年に九州労働弁護団賞もいただいたので、印象に残っています。
その事件で大変だったのは、相手の会社がとにかく頑なだったことです。私が法律相談に入る前の時点で、既に労働局が介入していて、会社に対して給料などを是正するように調停勧告が出ていたんです。
調停勧告には強制力がないので、無視しようと思えば無視できるのですが、きちんとした企業なら、官公庁が出している、明らかな法令違反だから是正しなさいという決定を、真っ向から無視することはないですよね。
ですが、その会社は、労働局の決定を無視するだけでなく、労働者に対して圧力をかけて、解雇までしたんです。なので、今までの給料の差額分を払えといった請求に、解雇無効の請求も加えました。時間もかかったし、大変でした。企業のコンプライアンスが守られないと、労働者個人はやはり弱いですね。
お給料が支払われなかったり、解雇されたりすると、どうしても兵糧攻めになってしまうんです。労働事件すべてに言えることですけど、裁判手続きはどうしても時間がかかります。その間も労働者は生活していて、生活費が必要なわけです。その中でやっていく難しさを感じた事件の1つでもあります。
ーーやりがいを感じるのはどのようなときですか。
こちらの主張が通ったときは、やはり嬉しいです。
でも、全然勝てなかった事件もあります。そういうときでも、「ここまでやってくれて嬉しかったです」と言ってくださる方もいらっしゃるんですね。結果は出なかったけど頑張った甲斐があったと思う瞬間もあります。
事件が上手くいかなくても、やり切ることによって次に進める気持ちになれる面もあるので、最後までお付き合いすることによってその方の人生のけじめにご協力できたな、と思える瞬間は、やりがいがあると思います。もちろん勝てるのが1番いいんですけど、絶対に勝てると保証することはできないですから。
1人で抱え込まずに、早めに相談してほしい
ーープライベートについても伺います。ご趣味は何でしょうか。
休日は編み物ばかりしています。以前は棒針編みだったんですけど、最近はかぎ針編みに凝っていて、毛糸の爆買いとかしています。
編み物を始めたのは学生時代からです。かぎ針編みを始めたのはここ1年ぐらいですけど、棒針編みは20代からやっているので、40年近いですね。
編み物の魅力は、糸が形になっていく過程です。綺麗な糸を見て、これで何を作ろうかなと想像する時間はすごく楽しいです。どういうデザインにしよう、今度はこんな編み方にしようと考えて、だんだん形になっていく。その過程が楽しいですね。
セーターはもちろん、ハンドウォーマー、レッグウォーマー、帽子、それから三角ショールなども作ってきました。人にプレゼントすることもあります。
本当は運動もしないといけないんですけど。休日は少なくとも40分くらいは歩こうと心がけてはいます。でも、もともと運動があまり得意ではなくて、インドア派なので、どうしても運動不足です。
ーー今後の展望をお聞かせください。
2019年10月に独立したので、もうすぐ3周年です。
開業してすぐ、2020年3月に、くも膜下出血で倒れて、緊急手術で1か月入院したことがあります。もしかしたら障害が残るかもしれないと言われましたが、幸いなことに、何の障害も残らずに、復帰できました。それからは、働き方を考え直して、ワークライフバランスを保って仕事をしたいと思っています。労働問題をやっていて、私の方が過労死したとなったらシャレにならないですよね。
できることを、細く長く続けていけたらいいなと思っています。私がきちんと休むということで、依頼者に対しても、「私も休んでいるのであなたも休みましょう」というメッセージになると思います。
ーートラブルを抱えて悩んでいる方へ、メッセージをお願いします。
2つあります。1つは、早めに相談してほしいです。1人で抱え込まないでほしい。相談が早ければ早いほど、医学と一緒で、早期治療・早期解決に繋がるので、早いうちに相談してほしいです。
例えば、過労死の事件で、多くは労働者の方が亡くなられた後に遺族の方がご相談に来られるのですが、もしご本人が生きていらっしゃるうちに弁護士に相談できれば、会社に改善を申し入れることも可能なんです。
そういった意味でも、早めに相談してほしいと思います。
もう1つは、「Nothing is so important.」という私の好きな言葉を、悩んでいる方に送りたいです。
日本語だと「それほど重要なことはありません」という意味です。今、目の前の問題も重要そうに見えるけれど、過ぎてしまえば、大して重要じゃなかったということの方が圧倒的に多いんです。
「それほど」という言葉には、例えば、「あなたの健康ほど重要じゃない」とか、「あなたの心の平和ほど重要じゃない」とか、いろいろな解釈の仕方があります。悩んだときには、早めに相談することと、「Nothing is so important.」という言葉を思い出してほしいです。