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2018年09月04日 11時54分

「東名高速」あおり死亡事故の「デマ投稿」、なぜ11人全員不起訴になったのか?

「東名高速」あおり死亡事故の「デマ投稿」、なぜ11人全員不起訴になったのか?
画像はイメージです(Graphs/PIXTA)

東名高速で2017年6月、あおり運転を受けて停車したワゴン車が、トラックに追突されて、夫婦が死亡した事故があった。この事故をめぐって、インターネット上でデマを投稿したとして、名誉毀損の疑いで書類送検されていた男性11人がこのほど、不起訴処分となった。

当時、ワゴン車の進路をふさいで停止させて、その後の追突事故を引き起こしたなどとして、建設作業員の容疑者が逮捕された。すると、その容疑者の姓や住所、職業から、インターネット上で、親族や勤務先を特定する動きが起きた。

容疑者の姓が「石橋」であることから、関係のない「石橋建設工業」の社長を「容疑者の父」、同社を「容疑者の勤務先」とするデマが広がった。掲示板などに「イタ電しまくろうぜ」なども書き込まれた。同社は、抗議の電話が殺到して、一時休業に追い込まれた。

報道によると、11人は今年6月、名誉毀損の疑いで書類送検されていた。不起訴の理由について、福岡地検小倉支部は、3人は「起訴するに足りる十分な証拠が得られなかった」、7人は「ネット上の投稿内容をコピーし、掲示板に投稿したにすぎない」、1人はすでに死亡している――と説明しているという。

今回の不起訴について、インターネット上の中傷問題にくわしい清水陽平弁護士に聞いた。

●「初犯の場合には不起訴になることが多い印象がある」

「具体的にどのような内容が投稿されていたのか、頻度、反省の有無、被害弁償の有無といった事情によっても判断は変わるところですが、インターネットでの名誉毀損の多くの事案では、初犯の場合には不起訴(起訴猶予、嫌疑不十分)、という対応となることが多い印象です。

今回のケースでは、掲示板の内容を『コピー&ペーストしていただけ』とされています。法的に『コピー&ペーストだから許される』ということでは決してありませんが、明確にデマと知りつつ最初に投稿した場合とくらべれば、悪質性は低いということができます。

3人については『起訴するに足りる十分な証拠が得られなかった』ということなので『嫌疑不十分』、1名は死亡、残り7人についてはおそらく『起訴猶予』ということでないかと思います。

嫌疑不十分とされた人たちがどのような内容を投稿していたかわかりませんが、仮に、『容疑者の勤務先』や、『イタ電しまくろうぜ』という内容であったとすれば、言われたほうとして不快に思うことは当然としても、名誉毀損ということは困難と思います。

名誉毀損とは、『社会的評価の低下』があることが必要であり、容疑者が勤務していたとしても、直接的に会社が反社会的なことをしているとは受け止められないですし、『イタ電しまくろうぜ』という呼びかけでも、社会的評価は低下しないといえるためです。

それ以外の7名について、仮に起訴猶予だとすれば、名誉毀損として起訴すれば有罪の可能性はあるものの、初犯で反省を示しているなどの理由で、『今回ばかりは多目に見てやろう』という判断になったのではないかと想像されます」

●「被害回復の方法について検討する必要がある」

被害を受けた石橋建設工業の社長は、民事訴訟で損害賠償をもとめる方針だという。今回の不起訴処分はどんな影響があるのだろうか。

「書込みの内容によってくるわけですが、民事での責任追及は可能と思います。また、不起訴処分になっているということは、民事裁判に特に影響が出ることはないです。起訴猶予になっている人たちについての請求は、賠償が認められるだろうと想定されます。

ただ、賠償は認められるとしても、賠償額は、過去の裁判例などからすると、そこまで高額にならない(おおむね30〜100万円の範囲)になってしまうのではないかと思います」

今回の結果について、石橋建設工業の社長は「納得できない」と話ているようだ。

「たしかに、被害を受けた側からすると、なかなか納得できない側面はあると思います。ただ、法的責任は、個々人のしたことについての責任であり、他人が生じさせた結果については責任を負わないことが原則です。

被害者側からすると、多くの人から嫌がらせを受けて、『この書込みがなければ被害はもっと少なかったはずなのに』と考えることは、よく理解できるのですが、その書込みがあったから嫌がらせを受けた、という因果関係の立証は非常に困難です。

実際に今回の11人の書込みだけを見て嫌がらせが発生したというわけでもないだろうと想定されます。

そのため、このような集団から被害を受けた場合の救済というのは、実は、非常に難しい問題です。このような被害は、このケースに限らず、今後も発生してしまうと考えられるので、被害回復の方法について検討する必要があると思います」

(弁護士ドットコムニュース)

清水 陽平弁護士
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、Twitter、Facebookに対する開示請求でともに日本第1号事案を担当し、2018年3月、Instagramに対する開示請求の日本第1号事案も担当。2016年12月12日「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第2版(弘文堂)」、2017年1月18日「企業を守る ネット炎上対応の実務(学陽書房)」を出版。
事務所URL:http://www.alcien.jp
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