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入管収容のトルコ人、痛み訴えるも「1カ月」診療受けさせず…対応の違法性を考察
東京入国管理局

入管収容のトルコ人、痛み訴えるも「1カ月」診療受けさせず…対応の違法性を考察

東京入国管理局に収容されているトルコ人男性が2017年、虫垂炎の手術後に患部の痛みを訴えたのに約1カ月間、診療を受けさせてもらえず放置されたことが報じられた。

東京新聞によると、激しい腹痛を訴えた男性は、2017年6月4日に虫垂炎に腹膜炎を併発していることがわかり、その日のうちに緊急手術を受けた。その後も痛みが続いたが、最終的に入管内で診察を受けたのは7月24日だった。大事には至らなかったという。

非人道的な扱いが問題視されそうだが、東京入国管理局の対応の違法性について、入管問題に詳しい本田麻奈弥弁護士に聞いた。

●入管には「適切な医療を提供する義務」

ーー入管の対応は認められるものなのでしょうか

「入国管理局(入管)の施設に収容された外国人は、体調が悪くなっても自分で病院に行くことはできません。そのため、入管は、収容されている外国人に対して、適切な医療を提供しなければなりません。この義務は、被収容者処遇規則という法務省令でもはっきりと書かれています(同規則30条1項)。

仮に入国管理局が適切な医療を提供しなければ、その義務に違反したとして違法性が認められる可能性があります。違法性が認められるかどうかは、具体的な事実関係をふまえて、入管が、その時点でどのような義務を負っていたのか、その義務に違反したのかによって決まります」

ーー本件についてはどう評価できますか

「報道によりますと、この外国人は、直前に虫垂炎が悪化し腹膜炎まで併発させて緊急手術をしていました。腹膜炎は、放置すると敗血症になり、最悪の場合には死に至ることもある危険な病気と言われています。

そのため、外科手術後も慎重に経過を観察する必要があるでしょう。そして、この外国人は、術後に手術した部分の痛みを訴え続けていたというのですから、手術により何らかの合併症が起こっていた可能性も否定できない状況だったのではないでしょうか。

このような状況のもとでは、入管は、この外国人に対してすぐに医師の診察を受けさせるべき義務を負っていたと考えられます。それにもかかわらず、1カ月近く医師の診断を受けさせなかったのですから、その義務に違反したとして違法と評価されうるでしょう」

ーー入管、つまり国の対応が違法だということを認めさせるハードルは高いですか

「国を相手にする事件において、裁判所に国の行為の違法性を認めてもらうことは簡単なことではありません。また、医療をテーマにする裁判では、医学的な知識や具体的な事実の立証もたくさん必要になります」

●「収容所で病気になったら死んでしまう」

ーー外国人の収容施設内では医療を受ける権利が軽視されているのでしょうか

「はい。残念ながら、そう言えます。今回のケースで、そもそもの問題は、外国人の収容施設内では医療を受ける権利が守られていないことにあります。2007年以降、外国人の収容施設で発生した死亡事故は13件にのぼります。

過去の死亡事例をみると、死亡した外国人は、収容施設内で、けいれんや嘔吐をしたり、心臓の強い痛みを訴えて病院に行きたいと申し出たり、『死にそうだ』と声を上げ床で横になりながら転がったりしていました。そういった状況でも、入国管理局職員はすぐに病院へ搬送しなかったのです。今回の入管の対応も、その延長線上にあります。

なかなか改善しない医療体制に対しては、法務省自身が設置している入国者収容所等視察委員会からも、たびたび改善するように意見が出されていますが、未だに改善は見られません」

ーー実際に外国人収容者から、どのような言葉を聞いたことがありますか

「『このなかで病気になっても病院に行かせてもらえなくて死んでしまうと皆言っている。だから、絶対病気にならないようにしないといけない』。こちらは、実際に収容されている外国人から聞いた言葉です。生命健康が脅かされる強制的な収容施設が存在することの重大さを考える必要があります」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

本田 麻奈弥
本田 麻奈弥(ほんだ まなみ)弁護士 いずみ橋法律事務所
2007年弁護士登録、第一東京弁護士会所属。家事、渉外事件などを取り扱い、外国人事件・難民事件にも取り組む。2011年に人権擁護委員会・外国人部会長(第一東京弁護士会)を務め、現在は日弁連の人権擁護委員会第6部会(国際人権問題及び戦後補償問題に関する検討部会)部会長に就任するなどして活動している。

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