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法の支配と仏の教え…「お坊さん」弁護士、「寺と檀家」のトラブル解決に奔走
円城得寿弁護士

法の支配と仏の教え…「お坊さん」弁護士、「寺と檀家」のトラブル解決に奔走

いまや、二足のわらじを履いた弁護士も、それほどめずらしいものではない。滋賀県守山市の円城得寿さんは、僧籍を持っている弁護士だ。曹洞宗の寺の次男として生まれ、大学卒業後の25年間は、大手電機メーカーで会社員生活を送っていたが、一念発起して司法試験を受験、合格した。

「御仏のお導きだった」と語る円城弁護士。現在は、実家近くで法律事務所をかまえながら、お盆やお彼岸といった忙しい時期に袈裟を着て檀家を回るなど、兄が継いだ寺を手伝う。昨今、寺離れや墓じまいが指摘される中で、寺と檀家とのトラブルはどうやって解決しているのだろうか。そもそも、どういうきっかけで法曹を目指したのか。円城弁護士に聞いた。

●「自分は墓標に何を刻めるのか」と考えた

――そもそも、なぜ弁護士を目指したのでしょうか?

もともと、実家が禅寺ということもあり、しつけがとても厳しかった。次男だったので、寺を継がなくてもよかったんですが、父からは「人の役に立て」と育てられました。高校生のころ、「人の役に立つ職業はなんだろう」と考えていたときに、友人から「弁護士だ」と教えてもらって…一浪して、早稲田大学法学部に入りました。

だけど入学後は、サークル活動(ESS)にのめり込んでしまいましたね。サークル活動が終わった3年生から約1年は勉強して、4年生の時には司法試験を受けたこともあります。少し心残りはありましたけど、「これ以上、親に経済的な負担をかけられない」と思って、企業に就職しました。

――20年以上つとめたあと、会社をやめることになったのは?

仕事は嫌ではなく、むしろ楽しかったです。2003年ごろだったと思いますが、当時40歳半ばだった私は、東京・上野で開催されていた「古代ローマの特別展」を観に行きました。そこにはあるローマ人の墓標があり、その墓に眠る人が生前に何をやったのか、4コマ漫画のように彫られていました。

それから「自分は墓標に何を刻めるのか」と人生を振り返って、「自分は東京に法曹を夢見て上京してきたんじゃないか」「このまま1回しかない人生で、初志を貫いて生きないと悔いが残る」と思ったんです。今から考えると、「御仏のお導き」だと思います。

――すぐにやめたんですか?

ちょうどそのころ、法科大学院制度ができました。法科大学院に入るため、基礎の勉強をしたあと、夜間コースのある桐蔭横浜大学法科大学院に入りました。1年半は働きながら勉強しましたね。夜7時から10時まで授業で、家に帰ると夜12時くらい。そのあと、朝4時に起きて、朝飯を食べながら8時まで勉強して会社に行く。そんな生活でした。

そのあと、勉強量がどうしても足りないと痛感して、会社の休職制度(2年間)を利用して、勉強に集中しました。1日10〜13時間くらい勉強しましたね。2度目で合格しました。1度落ちたあとは相当のプレッシャーがありました。精神的に苦しかったです。

●司法修習後に「僧籍」付与の儀式

――僧籍はいつ持ったのでしょうか?

司法修習が終わったあと、永平寺(福井県)と総持寺(神奈川県)という2つの大本山で、「瑞世(ずいせ)」という僧籍付与の儀式を受けました。小学2年には得度してましたし、お経や儀礼もそのころにすでにほとんど覚えていました。

――「瑞世」とは、どういうものなんですか?

一言でいうと、「1日住職」みたいなものです。修行僧が200人くらいいる中で、朝3時に起きて一緒に座禅して、朝の法要の指揮をとる。そのあと、道元禅師のお位牌に参拝して、管主さんと懇談する。2つの大本山それぞれに1日ずつ行くんです。だいたいは、大学卒業して、大本山で2〜3年間修行したあと最後にやる儀式なので、周りは若い人ばかりでしたね。

――僧侶としての活動を多くするつもりはありますか?

実家の手伝いで精一杯かなと思っています。それよりも、弁護士として、寺院のトラブル解決をやっていきたいと思っています。私の一番の強みは、寺のことを知っているということです。檀家がどういう人で、寺の考え方もわかっています。専門用語も多く、一般の弁護士の場合、言葉一つ一つ説明を受けないとわからないけれど、私だったらそのまま通じる。

●「お寺にも顧客意識の向上が必要」

――寺院のトラブルにはどんなものがあるんですか?

たとえば、寺と檀家とのトラブルです。地域に根づいた人間関係があるため、たとえ深刻な法律トラブルがあっても、寺側はなかなか訴えたりできません。また、あと継ぎ問題で、檀家と先代住職の意向が違うケース。檀家が対立候補を立てて、本山がそちらを認めてしまったりとか。寺離れや墓じまいのトラブルも聞きますね。

――寺院のトラブルはどう解決するのでしょうか?

一般の裁判所と別に、本山には調停・裁判機関があります。トラブルになったときには、まずそこに申し立てして、解決する仕組みになっています。ここでは、宗制(宗の法律)に則って判定されます。そこで解決しなければ、一般の裁判所にもっていくことになりますが、そんなケースはほとんどないですね。

ーー円城さんはどんなアドバイスをしていますか?

ある程度、毅然としたところも必要ですね。たとえば、檀家が名誉毀損にあたるような発言など、常軌を逸するようなことをしている場合、悪いことだと相手に気づかせて、目を覚まさせるという方法をとっています。

ーー寺離れが指摘されていますが、どう考えていますか?

これまで、寺には顧客意識が不足していたのではないかと思います。寺としての価値を高めていかないと、檀家から疑問に思われても仕方ないところです。たとえば、檀家に「法要に参加してよかった」とどうやったら思ってもらえるか、真剣に考えないといけない時期が来ていると思います。

(弁護士ドットコムニュース)

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