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娘を殺されても「死刑」を望まない…遺族の葛藤を描く映画「HER MOTHER」
佐藤慶紀監督

娘を殺されても「死刑」を望まない…遺族の葛藤を描く映画「HER MOTHER」

娘を殺害された母親と、加害者とが交流する様を描いた映画「HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話」が9月9日から、東京・新宿K’s cinemaなどで公開される。監督の佐藤慶紀さんがオリジナルの脚本を書き、クラウドファンディングにより約100万円の支援を得て製作し、釜山国際映画祭ニューカレンツ部門に正式出品された。佐藤さんは、刑事裁判の手続きなどを通して「加害者と被害者遺族がコンタクトを取り、対話するという制度が整えば良い」と提案している。(ライター・高橋ユキ)

●監督を動かしたある被害者遺族の本

HER MOTHER

主人公は43歳のビジネスウーマン・晴美。平凡な生活を送っていたが、ある日、一人娘のみちよがその夫の孝司に殺害されたことから、日常は一変する。当初は死刑を望んでいた晴美だったが、徐々に考えを変えていき、孝司の死刑を食い止めようと動き始めるというストーリーだ。

監督の佐藤さんは、今回の映画製作を企画した理由を「半田保険金殺人事件の被害者遺族の本を読んだことがきっかけでした」と語る。「半田保険金殺人事件」は、1979〜1983年にかけて、保険金目当てなどで3人が殺害され、翌84年に発覚した事件だ。

「出身の愛知県内の事件だったこともあり印象に残っているのですが、 事件の被害者の兄、原田正治さんが書いた『弟を殺した彼と、僕。』を読み、加害者と和解しようとする被害者遺族の方々がいることを知りました。原田さんは、弟を殺害した加害者の死刑が確定した後も『死刑執行を望まない』と、嘆願書を提出するなど働きかけていたんです。肉親を殺害されたのにどうして? と思ったところから、自分の中でも考え始めました」

映画の中で、被害者の母・晴美は、加害者で娘の夫だった孝司に拘置所で面会し、「なぜ娘は殺されたのか」という思いを直接ぶつける。孝司と対話を重ねる中、最高裁判決が下される直前、減刑を求め上申書を提出した。一方、晴美の夫は宗教に救いを求め、孝司を赦そうとするが、死刑の執行については「罪は償うべきだ」という考えだ。晴美の行為についても理解を示そうとしない。

佐藤さんは、海外の事例を含め、様々な事例を調べる中で、「もともと信仰していた宗教の教えに基づき、加害者を赦すというケースが多い。ただ、少ないながらもあくまでも自分の意思として加害者との対話や赦すことを選んだ方がいる」と語る。

●加害者と被害者遺族がコンタクトを

2008年に被害者参加制度が始まり、殺人など重大な事件の刑事裁判の手続きに被害者遺族も参加できるようになった。しかし、加害者が被害者の気持ちや苦しみをダイレクトに知ることのできる機会は少ないのではないかとの指摘もある。

「私も加害者と被害者遺族がコンタクトを取り、もっと対話できる制度が整えば良いと考えています。今は、加害者が被害者やその遺族の気持ちを知る機会が限られているのではないでしょうか」(佐藤さん)

本作は東京での公開後、名古屋、大阪でも公開予定だ。

【作品情報】

●作品名:HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話

●監督・脚本:佐藤慶紀

●キャスト:西山諒、西山由希宏、荒川泰次郎、岩井七世、野沢聡

●劇場:2017年9月9日〜、新宿K's cinemaなどにて上映

●公式サイト:https://www.hermother-movie.com/

(弁護士ドットコムニュース)

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