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スマホ4年縛り、公取委が「独禁法に抵触の恐れ」指摘…何が問題なのか?
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スマホ4年縛り、公取委が「独禁法に抵触の恐れ」指摘…何が問題なのか?

大手携帯電話会社が導入した「4年縛り」のスマートフォン販売プログラムについて、公正取引委員会は6月28日、独占禁止法上や景品表示法上問題になるおそれがあると指摘する報告書を公表した。

auやsoftbankが導入している「4年縛り」は、スマートフォンを4年(48回)の分割払いで購入し、一定期間経過後(auは12カ月、softbankは24カ月)に使っている端末を下取りに出すと、最大2年間(24回分)分の端末の支払いが免除される。

ただし、支払いの免除を受けるためには、新しい端末も同じプログラムに加入するなどの条件をみたさなければならない。

「4年縛り」のプログラムにどんな問題があるのか、籔内俊輔弁護士に聞いた。

●一度契約してしまうと、他社への乗り換えが困難

今回の報告書で、通信と端末のセット販売のほか、このセット販売を前提とするいわゆる「4年縛り」のプログラムについて、独占禁止法と景品表示法における問題点を指摘しています。

まず、独占禁止法上の問題については、一度「4年縛り」を契約してしまうと他社への乗り換えが実質的に困難になると指摘されています。

このプログラムは、確かに携帯電話の契約を新規に行おうという利用者にとって、実質的に端末を半額程度で購入できるという意味でメリットもあります。

その一方で、例えば、この料金プログラムから抜けて通信サービスの料金でより安い他社に乗り換えようとすると、端末購入代金の未払い部分(購入代金の半額以上になる)をその時点でまとめて支払う必要があり、端末購入代金が高額化している状況下では乗り換え時に支払わなければならない金額が大きくなることもあるので、利用者に対して他社への乗り換えを思いとどまらせる原因になっていると指摘されています。

また、新しい端末についても同じ「4年縛り」のプログラムに加入することが条件となっていることから、端末購入代金の分割支払いについて、できる限り大きい金額の免除を受けようとすると、最初の契約から2年後以降についても、ずっと同じ携帯電話会社と契約を続けることになるので、一度契約するとその後も引き続き他社への乗り換えがしにくくなっているといわれています。

●私的独占の可能性

報告書では、公正取引委員会で実施した消費者アンケートから、多くの消費者が「4年縛り」のプログラムを含め大手の携帯電話会社の契約プランを複雑と感じており、このことから利用者が最適なプランを選びにくくなっていたり、最適なプランがどれかを比較検討することが難しくなっていて大手の携帯電話会社と契約している利用者が今の契約を継続しておこうとしがちになったりしている可能性があるとの懸念も示されています。

そして、報告書は、利用者が正しい情報に基づいて自分に最適なプランを選ぶことができるようにするためにも、契約プランの複雑さをもたらしている通信と端末の一体販売や「4年縛り」を含めたプログラムに関して改善することが望ましいと指摘しています。

携帯電話の市場においては、新規参入を活発化させる国の施策も行われており、契約プランも新たなものが提供されていますので、利用者が、料金や通信品質等によって、最適な契約プランを複数の携帯電話会社間で比較検討して選択できることが重要です。

そのため、例えば、携帯電話の契約時点で「4年縛り」の内容が正確に説明されて、利用者も正確に理解したとしても、利用者の他社への乗り換えを困難にする「4年縛り」によって、競合他社(格安携帯電話会社等)が顧客を獲得することが困難にさせるときは、独占禁止法で禁止される私的独占等として問題になる可能性はあると考えられます(そのため、契約プラン等の説明を充実させることが望ましいとするのではなく、契約プラン等自体の改善が望ましいとしているのではないかと思われます)。

●景品表示法の観点

次に、景品表示法の観点では、「4年縛り」の広告から、一般消費者に対して、あたかも単純に端末を半額で購入できるかのような印象を与えている場合には、他社へ乗り換えたり、新しい端末購入時に同じプログラムに加入しなかったりする等の端末購入代金の免除の条件を満たさない場合には、金銭的負担がある(端末の未払購入代金の免除が受けられない)ことについて誤解を生じさせていると考えられ、このような場合には、景品表示法上の有利誤認表示等にあたり問題となります。

こうした「4年縛り」のプログラムに付された条件は、広告で強調されているメリットが受けられない例外に当たる事項であり、こうした事項はいわゆる「打消し表示」として明りょうに表示される必要があります。近年、打消し表示があるものの、その内容が明りょうに一般消費者には伝わるように表示されていないとして、消費者庁が景品表示法違反としている事例が増えています。

広告や店頭での説明内容や方法によっては、このような誤解が生じるおそれがあるので、正確にプログラムの内容を説明すべきであり、それができていれば景品表示法上は問題になることはないでしょう。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

籔内 俊輔
籔内 俊輔(やぶうち しゅんすけ)弁護士 弁護士法人北浜法律事務所東京事務所
2001年神戸大学法学部卒業。02年神戸大学大学院法学政治学研究科前期課程修了。03年弁護士登録。06〜09年公正取引委員会事務総局審査局勤務(独禁法・景表法違反事件等の審査・審判対応業務を担当)。12年弁護士法人北浜法律事務所東京事務所パートナー就任。16〜20年神戸大学大学院法学研究科法曹実務教授。

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