警視庁などは6月29日、詐欺の疑いで、特定抗争指定暴力団道仁会会長の小林哲治容疑者ら男女5人を逮捕した。報道によると、5人には今年1月、暴力団の利用を禁じた沖縄のゴルフ場で、氏名を明らかにせずにプレーした疑いが持たれている。小林容疑者は「(ゴルフをしただけで)悪いことをしたつもりはない」と供述しているという。
ピンとこないのは、「氏名を明らかにしなかった」ことが詐欺罪にあたるのだろうかという点だ。お金をだまし取ったわけでも、ただで遊んだわけでもない。お金を払ってゴルフ場でプレーをしたことが詐欺になるのだろうか。
また、一般人が似たようなことを行った場合、たとえば一般男性が「医師限定の婚活パーティ」にこっそり参加したようなケースにも、今回と同じような法律が適用されるのだろうか。刑事事件に強い長谷川裕雅弁護士に聞いた。
●「詐欺」罪にあたるのは、お金や物をだまし取る行為だけではない
「詐欺罪とは、一般的には相手をあざむいて金銭をだまし取るものですが、サービスをだまし取る行為も含まれます。これには刑法246条2項という規定があります」
と、長谷川弁護士は解説する。刑法246条1項では、「人を欺いて財物を交付させ」る行為を「詐欺」罪とするとともに、人をだましてサービスを受けるといった、「財産上不法の利益を得」る行為も同条2項で「詐欺」と規定している。
「今回のケースも、暴力団構成員であれば受けられないゴルフ場でプレーをするというサービスを、身分を隠すことによって不当に受けているのであって詐欺罪が成立します」
今回逮捕された暴力団会長らは積極的に「だました」とまではいえず、黙っていただけのようだが、これも詐欺罪にあたる行為と言えるだろうか?
「必ずしも積極的にだます行為は必要ではありません。この場合のように暴力団員ではないとゴルフ場の職員が勘違いしていることに気付いていながら、事実を告げないような『不作為』による詐欺行為でも詐欺罪は成立します」
こうしてみると、この事件に関する逮捕理由は法律的に妥当なようだ。
●婚活パーティに身分を偽って参加することも犯罪になる
それでは、一般男性が「医師限定の婚活パーティ」に参加した場合はどうだろう。
「この場合も、同様に考えていいと思います。詐欺罪のほかに、医師でない者が参加することによって、主催企業に対する業務妨害罪が成立する可能性もあります。さらに、そのパーティが縁で出会った女性と肉体関係を結んだらどうかという問題もありますが、貞操は財物でも財産上の利益でもないので、これについては詐欺罪は成立しません」
それに加えて、次のような犯罪が成立可能性があるという。
「パーティに参加する際に、偽造した医師免許証を提示したとすれば私文書偽造・同行使罪が成立します。また、主催者や女性に対して本当の医師からもらった名刺を渡して医師と名乗った場合は、他人の名刺の不正使用として私印不正使用罪が成立する場合があります」
つまり、小細工をすればするほど、さまざまな犯罪に手を染めることになってしまうようだ。