訪問販売などでウソの説明をした業者に対する罰金を、現行の最大300万円から最大1億円に引き上げることなどを盛り込んだ「特定商取引法」の改正案が、3月4日の閣議で決定された。報道によると、今国会で成立すれば、来年中にも施行の見通しだという。
消費者庁の調査では、65歳以上の高齢者を狙った悪質商法の被害がここ数年で急増し、去年3月までの1年間に全国の消費生活センターに寄せられた相談は26万件あまりと5年前の1.5倍以上に増えたという。このため消費者庁は、訪問販売や電話勧誘などのルールを定めた「特定商取引法」について、罰則の大幅な強化を盛り込んだ改正案をまとめた。
法案では、訪問販売や電話勧誘でウソの説明を行った業者に対する罰金を、これまでの最大300万円から最大1億円に引き上げるとしている。また、業務停止命令を受けた業者の役員などが、別の会社を立ち上げて同じ業務を続けることを新たに禁止し、違反した場合、懲役や罰金を科すことも盛り込んでいる。
今回の改正案で、不当な勧誘などをする悪徳業者を根絶することにつながるのか。鈴木義仁弁護士に聞いた。
●罰則強化で「悪徳業者」を根絶できる?
「これまで、悪徳商法などによって営業停止を受けた業者が、営業停止処分から逃れるために、新しい会社を設立し、代表取締役や取締役を変えて同じ営業を継続する事例が少なからずありました。今回の改正案では、こうした業者に対して、新たな会社設立や業務の継続を禁止する命令を出せます。
業務停止命令期間の延長や、行政庁による報告・立ち入り調査権、質問権などが法律に明記された結果、業者が回答を拒否したりウソの回答をした場合にも罰則がもうけられるなど、行政調査権限の強化と相まって、行政庁としては実効的な規制を行える手段が増えたと言えるでしょう」
鈴木弁護士はこのように述べる。
「罰則が強化されたことで、まず、警察による取締強化が期待できます。また、業務停止命令を受けた業者に対し、たとえば、計画的な返金など、消費者の利益保護のために必要な措置を指示できるという規定もあります。この指示に違反した場合には、さらに業務停止命令や罰則が付くことになっており、消費者の被害回復を図るねらいがあります。
ただ、業務停止命令を受けた業者が、実際にどのくらい被害弁済をできるのかは、若干疑問が残ります。とはいえ、行政処分や罰則の面での規制の強化がなされることは間違いなく、それなりの効果は期待できるでしょう。特に、最近よく見られる、高齢者をターゲットにした悪徳リフォームなどの勧誘に対しては、一定の効果があると思います」
一方で鈴木弁護士は、改正案の課題も指摘する。
「今回の改正では、訪問販売や電話勧誘販売についての勧誘の事前拒否制度の導入や、インターネット通信販売の虚偽広告による取消に関する規定を盛り込むことが見送られました。インターネット関係の被害は、若者から高齢者まで全ての世代で多いのですが、規定が盛り込まれていない以上、根絶は期待できないでしょう。被害の根絶という点からすれば、このような規定はやはり必要だろうと思います」