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「不十分だらけ」の救済新法でも信者を救う方法 第一人者・郷路弁護士が見出した一筋の光

「不十分だらけ」の救済新法でも信者を救う方法 第一人者・郷路弁護士が見出した一筋の光

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の高額献金問題などを受け、12月10日に「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」(救済法)が成立した。被害対策に当たってきた全国霊感商法対策弁護士連絡会は救われる範囲が不十分だとして声明を発表している。

代表世話人の郷路征記弁護士は、多くの信者とマインドコントロールについて理解を深めた経験から「違法な伝道・教化活動で統一原理を植え付けられ、判断の基準を変えられていることに着目すべきだ」と指摘、新法の内容はこれまでの裁判所の判断よりも後退していると批判する。

ただ「一筋の光明はある」という。十分に配慮すべき義務とされた「個人の自由な意思を抑圧し、適切な判断をすることが困難な状態に陥ることがないようにする」という文言だ(3条1号)。これにより「弁護士がさらなる努力をし、裁判所が問題をよく理解し『救おう』という気持ちを持ってくれれば、救済の道は今よりも開かれるかもしれない」と期待した。

●献金をする統一教会員は「困惑」すらしていない

青春を返せ訴訟や、信仰の自由回復訴訟と題して裁判を勝ち抜いてきた郷路氏が危惧するのは、これまでの判例で得てきた裁判所の判断と比べ、救済法の条文が厳しく範囲が狭まっている点だ。

例えば、新たに加わった困惑類型と呼ばれる4条は「法人等は、寄付の勧誘をするに際し、個人を困惑させてはならない」との禁止規定だ。しかし、郷路氏はマインドコントロールの仕組みを図示(勝俣彰仁弁護士作成。左図は西田公昭・立正大心理学部教授「マインドコントロールとは何か」から)し、そもそも統一教会員は困惑すらしていないと説明する。

人が物品購入などの意思決定をするには、2つの情報を利用するのだという。「いい薬があるよ」などと勧められ(ボトムアップ)、それを受けてこれまでの自身の価値観や経験から「体が良くなりそうだから買おう」などと判断する(トップダウン)。

郷路氏は、新法はボトムアップの部分しか照準にしていないと指摘する。教会員は、長い時間をかけて原理を教え込まれ、判断基準が統一原理に変えられてしまう結果、生き方や人格そのものが変わる。つまりトップダウンの部分(判断基準)が教義そのものになるため、意思決定の結果が変わってしまう。

●先祖供養のために繰り返す献金、救済不能

4条6号
霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、当該個人またはその親族の生命、身体、財産その他の重要な事項について、そのままでは現在生じ、もしくは将来生じ得る重大な不利益を回避することができないとの不安をあおり、またはそのような不安を抱いていることに乗じて、その重大な不利益を回避するためには、当該寄付をすることが必要不可欠である旨を告げること。

新法は上記の通り「霊感等の知見」「重大な不利益」「必要不可欠」との文言で要件を厳しく規定している。他方、2021年の東京地裁判決では「勧誘行為が不安に陥れ、それにつけ込んで行われ、支出行為が自由な意思に基づくものとはいえないような態様で行われたかどうか」で違法性を判断している。

郷路氏はこれも後退で、先祖の供養をするための献金も、そうしなければならないと判断基準を変えられているので、献金の際には「重大な不利益」で不安をあおったり、「必要不可欠」と告げる必要がなかったりする場合がほとんどだという。

●預金などの高額献金も救えない

また、配慮義務の「個人またはその配偶者もしくは親族の生活の維持を困難にすることがないようにすること」(3条2号)も後退で、信者の大多数を占める主婦層は夫の収入で生活しているため、例えば数千万円の全預金を献金させられたとしても「生活の維持を困難にする」とはいえないため、該当しないと説明した。

●自由意思を奪う組織の責任を問うためには

それでは2年後の見直しまで、救済法は「絵に描いた餅」になってしまうのか。郷路氏は「一筋の光明」として以下の配慮義務(3条1号)を挙げる。

3条1号
寄付の勧誘が個人の自由な意思を抑圧し、その勧誘を受ける個人が寄付をするか否かについて適切な判断をすることが困難な状態に陥ることがないようにすること。

2015年の札幌高裁判決で、教会側の「困惑していない自由意思の献金だった」との主張を、以下の理由で退けているからだ。

自由意思に基づかず統一原理という教義に帰依させられ、献金などをしなければ祝福されないという教義に拘束された状態で献金したのだから、威迫等がされなくても自由意思に基づかずに行ったと認められる。

配慮義務のため、勧告・公表の対象にしかならないものの、裁判による救済への取っ掛かりにはなると郷路氏は説明する。

「正体を隠して勧誘し、信仰を植え付ける一連の伝道・教化活動が、判断基準を統一原理に変えることでその人本来の自由な意思決定を阻害していると認定されれば、統一教会の加害実態に合致した救済が裁判で実現するかもしれません」

ただ、それには弁護士の不断の努力と裁判所の理解が不可欠だという。

「3条1号をもって自動的に救えるわけではありません。裁判所は、前例より新法の考え方に引っ張られるのではないでしょうか。訴訟活動で弁護士はより一層戦い方を考えなければならないし、それを通じて裁判所が本気で救おうと思ってくれるかに掛かっています」

●1世も2世も救われる理想の形

郷路氏が一貫して目指しているのは、組織としての違法な伝道・教化活動の責任を認めさせることだ。その意味では、自由な意思を奪われた1世も被害者。今回、ほぼ救済策が取り残されてしまった2世の損害の回復にもつながると考えている。

「信仰の自由を奪われ、判断基準すら変えさせられた結果、献金で家計を圧迫し、統一原理を押し付けて2世を苦しめた。1世と2世が一緒になって、組織を相手に責任を問うことができれば、最高の理想です。親が悪かったわけじゃない、悪いのは組織だと司法に認められることは、2世が新しく生きる土台になり得ると思います」

プロフィール

郷路 征記
郷路 征記(ごうろ まさき)弁護士 郷路法律事務所
1943年札幌市生まれ。1965年東北大学経済学部卒業。1971年弁護士登録。 北海道合同法律事務所を経て、郷路法律事務所。1980年代より旧統一協会問 題にかかわり、「全国霊感商法対策弁護士連絡会」代表世話人を務める。近著 は「統一協会の何が問題か―人を隷属させる伝道手法の実態―」(花伝社)。

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