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「今はミニカルトも要注意だ」統一教会から母を救った弁護士が語る「脱会」のリアル
母親の救出体験などについて語る男性弁護士(2022年7月25日、弁護士ドットコムニュース撮影)

「今はミニカルトも要注意だ」統一教会から母を救った弁護士が語る「脱会」のリアル

安倍元首相の銃撃事件で注目が集まった世界平和統一家庭連合(旧統一教会)。救済活動を担ってきた全国霊感商法対策弁護士連絡会には、1990年代に母親を脱会させたことをきっかけに会社員から転身した男性弁護士がいる。

オウム真理教といった大規模なカルト集団が目立たなくなる一方で、現在は、街中で誘う霊能者や、自己啓発サークルなど「ミニカルト」をめぐる紛争が登場しているという。

男性は「カルトは日本社会と親和性がある。メスを入れるべきだ」と警鐘を鳴らしている。

●水子供養や自己啓発などでトラブルに

男性は現在、旧統一教会に返金を求める訴訟のほか、アレフ(オウム真理教の後継団体)が進出している自治体の顧問をしている。

恐怖心をあおりコントロールすることで人を支配し、経済的な収奪や人権を侵害するなどの「カルト」について、かつて話題になったオウムのような大規模な団体のみならず、最近では、水子供養をうたいながら寄付を募る神社や、街中で霊能者をかたったり自己啓発に誘ったりするサークルなど「ミニカルト」をめぐる紛争が出てきていると指摘する。

「真面目な人たちが多く組織立った日本社会は、カルトと親和性があります。オウム以降はあまり話題にならなかったので、まだやってたの?という人もいるかもしれない。社会で再び認知され始めた今、もっと理解が広がってほしいです」

「今回の事件で、すぐに記者会見で説明できたのは各地の弁護士が地道に活動してきた底力です。(アダム国である韓国に、エバ国・日本が資金を調達してささげるという)旧統一教会という団体を、国が宗教法人として認めていること自体がおかしい。メスを入れるべき時です」

男性がこう語気を強めるのには、わけがある。東海地方に住んでいた母親が、かつて旧統一教会に入信し、約7年間にわたって活動していたからだ。男性は妻や妹らと協力し、母をマインドコントロールから救出した。その経験を、匿名を条件に語ってくれた。

●統一教会に入った母は「いつ爆発するかわからない爆弾」

「お父さんとまた結婚したのよ」

1995年末に実家に帰省した際、母が言った言葉に、耳を疑った。祖父の介護で悩んでいた時期に印鑑を購入したことがきっかけで旧統一教会に入ってしまったことは知っていた。しかし、多趣味な母親だ。2、3年で飽きるだろうと高をくくっていた。既婚カップルが改めてメシア(救世主)である文鮮明の祝福を受ける「既成祝福」のことだった。

「親父まで取り込まれてしまったか、と失望しました。大企業の管理職だったのに『ブッシュの講演とか面白いことやってて、すごいんだよ』と肯定する。苦々しく思ったが、対処法が分からなかった」

男性は東大法学部卒業後、ソニーに入社して5年目。妻もソニーで、海外勤めにあこがれてバリバリ働いていたころだった。ある日、心配した妻の母親から「マインドコントロールの恐怖」という本を紹介される。統一教会から脱会した米国の心理学者スティーブン・ハッサン氏が1993年に著したもので、カルト問題についてのバイブル的書籍だ。

「これだ、と思いました。両親は文鮮明のだましのテクニックに支配され、統一教会に絡め取られてしまっていると分かった」

脱会させようと牧師などのカウンセラーに相談へ行った。しかし当時は、親が子どもを救出するピークのころ。統一教会は母親のような中年の女性「壮婦」狙いにシフトしていた。父母2人を脱会させるのは一筋縄ではいかないことが分かってしまった。

「東海地方への転勤を考えていたところ、義父から『親のために人生を棒に振るな』と言われました。でも、いつ爆発するか分からない爆弾を抱えているような気持ちで、夢だった海外へ行くことも躊躇せざるを得ませんでした」

●教義と違う考え方は「サタンが入ってきた」と排除される

それから約1年後、父が病気で急逝する。

母1人なら、今度こそ脱会させられるかもしれない。男性は、妻や妹、母の親族、義理の両親と協力し、再び動き出した。新体操選手の山崎浩子さんを救出した牧師に相談し、2カ月間の闘いが始まった。

自分の頭で思考することを止めてしまうマインドコントロールを解くには、統一教会関連の人やものとの接触を完全に断つことが必要だ。当時は、自宅とは別の部屋に家族も泊まり込み、家族や牧師と話し合いを続ける方法が取られていた。男性も妹と協力し、有給休暇を2カ月使って母親と暮らした。

統一教会の教義は、母の頭を支配していた。家族を救うため、子孫を救うために自分の献身が必要なんだという使命感で動いている。教義と違う考えが頭に浮かぶと、サタン(悪魔)が入ってきたからだ、と排除する。善か悪か二者択一の思考になっていた。

男性は、自分が否定的な意見を言った時、違う人格が出てきたかのようだったと振り返る。

「母は顔色を変えて『苦しい思いして、あなたたちのためにやっているのに!』と怒った。知らない人のようでした」

「苦しい思い、というのは献金のことなんです。今考えれば、お金を出さなければならないことへの葛藤ゆえの言葉だったかもしれません」

●当時の気持ちを忘れたくなかったから、弁護士になった

粘り強い家族の説得と、牧師のカウンセリングにより、母のマインドコントロールは解けた。母が「あれ?おかしいな」と疑問を感じるきっかけになったのは、ある録音テープ。よく知っている統一教会幹部が、いち信者から教会に関する矛盾を突かれてどぎまぎと応対していた。思考が停止した状態から、自分の頭で考えることができるようになる一歩だった。

その後も話し合いを続けていくうちに、「カウンセラーと2人で話したい」と言い、脱会届を提出するに至った。

「家族の愛情でマインドコントロール状態にあるところにくさびを打ち込んで、聞く耳をもたせた上で、少しずつ間違いに気づくことができた。決して簡単じゃない。当時は合同結婚式で韓国に渡って貧しい暮らしをしている娘の救出のタイミングを待つ両親がいたし、今は生まれた時から教義を教え込まれている2世信者など、つらい思いを抱える人がたくさんいます」

自分の経験を役に立てることができないか。何より大事なのは、身の回りの家族じゃないか。「この時の気持ちを忘れたくなかったから、弁護士になることを決めました」

母親が献金した金額の多くは回収できなかった。脱会させることが最優先だった。でも今は、元来の陽気な母の姿がある。昔の友人関係も戻って、穏やかな暮らしをしているという。妹が産んだ孫をかわいがる70代の「おばあちゃん」として。

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