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旧統一教会、信者家族らと法廷闘争も 夫の財産を内緒で献金、伝道しなければ「自分も家族も不幸に」…裁判所はどう判断?
東京地裁(Caito / PIXTA)

旧統一教会、信者家族らと法廷闘争も 夫の財産を内緒で献金、伝道しなければ「自分も家族も不幸に」…裁判所はどう判断?

安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件で、殺人の疑いで逮捕・送検された被疑者の家族と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関連が連日報じられ、旧統一教会にまつわるトラブルもあらためてクローズアップされている。

旧統一教会による「霊感商法」をめぐっては、 1987年5月に結成された全国霊感商法対策弁護士連絡会が長年にわたり、被害の根絶と被害者救済を目指し活動している。同会ホームページで公開されている集計によると、被害金額は35年間で約1237億円にもなるという。

旧統一教会の田中富広会長は7月11日、記者会見で「(コンプライアンス宣言をした)2009年以降、トラブルは起こっていない」と発言したものの、同17日にホームページで公表された声明で、宣言の結果が出ているという趣旨であり「トラブルがゼロになったという意味で言ったものではない」と釈明。2009年以降もトラブルが発生していることを認めた。

トラブル解決の最終手段となるのは「裁判」だ。旧統一教会に関するトラブルは司法の場でどのように判断されてきたのか。過去の裁判例の一部を紹介する。金銭トラブルをめぐる民事裁判だけでなく、起訴され有罪判決となった刑事裁判もあった。

●事例1)裁判所が献金トラブルを「組織的な不法行為」と指弾

献金をめぐるトラブルとして、旧統一教会の女性信者の元夫が、婚姻期間中に、夫の意思に反して、夫名義の財産から多額の献金等をしていたとして、金銭を受領した旧統一教会に対し、損害賠償を請求したという裁判(東京地裁平成28年1月13日判決)を紹介する。

判決ではまず、旧統一教会は、信者に対して、「信者は氏族メシアとして、家系や先祖を代表して、家族を救い、先祖を救う立場にあり、そのためには、献金や伝道をすることを使命としており、これに従わない場合には、自分も家族も不幸になり、先祖も救われないと指導していた」と指摘。

さらに、どれくらいの財産があるのかを信者から聞き取るとともに、夫の金をどれだけ管理し、自己の判断でどれだけ金を動かせるかをも聞き取った上で、家族との接し方や献金の仕方を指導し、夫の意思に反して献金をすることに躊躇していた信者に対しては、説得をしていたことを認定した。

「組織的活動として、信者の財産状態を把握した上で、壮婦に対しては、献金によって夫を救い、夫の家系を救うという使命のために、夫の財産を夫の意思に反して内緒で献金する等の名目で交付させて」いたとし、妻が行っていた献金等の原資が夫の財産であり、原告の意思に反するものであったことも認識していたと判断。

「組織的な不法行為」であるとして、元夫に対する損害賠償責任を負うとして、旧統一教会に対し、約3430万円の支払いを命じた。

この地裁判決では、元夫が求めていた精神的苦痛に対する慰謝料は認められなかったが、のちの高裁判決(東京高裁平成28年6月28日判決)は、「預金等を取り崩して費消したことが婚姻破綻の有力な原因の一つとなり、これにより1審原告(夫)が相当程度の精神的苦痛を受けたであろうことは容易に推認される」として、慰謝料として100万円の支払いを命じた。

旧統一教会の声明文では、「過去において純粋な信仰に基づいて自主的に献金を捧げた信徒が、その後心変わりして献金の返還を求めるといったケース」をトラブルの一例として挙げていた。

しかし、この裁判では、なんとしても献金をさせようとする「組織的な不法行為」の存在を認め、旧統一教会の不法行為が成立するとした。高裁判決はその後、双方から上告されることなく確定している。

●事例2)信者の違法な勧誘で、旧統一教会の「使用者責任」を認定

旧統一教会への献金をめぐるトラブルでは、信者の違法な勧誘について「使用者責任」を認めた裁判例(東京地裁平成22年12月15日判決)もある。この裁判では、旧統一教会だと知らされずに勧誘された女性とその夫などが原告となって、旧統一教会および勧誘した信者本人に損害賠償を請求した。

判決はまず、布教活動に伴って献金などの勧誘をすることは「その方法が法の許容するものである限り、信教の自由に由来する宗教活動の一環として当然許容されるべきものであり、これにより法律上の責任を生じることはない」としたうえで、次のように述べた。

「相手方に害悪を告知したり、心理的な圧力を加えるなどして、殊更に相手方の不安、恐怖心等をあおるなど、相手方の自由な意思決定を制約するような不相当な方法でされ、その結果、相手方の正常な判断が妨げられた状態で献金等がされたと認められるような場合には、当該勧誘行為は、社会的に相当な範囲を逸脱した行為として、違法と評価されるといわざるを得ない」

そのうえで、家系に関わる因縁話とそれに起因する不幸を告げるなどして不安を植え付け、高額の親族系譜の購入を勧誘したことや、「先祖の悪い霊がとりついており不幸になる」などと害悪の告知をして、不安を殊更にあおって自由な意思決定を不当に制約し献金させたことについて、勧誘した信者本人は直接不法行為を行った者として損害賠償責任を負うとした。

さらに、旧統一教会の責任については、「信者が第三者に加えた損害について、当該信者との間に直接の雇用関係がなくても、当該信者に対して直接又は間接の指揮監督関係を有しており、かつ、当該加害行為が当該宗教法人の宗教活動等の事業の執行につきされたものと認められるとき」は、使用者責任を負うと言及。

「信者らが行った経済活動及び伝道活動は、外形上、被告協会の宗教的活動の一環としてなされたということができる」として、使用者である旧統一教会の損害賠償責任も認めた。

●事例3)旧統一教会のいわゆる「フロント企業」社員が有罪に

最後に紹介するのは、旧統一教会と関係のある霊感商法の会社および社長・営業部長が起訴されたという刑事裁判(東京地裁平成21年11月10日判決)だ。

東京都渋谷区の有限会社「新世」がおこなっていたとされる霊感商法をめぐり、同社社長や営業部長に加え、実行犯5人が逮捕された事案。実行犯5人は各100万円の罰金刑を科され、社長・営業部長と「新世」は、印鑑の売買契約の締結を迫り、威迫して困惑させ売りつけたとして、特定商取引法違反で起訴された。

判決によれば、印鑑を売りつけた手口として、街頭で呼び止めた通行人を事務所に連れて行き、3時間以上もの間、「先祖の人たちは、たくさんの人を殺してきていますね。その因縁が、あなたの家に降りかかっています」「先祖の因縁を振り払うためには、あなたの身分にふさわしい印鑑を持った方がよろしいかと思います」「印相さえよくすれば、先祖の因縁を振り払うことができます」などと執拗に言うなどしていたという。

しかし、この手口が特定商取引法違反に当たるとして、社長に対し懲役2年(執行猶予4年)・罰金300万円、営業部長に対し懲役1年6カ月(懲役4年)・罰金200万円、「新世」に対し罰金800万円の有罪判決が言い渡された。

判決は、被告人となった「新世」の会社役員や従業員など全員が旧統一教会の信者であり、会社設立当初から長年にわたって、このような印鑑販売の手法が、信仰と渾然一体となっているマニュアルや講義によって多数の販売員に周知されていたと指摘。

さらに、販売員らはこの販売手法が信仰にかなったものと信じて強固な意思で実践していたものであり、「新世」社長と営業部長は、印鑑を購入した客を旧統一教会に入信させるための活動であるフォーラムへ誘うなどし、旧統一教会の信者を増やすことをも目的として、違法な手段を伴う印鑑販売を行っていたと認定した。

この判決の認定事実に従えば、「新世」の実態は、旧統一教会のいわゆる「フロント企業」だったということになる。

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