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吉野家、男塾コラボ特典「丼」で謝罪 8カ月220回来店した猛者に「非情仕打ち」ゴタゴタの内幕
お名前入りオリジナル丼(プレスリリースから)

吉野家、男塾コラボ特典「丼」で謝罪 8カ月220回来店した猛者に「非情仕打ち」ゴタゴタの内幕

漫画『魁!!男塾』とコラボしたキャンペーンをめぐり、牛丼チェーン「吉野家」が3月24日、公式サイト上で謝罪した。

このキャンペーンは、1日1回来店300円以上の支払いで1ポイント「米札(マイル)」が貯まり、そのマイル数に応じて特典がもらえるというもの。220マイル(220日・約8カ月かかる)で「名前入りオリジナル丼(どんぶり)」がもらえる。

ところが、告知が不十分だった「実名に限る」というルールのために、好きな名前を丼に入れられなかった人たちが激怒して、SNS上で批判の声を上げていた。

元々、ライバル店の「松屋」が好きだったのに、キャンペーンを通じて「吉野家」推しになったという男性は、謝罪を受けて、次のように話している。

「私は今まで続けて通いすぎたのでしばらくは休みますが、落ち着いたらまた吉野家に行きたいです。もちろんどんぶりも大切に飾りたいと思っています」

弁護士ドットコムニュースは、当事者と吉野家に取材した。(編集部・塚田賢慎)

●サイトに明記されていないのに「本名」に限定したことで謝罪

吉野家は3月24日、公式サイトトップページに謝罪文書のリリースを掲載した。

〈吉野家公式アプリ『魁!!吉野家塾』特典であるオリジナル名入り丼について、キャンペーンサイトでは明記がなかったにも関わらず、名入り丼の特典を獲得した方が閲覧できる名入り丼特典先配送入力フォームで名前を本名に限定する旨の条件を付し、お客様に多大なるご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます〉

社内での再協議の結果、名入れできるのは、(1)〜(3)に該当しないものとした。 (1)第三者の誹謗中傷にあたる言葉 (2)社会通念上、不適切と考えられる言葉 (3)著作権、商標権等、第三者の知的財産権等の侵害に該当する言葉

●何があった?

謝罪に至ったのは、SNS上でキャンペーンをめぐっての吉野家の対応に批判があがったからだ。

昨年7月15日から今年3月31日までのキャンペーン『魁!!吉野家塾』は、来店回数に応じたポイント「米礼(マイル)」に応じて、さまざまな特典がもらえるものだ。

1日につき得られるのは1米礼となる(倍増する日もある)。220米礼で貯めてもらえる「オリジナル名入り丼」は基本的には220日も通わないといけないわけだ。

そんな中、SNS上で、オリジナル名入り丼に入れられる名前は「本名でなければいけないとされた」とする複数の報告があがった。

特に、トランポリン施設の運営者によるツイート(23日)は多くの反響があった。

〈名前はなんでもオッケーとのことでマヒマヒの名前入れてもらってお店に飾ろうと思って頑張って毎日通ったのですが、本名のみに変更になったそうで問い合わせたら、吉野家なぜかとてもケンカ腰でびっくり〉

吉野家のお客様相談室長による個別の回答が紹介されており、「社会常識に照らし合わせて『マヒマヒトランポリン』様などはどう考えても実名であるとは考えられません」と答えていた。

また、別のメールでは「著作権その他の観点からご本人様の名前にさせていただいております。家族、友人等第三者、キャラクター、タレント、ニックネームなどは使用できません」と回答があったようだ。

弁護士ドットコムニュースは3月24日、マヒマヒトランポリンさんと吉野家それぞれに問い合わせた。

●マヒマヒさん「著作権を問題にする理由がわからない」

埼玉県のトランポリン施設「マヒマヒトランポリンパーク」の代表・富田哲之さんは、220米礼達成者だ。

施設名を入れた丼を手に入れるため、キャンペーンに取り組んだが、吉野家に問い合わせた別の人たちのツイートを見るなどして、名入れが「本名」に限定するのかどうか、3月になって吉野家の問い合わせフォームから確認した。

すると、3月21日、23日になって、それぞれ上記内容の回答がお客様相談室、相談室長からあったという。

さらに、富田さんからは、室長に対して〈著作権ということであれば、「マヒマヒトランポリン」はこの世でただひとり私にこそ使用権のある私の所有する店舗の名称なのでなんの問題もないはずです。もしマヒマヒトランポリンの名称が私より先にこの地球の誰かほかの方が商標登録しているというのであればあきらめます〉とメールを返した。

「このキャンペーン開始当初は、名入れについて、『どのような名前でもよい』という趣旨のものでした。開始前に問い合わせをした人がいて、返答が任意の名前でいいという返答をSNSで見たので、そのような認識でした。

お店の名前を入れたいと考えて、220日間頑張ったわけです。それなのに、利用者への告知も一切していないのに、ニックネームなどではダメとするわけです」

●うそのような実名の人だっているんだ

吉野家側は、マヒマヒトランポリンと名乗った富田さんに、『「本名実名の判断」に関して、「社会常識に照らし合わせて」判断している』とする考えをメールで回答した。

「ふざけた名前であれば実名でないと判断しますということですよね。うちのトランポリンパークにも、お客様にはうそのような実名の子もたくさんいます。アルバイトのパキスタン人の子も名前が姓名だけでなく、3つに分かれている。その場合どうやって判断するのでしょう。

在日外国人で本名と通り名のあるかたはどうすればいいんですか。差別問題につながりませんか?と伝えました。そうしたところ、差別については法務局に相談してと言われました。

当然ながら、マヒマヒトランポリンは私の本名ではありません。個人名ではないが、偽名でもない。お店の正式名称です」

●吉野家はなぜ今になって?

富田さんは、吉野家が途中で「ルール」の告知をしなかった理由を推察した。

「憶測ですが、途中で発表したら、ハンドルネームとかニックネームとかを丼に入れようとした人が店に通うのをやめてしまう。それは吉野家にとって損なので、わざと黙っていたのではないでしょうか。

また、ネット上には、キャラクター名を入れて高額転売するなら困るという指摘もあった。そんなことをするとしても、達成者の少数じゃないですか。大多数の人との約束を告知なしで反故にするのはどうなのかというところもあります」

●マヒマヒさんは松屋が好きだった。しかし、吉野家推しになった

「私は元々、松屋が好きです。職場の最寄りも松屋で、次に近いのがすき家。遠いのが吉野家です。キャンペーンが始まってから吉野家推しです。

一番食べたメニューは、牛丼のアタマ大盛りと卵のセットです。牛すき鍋定食も多かった。

7月〜3月までの8カ月間で220日、ほぼ7カ月、吉野家に通う必要があります。始めるのに迷う暇もなく、さらには途中で立ち止まることすらできない。迷っている間に行き続けないと、丼がもらえなくなる仕組みです。

一番つらかったのは、まんぼう(まん延防止等重点措置)の間は、店は20時テイクアウトしかやっていません。私の店も20時までですから、テイクアウトしかできない。夜中に駐車場の車の中で牛丼を食べているときは、1人で牛丼を黙って食べさせるくらいのことは許してほしいと、吉野家とまんぼうに対する怒り半分半分でした」

●吉野家側の事情

上記の取材のやりとりをする中で、吉野家が公式サイトでリリースを発表した。

また、事前に送っていた編集部からの質問にも回答してくれたので、紹介する。

——投稿者がツイートした上記問い合わせのやりとりがあったことは事実でしょうか

「お客様相談室へ名入り丼に関する名前の質問があった際、やりとりがあったことは事実です」

——丼に入れられる名前を「ご本人様の名前」に限ることにして、家族、友人等第三者、キャラクター、タレント、ニックネームなどは使用できないと定めた規約・ルール等は存在するのでしょうか。キャンペーン開催にあたって告知はあったのでしょうか

「吉野家塾の特典ページ内よくある質問内に第三者への譲渡禁止の旨、記載しており、ご本人様の本名の名入れを前提と考えておりましたが、著名人の名前での申し込みなど著作権侵害の恐れが懸念される事態が複数生じました。伝わりづらい表現であったことをお詫び申し上げます」

「名入れ丼の特典権利者に入力いただく特典先配送入力フォームにて、ご本人のお名前に限る旨をご案内しておりました」

吉野家塾 名入り丼特典先配送入力フォーム 吉野家塾 名入り丼特典先配送入力フォーム

——マヒマヒさんとのやり取りの中で、「著作権その他の観点からご本人様の名前」にしているとの記載がありました。本人の名前でない名前を丼に使うことで生じる著作権に関するトラブルを想定されたものと思われますが、たとえばどのようなケースが考えられるでしょうか

「第三者の権利を侵害する言葉や不適切な言葉の場合、名入り丼を作成することは社会的道徳上制作をするべきではないと考えています。外部へ制作委託するにあたり、商標権等を有している言葉を利用する場合には知的財産権の侵害に該当する可能性があり、制作を依頼することが不可能となる場合が想定されます。また、受け取った名入り丼を第三者へ金銭を関連させた譲渡や売買をする可能性もあるため、ご本人のお名前での名入れをご案内しておりました」

——やりとりのなかで、『「本名実名の判断」に関して、貴社が「社会常識に照らし合わせて」判断している』と受け止められる内容となっております。本名の確認について、身分証やそれに類するものの提出をもとめることをしないのでしょうか。提出をもとめられない理由があれば教えてください

「ご本人の申告を正と考えているため、証明書の提出は求めていません。ただし、希少な名前で著名人と同一である場合は本名であると判断できないため、名前の変更を依頼しております」

●問題が解決したマヒマヒさんから

富田さんにはまだ吉野家から連絡はないというが、リリースを読む限り、希望の名前を入れることができるようになる見込みだ。

「なによりも希望通り(というか元々本来の状態)になってよかったです。ご協力頂いた皆様に心より感謝致します。ほかの方も救済措置が取られるのもとても素晴らしい対応だと思います。態度の部分は気になりますが、私はもう気にしないことにします。また今回私のせいで不快な思いをさせた方も多くいらっしゃるのでそれはとても心苦しいです。今後はキャンペーンの変更等は必ず変更した時点で告知するのが当然というようになるといいかなと思います」

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