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「安倍やめろ」街頭演説ヤジ訴訟、道警は「排除」を正当化できるか? 3月25日に判決
結審日の原告団(2021年12月24日)

「安倍やめろ」街頭演説ヤジ訴訟、道警は「排除」を正当化できるか? 3月25日に判決

「本件の争点は、被告の有形力の行使が警職法の適用で正当化されるか否かであると考えています」

札幌地裁の廣瀬孝裁判長がそう切り出したのは、その日で10回目の口頭弁論を迎えた国家賠償請求訴訟の法廷。2021年7月16日のことだ。

「言い換えますと、被告のほうが、有形力行使の正当性を根拠づける事実関係について立証責任を負っていると」

安倍晋三首相(当時)にヤジを飛ばすなどした人たちが複数の警察官に拘束された「首相演説ヤジ排除事件」。参院選期間中の北海道・札幌で起きた出来事はこの春、地元の裁判所で1つの結論に至ることになる。

警察の排除行為は適正だったのか、そうではなかったのか――。声を封じられた当事者らが起こした訴訟は昨年暮れに審理を終え、3月25日の一審判決言い渡しを待つばかりとなった。(ライター小笠原淳)

●「政権批判」の声を封じた道警

事件が起きたのは2019年7月。与党系候補の応援演説で札幌を訪れていた安倍元首相に「やめろ」などとヤジを飛ばし、あるいは批判的なメッセージを掲げようした人たち少なくとも10人が、警護にあたっていた警察官たちの手で現場から排除された。

ある人は複数の警察官に取り囲まれて意見表明を阻まれ、ある人は衣服や身体を掴まれて移動させられ、またある人は長時間にわたるつきまとい被害を受けた。いずれのケースでも警察官たちは法的根拠を告げず、ほぼ問答無用でこうした行為に及んでいる。

大杉雅栄さんが排除された瞬間(2019年7月15日夕、札幌市中央区)

現場では与党支持者とみられる人たちが安倍氏に声援を送り、また好意的なプラカードを掲げる姿が見られたが、こちらは誰一人として排除されていない。

形としては政権に批判的な声のみが封殺されたことになり、ほどなく地元法曹や市民団体などから「警察が実力で言論の自由を侵害した」と抗議の声が上がり始める。

排除当事者など約140人が参加した抗議行動(2019年10月22日夕、道警本部前)

●与党支持者との衝突回避のための「避難」だった?

のちに地元議会でこれが追及された時、答弁に立った北海道警察が引き合いに出したのが、「警察官職務執行法(警職法)」。

当時の演説現場では、安倍氏を批判する人たちと与党支持者たちとの間でトラブルが起きるおそれがあり、警察官らはそれを回避するため批判者たちを「避難」させ(警職法4条)、あるいは「制止」した(同5条)という理屈だ。

排除は「適法だった」と議会報告する山岸直人・道警本部長(2020年2月26日午前、道議会総務委員会)

冒頭に再現した裁判官の言葉は、この警職法適用が正当化できるかどうかを「被告」が立証しなくてはならない、という趣旨の発言だ。

ここでいう「被告」とは、北海道警察。ヤジ排除被害者が道警に損害賠償を求めているその裁判は、訴えを起こした原告側が排除行為の違法性を立証できるかどうかにかかわらず、訴えられた道警側が同行為の適法性を立証できなければ、その時点で原告が実質勝訴することになるわけだ。

●前哨戦はことごとく原告の負け

排除事件が起きてから2019年12月に裁判が提起されるまでの間、のちに原告となる札幌市のNPO職員・大杉雅栄さん(34)と同市の団体職員・桃井希生さん(26)は、考えられる限りの手段で警察官たちの行為の違法性を追及してきた。

しかし、おもに司法の場で問われたそれらの声は、国賠訴訟を除いてことごとく退けられることになる。

2人はまず、現場の警察官らを「特別公務員暴行陵虐」などで地元検察に刑事告訴したが、検察はいずれも「嫌疑なし」あるいは「罪とならず」として不起訴を決定。

これを不服として刑事裁判の開始を求めた付審判請求もまた、札幌地裁に相次いで棄却された。第三者機関である検察審査会への審査申し立ても、結果は「不起訴相当」。

排除の様子は大杉さんの知人を含む複数の目撃者に動画撮影されており、当該映像を確認する限りでは警察の主張する「与党支持者とトラブル」なる状況を見てとることは困難だが、各機関は道警の言い分をそのままなぞったような理屈で「(排除行為には)合理性があった」などとしている。

桃井さんが排除された瞬間

●道警は「ヤフコメ」を証拠提出

排除された人たちの異議申し立ての手段として、最後に残った国賠訴訟。先のお墨つきを得た道警は、ここで一種独特の立証活動を重ねることになった。

2年間にわたった国賠の審理で、被告の道警は「自前の証拠」をほとんど示していない。たとえば、先の映像。原告代理人らは訴訟支援者らの協力で複数の現場映像を入手し、そのすべてを裁判所に証拠提出している。

これに対し道警側は、警備・公安畑の警察官が撮影していたはずの自前の映像を一切提出せず、原告側の証拠映像を加工して立証活動に利用していた。

さらには、かつて本サイトでも採り上げた「ヤフーコメント」。道警はインターネット上の匿名コメント80通ほどを証拠提出し、現場に立ち会っていたとは思えない第三者の声をもって排除行為の正当性を主張したのだ。

のちにわかったことだが、道警には排除事件の発生直後から一般市民の苦情・意見が殺到、その数は2年間で900件を超えている。『要望・意見受理カード』などの公文書にまとめられたそれらの意見は、しかし、一件たりとも裁判に提出されなかった。

●尋問で警察官が不可解な回答

こうしたやり取りを経て、裁判官が「立証責任は被告側に」と告げるに至った国賠訴訟。この発言があった時点で、審理の山場となる証人尋問の期日がすでに決まっていた。

原告側は当初「関与した警察官全員」の証人申請を目指していたが、結果的に出廷することになったのは計3人。立証責任を負うことになった警察官たちは、この尋問で何度か傍聴席をざわつかせる証言を残すことになる。判事の発言から2カ月を経た、2021年9月9日のことだ。

その日、最初に証言台に立ったのは、JR札幌駅前で「安倍やめろ」などと叫んだ大杉さんを排除した警察官の1人。警備部門に17年半の勤務歴があるというその男性警察官が原告代理人による反対尋問に答えた貴重な証言を以下に引いておく。尋問の後半、警察官による実力行使の要件についてのやり取りだ。

――警職法適用以外に、警察官が有形力を行使していい場合は。

「あると思います」

――たとえばどういうものが。

「仮定の質問には、ちょっとお答えできません」

――一般的に、有形力を行使するには法律の要件を満たしていなければなりませんよね。

「…仮定の質問にはお答えできません」

ここで、小さなどよめきが起きた。質問を向けた弁護士は、あきらかに驚いた表情。投げかけた問いはもちろん「仮定の質問」ではない。法の要件を満たさない実力行使は当然、違法だ。問答は、さらにこう続く。

――要人警護のためであっても、警察が有形力を行使するには法律の定める要件を満たしていなければならないと思うんですが。

「…個別の法解釈については回答できません」

――一般論として、法の要件を外れて有形力を行使する場合があり得る、ということですか。

「警察官は、飽くまでも現場で適切に対応します」

本来「はい」「いいえ」の二択で回答すべきところ、いずれも実質無回答。現職警察官ならば当然、1つ目の問いには「はい」、後の問いには「いいえ」と即答しなければならなかったはずだ。

●「こんな人たちに…」発言を知らない警官

こうした対応は、2人目の証人として出廷した警察官にも共通するところがあった。大通地区で大杉さんの排除にあたった男性警察官は、反対尋問の冒頭で次のように無回答を連発することになる。

――ヤジは憲法上、やってもいいという認識でしたか。

「個別の法令解釈については、お答えしかねます」

――いや、あなたの認識で違法か適法かと。

「個別の法令解釈については、お答えしかねます」

――違法か適法かわからなかったら、現場で対処できないんじゃないですか。

「…法令に基づいて適切な判断をしたと思っております」

――うん、法令に基づいて判断してますね。ヤジは適法ですか。

「ヤジがあったか否かという問題ではなく、大声を上げて興奮した人が安倍前総理の街宣車に迫ってきたので…」

――興奮しないで飛ばすヤジだったらいいのね。

「…仮定の質問にはお答えしかねます」

模範的な警察官ならば「ヤジは適法」と即答するところ、証人の警察官がこれを避けた理由は測りようもない。このやり取りの直前、彼は誰もが知る事件を「知らない」と答えて傍聴人らの苦笑を招いている。次のような問答だ。

――東京の秋葉原で何年か前、安倍首相の街頭演説に多くの人がヤジを飛ばして、安倍氏が「こんな人たちに負けるわけには」と言った事件はご存じですね。

「認識はありませんでした」

――えっ、あなた警備を担当されてますよね。…知らなかった?

「はい」

安倍元首相の「こんな人たち」発言があったのは、ヤジ排除事件の2年前。新聞・テレビが繰り返し報じたその出来事を警備・公安部門の現職警察官が知らなかったというのだ。

●法廷でひときわ大きな笑いが起きた瞬間

最後に証言台に着いたのは、「増税反対」などと叫んだ桃井希生さんを演説現場から排除し、さらに1時間半にわたって桃井さんにつきまとい続けた女性警察官。

被害を受けた桃井さんは、警察官らの言動を自らスマートフォンで動画撮影しており、尋問に際してはその映像の一部が法廷で再生された。これに基づく問いに、女性警察官はどう答えたか。

――あなたと、もう1人の女性巡査部長、「ウィン・ウィンの関係になりたい」と言ってますね。これ、何の意味ですか。

「…まったく憶えていなくて、何を意味していたのかはお答えできません」

――「ジュース買ってあげる」と発言したのは憶えてますか。

「…憶えております」

――なぜ買ってあげようと。

「原告女性は非常に興奮状態で、早口になったり赤い顔をして、過呼吸でもあったので、落ち着いて貰う手段として、何か飲まないかと」

――本当におごってあげるつもりだった。

「…もし本当に飲みたいと言われたら、上司に相談するつもりでした」

たびたび苦笑が起こっていた傍聴席で、ひときわ大きな笑いが漏れたのがこの「上司に相談」発言が出た瞬間だった。

●「問われているのは言論・表現の自由」

結審後の会見(2021年12月24日)

提訴以来13回にわたった審理が終結したのは、2021年12月24日。原告の大杉雅栄さんは、最後の意見陳述で「裁判の争点は警職法適用が適切だったかどうかにある」と述べつつ「しかし」と言葉を継ぎ、「問われているのは個別の法の論点に留まるものではない」と指摘した。

「政府の最高権力者を名指しで批判する言論・表現の自由が認められるのかどうか。違法な暴力で言論弾圧を行なった警察が裁判所に裁かれるのか、それとも治外法権が追認されるのか。つまるところ、この国は民主主義を続けるのか、それとももうやめるのか。それこそがこの裁判を通して本当に問われていることであると思います」

続いて陳述に立った桃井希生さんは、言論の自由があらゆる立場の人たちに認められる社会の実現を訴えた。

「政治的な意見表明は、政治家など一部のエライ人だけができるものではありません。肩書がなく、組織もなく、友人さえいなくても、どのような人にでも表現の自由はあります。それが人権というものだと思います。さまざまな不平等、あきらかな差別がはびこるこの社会では、それに抵抗する声を上げなければ、私たちは尊厳を持って生き続けることはできません」

何度も述べた通り、立証責任は警察側にある。「安倍やめろ」「増税反対」などのヤジを排除し、また与党批判のプラカード掲出を阻止した警察官の行為は、警察官職務執行法の要件を満たしていたのか、いなかったのか。

当時の対応の適正性は、警察官の尋問やヤフーコメントでどれだけ裏づけられたのか。裁判所の判断は、目前に迫る一審判決まで待たねばならない。

●「かえって安倍氏の評判落ちた」与党支持者が道警批判

結びに、事件後に道警が受理した市民意見の一部を採録しておきたい。

先述した900件超の意見に眼を通すと、ヤフーコメントとは異なり全体の9割以上が排除行為に否定的なものだったことがわかる。その中には与党支持者とみられる人物からの声もあり、いずれも公正中立であるべき警察に苦言を呈する内容だった。

《警察は寛容の精神が必要ではなかろうか。日々の警察の態様をお考えください。総理もお気の毒だ》(19年7月17日受理)

《俺は、自民党に投票しようと思っていた。安倍さんがわざわざ北海道まで行っているのにこんなことがあれば、逆に選挙妨害だ。自民党に投票しづらくなるだろう》(同)

《困ります。自民党の人だって総理だって困るじゃないですか。おかしいですよ》(7月18日受理)

《僕は、自分の信条は自民党だけど、警察のこの措置はおかしい》(同)

《一般人相手に情けないやろ。しかも国民に与える無意識下の心理的作用を考えたら、国益を損なっていくやろう。この国賊が一丁前に愛国者ヅラしてんじゃねぇ!》(7月19日受理)

要望・意見受理カード

排除3カ月後には、警察相談課の警部補が次のような意見の電話を受けていた。政権との間に一線を引いていたかつての警察の逸話を示し、原点を忘れたかのようなヤジ排除対応を叱咤する内容だ。

《1960年の安保闘争の時ですね、銃弾を使ってでもデモ隊を抑えろって言ったんですよ。当時の首相、岸信介が。安倍総理のおじいさんですよ。そしたら、柏村警察庁長官が首相に向かって、それはおかしい、民意はあなたが辞めることを求めているって言ったんですよ、首相に向かってですよ。47都道府県の警察本部長は、長官に血判状を送ったんですよ。これが民主主義ではないですか》

【編注:官公庁資料編纂会編『日本戦後警察史』(1997年)は、朝日新聞記者だった鈴木卓郎の著作を引きながら、岸首相と柏村長官とのやりとりを紹介している。デモ隊の排除を強く求める岸首相に対し、柏村長官は「国民の声を無視した姿勢を正すことしかありません」と進言。全国の本部長から「首相が長官を罷免するのなら、自分たちは一斉に辞職する。警察庁は政府に屈するな」という旨の電報が寄せられたという】

国賠訴訟の一審判決は3月25日午前、札幌地裁で言い渡される。

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